第84話 Midnight drive
「ふぅ、こんな大事なこと一人で抱え込まないの! お馬鹿ぁ!」
次いで聞こえてくるかすみの涙交じりの声。
あぁまたみすったなぁ……。
ほんと嫌になる。
今日はどんどん自分が嫌いになる。
「…………ごめん」
「…………まぁいっか、それは後でも」
うん。
うん?
…………
後でも?!
え、それよりも前にお説教されることあるの?!
普通に怖くなってきたが?
「……今どこにいるの?」
「…………え、一応近所の公園だけど?」
「近所の公園あぁ分かったぁ、すぐ行くから待ってて」
すぐ行く…………すぐ行く…………ってえ?
「かすみも外出てくるの? こういっちゃなんだけど寒いよ?」
「大丈夫だから!」
こうなったらもうかすみは聞かない。
昔から分かっているからそこを説得するのは諦める。
「わかったわかった、家まで迎え行くから待ってて。流石にこの時間に女性一人で出歩くのは危ないから」
「え、でも……」
「だーめ、夜間の一人歩きはあぶないからさ。これで何かあったら俺が悔やんでも悔やみきれない……から」
むむぅと…………唸るかすみ。
いいカウンター打てたんじゃないかな?
「その気持ちはすごくうれしいけど…………でもそれ言ったらこんな真夜中に巧が来るのもなかなかに危ないんじゃ?」
それはそう。
でもここは俺も譲れないしな。
「…………あ、分かった。それじゃ巧には申し訳ないけど、お言葉に甘えて、私を迎えに来て? でそのまま気分転換しよ?」
き、気分転換?
…………え?
気分転換ってなに?
2時間サスペンス視るとか?
さ、流石にそこまでの余裕は俺もないけど。
今はかすみと話しているから、ましだけど。
過去にしたことのある気分転換っていえばあとは…………もう。
え?!
ま、まじ?!
鬱っクスって感じのやつですか?
さ、流石に。
…………お風呂も入りたいし?
俺があまりのことに困惑していると、電話を繋げたままのかすみが一言。
「考え込んでないで早く迎えに来て? 待ちすぎて私がおばさんになっちゃうよ?」
過去の意趣返しとばかりに、ここぞとばかりに言ってくるかすみ。
「…………急いでいきます! お姫様!」
「うむ、よろしい!!」
まぁ行けばわかるか!
ひとまずはいそご!
コーヒーの缶を捨てかすみの、佐倉家の家へ。
公園からは歩いて10分ちょい。
急げば5分程度。
家に着くと、そこには1台の車が。
あれ? 誰か来てる?
なんてことを想ったらサイドウィンドーが開き、運転席から。
「お兄さん、私の車のってく??」
眼鏡をかけ、仕事スタイルのかすみが顔を出していた。
なんというかオフィスレディみたいで、いつもと印象が違う。
髪もサイドに一つに束ねているし。
THE・大人の女って感じがする。
下手したら20代後半の色気があるよね。
まぁ乗っている車もツーシーターのスポーツカーだから余計雰囲気が助長されるのかもしれないけどね。
え? この車どうしたの?
そんな疑問を考えながらまじまじと見ていると、かすみが再度声をかけてくる。
「……は、早く乗ってくれると嬉しいかなぁ?き、近所迷惑になっちゃうから、さ?」
困ったように笑うかすみを見ると、大人っぽくてもやっぱりかすみなんだなと再度実感した。
「ご、ごめんごめん今乗る」
慌てて助手席に座りシートベルトを。
「それじゃいこっか!」
車はそのまま、発信しいずこかへ向かっていく。
車内は暖房が効き、だんだんとあったかくなってきている。
「…………これどこ向かってるの?」
「んー、とくになーい」
「と、とくにない……」
「しいて言うなら深夜のドライブ? やっぱ深夜に話をするなら社内でしょ?ほら2時間ミステリーでも密会とか車の中でやるでしょ?」
それ、お金の受け渡しとか、薬の受け渡しとか、犯人に会いに行ったりするやつじゃね?
