第83話 「お馬鹿!」
近所の公園のブランコで揺られながら考えをめぐらす。
さすがに冬だけあって外気かなり冷え込んでいる。
ブランコの鎖は、キンキンに冷えており、触るには凍えそうだ。ただその冷たさが酷く心地いい。
さっきまでの爆発するような感情も今は落ち着いている。
ブランコをこぎながらも思い出すのは家を出る前の親父の言葉。
「……あいつは……真澄は……浮気……していないと思うんだ」
意味がわからん。
なんでわざわざそんな嘘をつくんだよ。
そんな嘘をつくような意図がわからない。
良くも悪くも、あの人はそんな意図を隠して本心をごまかすような、そんな繊細なことが出来る人じゃなかった。
だから俺は手紙に書いてあることも真実だと思ったんだ。
ブランコを飛び降り、近場の自販機でコーヒーを買う。
コーヒーをがぶ飲みして、無理やりに頭を冴えさせる。
そもそもだ。
たとえ浮気という理由が仮になかったとしても、家を出ていったという事実は変わらないんじゃないか?
ということはただ単純に出て行っただけとも考えられる。
ただ俺らを捨てただけ、もしくは見限った、も可能性は考えられる。
それで一番俺らを納得しやすいのが、浮気したと連想させること?
「あぁくそっ」
考えているだけで嫌になってくる。
事実だけで考えよう。
浮気であろうがなかろうが、それはただ出ていった理由が変わるわけだ。
結果そのもの、母さんが出ていった事実変わらない。
それに母さんのあの時のは本当に離婚したそうに見えていた。
それは本心だったと思う。
…………なら結局俺の言うことは変わらないんじゃね?
親父を離婚させる。
いつまでも過去の幻想を、優しかった母さんを追い求めるのはたぶんきっと無駄だろうから。
いつかきっとまた親父にも素敵な人が現れる。
過去を振り切ってさっさと新しい道に行った方が建設的だ。
と少なくとも俺は……思う。
そこまで考えて、スマホが光っているのが見える。
送り主はかすみ。
かすみん:
【お父さんとの話おわったー?】
Takumiii::
【まぁ一旦は……かなぁ?】
かすみん:
【そかそか!じゃあ気分転換にワンコールど?】
Takumiii::
【…………なにその一杯いっとく?みたいな感じ笑】
Takumiii::
【いっとくけど……】
かすみん:
【素直じゃないなぁ全く(^▽^)/】
すぐに電話してくれるかすみ。
「もしもーし」
いつもより少し陽気な声。
そういえば昨日は話していないから、一昨日振りか。
声を聴くだけで、荒んだ心が癒されていく気がする。
「……もしもし?」
「あ〜」
「あ…………?」
「…………ど、どした?」
なんかあったのかな。
何かを思い出したような。
なにかに気づいたような。
「……お父さんとの話し合い終わったー??」
何事も無かったように、かすみは続けてくる。
「一旦休戦…………って感じかな?」
まあ休戦と言っても戦いにすらなってなかったけど。
結局あたり散らしたみたいになってしまった。
普通に自己嫌悪だわ。
「……え?旅行の話で休戦って。そんなにバトったの?」
「あ〜」
旅行。
そういえばそんな話もあったな。
本当に行くのかな。
今の状況だと気まずすぎて普通に行きたくねぇ。
「そ、そうそう――
「…………巧?」
「は、はい」
電話越しに、笑顔だけど眼が笑っていないかすみの姿が想像できた。
これ以上はごまかしきれないかな?
「…………私、嘘は嫌いだよ?」
「…………はい」
観念しよう。
もうこれ以上心配をかけたくないからなんて言ってらんないな。
何かあったことに気付かれてるんだもんな。
「…………分かった、はなすよ」
「……ありがと」
「でも先にいっておくと、話さない気はなかったんだ、今後話すつもりではあったんだ。それは信じてほしい」
「うん」
そう、それは本当。
心配をかけたくなくて、ただそれだけ。
「ただある程度解決の目途が着いてからちゃんと話そうと思ってたのは本当なんだ………… あとはやっぱり惚れた人にはかっこ悪いところは見せたくないっていう、醜い虚栄心かな?…………まぁただの言い訳だけどね?」
「巧も普段すごい理知的だけど、そう言うの聞くとやっぱり年相応の男の子って感じするね?…………あ、もちろん夜も十分だけど? 要望いうならもうちょっと長く多く…………」
これでも頑張ってるんですけどね!
はい、もっと頑張ります。
「でも男の子なのも時と場合だからね? 大事なことは相談してほしいから、さ」
「…………はい」
「それで? どうしたの? 教えてほしいな?」
首をこてんと傾けてるのかな?
なんかそんな感じする。
あー。言ったらおこられそ…………もう言うしかないけどさ。
「端的に言うね?」
「うん」
ふぅ。
一旦深呼吸して。
「昨日かな?いつも通りに学校で授業を受けて、進路どうしようかな、とか考えててさ」
「あ。帝大以外にも考えてたんだね?」
「うん。まぁ一旦ていう感じだけど」
「うんうんそれで?」
「それでいつも通り帰ったて家に着いたら、親父じゃなくて……」
「うんうん」
「母さんがいて、今日そのこと親父に話して、なんで離婚しないのかって言い放って、頭冷やすために出てきた。今ここ」
「うんう……………え?」
電話の向こうのかすみが固まっている気がした。
そりゃそうだよな、おれでもこんなこと言われたら絶句する。
「展開早すぎて、聞き間違いかもしれないからも、もう一回聞くね?」
あ、かすみもあせってるな。
「うん」
「おうち帰ったら巧のお母さんがいて」
「うん」
「今日そのことお義父さんに話して」
「うん」
「そのことで離婚しないのか聞いて喧嘩した、と」
「喧嘩というより一方的に言い放った感じかな?」
「なるほど…………え?巧大丈夫?こないだ真希の時には吐いてたでしょ?トラウマは?」
「まぁ一応……話しているときは冷汗は止まらんかったけどね。なんとか?」
たぶん突然すぎてトラウマとか考えている余裕すらなかっただけだけどね?
「そっかよかった、じゃあとりあえず一言」
「…………うん」
あー嫌な予感。
「ふぅ、こんな大事なこと一人で抱え込まないの! お馬鹿ぁ!」
涙ながらのかすみの声が聞こえてきた。
またミスっちゃった。
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かすみとのいちゃこら書くのは楽しいなぁ。
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