てか鬱っクスってそんなわけないだろあほか!
「ま、まぁ。あと安全に今の時間に誰にも聞かれないってなるとうちも巧みの家も誰かしらいるから、ラブなホテルしか思いつかなかったんだけど、そこ言ったら、元気ない巧を物理的に元気にしちゃいそうで、遠慮しました! 英断だね私!」
案外危なかった。どうやらかすみも少しは考えられたらしい。
そんなをしていると、かすみが「ちょっと止まるねー」と言ってコンビニへ。
飲み物とか計軽食をそれぞれ少し買って、再度車内へ。
エンジンをつけ、再度発進。
……
…………
………………あれ?
「行かないの?」
「巧…………手みして?」
…………あ。思い出した。
そういえば俺左手…………
無言ですっと右手を差し出す。
「こーら嘘下手か。不味ったって顔したでしょ。左も! もう絶対左でしょ怪我したの」
「っ?!」
触られた痛みに反応したてしまった。
拳を見られれば、うわちゃんと青くなってるわ。
これ長引きそ~。
「ほらやっぱり。これ絶対痛いやつじゃない! なんか来た時も左手をかばってる気したんだよね。車のドアもわざわざ入りづらいのに右手で開けてたし。 ほら一応湿布買っといたからそれ貼るよ? もうこういうのほんとは最初の処置が肝心なんだからね?」
そう言いながらも丁寧に青あざで来たところに湿布を張ってくれる。
「もうちゃんと自分の身体は大事にしなさい!」
めっと軽く左手をたたかれる。
軽くなのに、かなり痛い。
「それで~この怪我はどうしたの? 私と最後に会った時にはなかったよね?」
かすみの眼を見れば有無を言わさない目をしてた。
もう観念した。
かすみは再度車を発進させる。
お互いに前を向いたまま。
「…………あの女が残していった離婚届を見て、出て言ったら怒りがこみあげて何度も離婚届をたたいたらこう!」
その話を聞いて、かすみは一言
「もうお馬鹿!」
でも今回は続きがあった。
「でもあれだね? 巧は多分最後のところで抑えが効いたのね」
「…………え?」
「ってことは無意識かな?だって利き腕で殴っていないってことはそう言うことでしょ? だからギリギリ。お義父さんにも今話したらまずいって理性が働いてたみたいだし、右手が使えなくなったらいろいろ困るとかどこかで考えたんじゃないかな?」
かすみは運転し、目線は前を向けたまま…………
「教えてほしいな詳細に今回のことを、何があったのか。…………話したからって、問題を解決してあげられる、とかは口が裂けても言えないけど、きっと苦しみを共に背負ってあげることは出来るはずだから。それで少しは心が楽になるはずだから。 いつも二人は一緒、どこにいても。これはそう言う意味でしょ?」
かすみが右耳をなぞる。
そこには見えないけど、きっと俺の左耳についているのと対のお揃いのシルバーのピアスが。
二つでハートになるピアス。
二つで一つ。
二つがないと完成しない、か。
「…………そっか、かすみには弱いところも見せていいんだったっけ」
「そうだよ? それにそんなの今更だし。最初にかっこ悪い所もいーっぱいみせてもらってるしね?」
「いーっぱい?ちょっとじゃない?」
そんなに見せていないと思いたい。
でもそれはかすみに否定される。
「そ、いーっぱい。 全て知ってて、巧のそのすべてが好きなんだから、さ。 だから隠さないでよ。…………その方が悲しくなる。かっこつけるなんて外で適当につけてくればいいんだから、さ。私の前でだけはホントを見せて? ここにはあなたを傷つけるものはないから。安心して話して?」
「そうだな~……色々あったんだ」
俺の頬をほろりと流れるこれはきっと…………汗だな。
俺はゆっくりと今日までのことを話し始めた。
かすみはただ静かに聞いていた。
車内には俺の声と、BGMでクリスマスキャロルの歌が響いていた。
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久々に以前の投稿時間に投稿できた!!
もう大晦日か……。
早いなぁ。
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