第82話 意味わからねえよ
「母さんの今の姿も知らないくせに、好き勝手言いやがってッ! 結局は夫婦間の問題だろこれ! 俺を仲介にするなよ糞が!なんだよ言っておいてって! こんなのてめぇらでやっとけって話だよぁぁッ?!なんで俺があんたらの間に入んなきゃいけねぇんだよ。子は夫婦の鎹なんてよく言ったもんだなぁおい?!こんなの勝手に二人でやってろよ! あほらしい」
俺がぶちぎれるのを聞いて、親父は端的にただ一言。
「……そうだよな……すまん」
親父が俺に頭を下げた。
それを見た瞬間、冷や水を浴びせられた気分になった。
やっちまった。
あのひょうきんで、時には冗談を言って、かすみをすぐさま迎え入れてくれて、一緒に鍋を食って。
俺らをいつも肯定してくれていた親父が、妻のことで頭を下げていた。
深く深く。
普通なら、子供にする必要のない謝罪だった。
親父が頭を90度に曲げて謝っていた。
頭を下げさせた。
《《》》俺が頭を下げさせた。
だからこそ冷静になると同時に怒りも出てくる。
親父が悪いところももちろんある。
元を言えば母さんが、あの糞女が全て悪いわけじゃないなんてことは分かっている。だから親父も謝っているだろうし。
そうなった要因は確かにあった。
だからってあの女の行為がまた正当化されるわけでもないんだ。
…………でも親父は必要以上に責任を感じているんだろう。
そんなことは分かっていた。
分かって、話していたはずだった。
だから方針だけを聞けばよかったんだ。
理由を聞ければ俺はよかったんだ。
なのに俺はここぞというばかりに感情の抑制に失敗した。
昨日あの糞女に同じようなこと言われたばっかなのにな
なんだっけか。
ああ。
【あんた普段は頭いいのに、肝心なところで馬鹿だから気をつけなさいよ】
だったかな。
正にその通りだ。
ほんと、大馬鹿野郎かよ。
でも俺はもう我慢できない。
「謝ってもしょうがないだろ!!俺に謝って済む問題なのかよ!!…………違うだろ!!」
「…………そうだよな、すまん」
だからさ!!
「な・ん・で!……離婚しないのかって聞いてんだよ! だってどう考えてもそうだろ? あの女とまだ籍を入れている必要ないだろ?!浮気したんだぞ?!裏切ったんだぞ?!その辺わかってるのかよ!!」
「…………ああ分かってる」
親父に似合わないか細い声。
ああくそっ。
分かってるよなぁそりゃぁ。
分かっているんだよなぁ?!
「…………じゃあなんでだよ!!」
「…………なんで…………理由かぁ。そうだよな、理由だよなぁ」
親父は思考をめぐらせる。
でもそれでさえも無性に腹が立つ。
「悩むことか?…………こんなの即答することだろ!?」
「うんまぁ世間一般ではそうなんだろうな…………そうなんだろうけどうーん」
悩むその姿が絶妙に苛つく。
なんだ世間一般て。
つまり親父は違うと、そう言う訳だよな。
なんで親父がこんなに真剣にあの母親のことを考えなきゃいけないんだ。
相手は何にも考えていないっていうのに。
納得できない。
理解できない。
なんでだ
どうしてだ。
「うんそうだな」
親父はいったいどのくらい考えていただろう。
まぁまぁ長かった気がする。
うんと、一つうなずき。
「信じたくない、信じられないからだな」
悩んだ後に親父は自信満々に拍子抜けした答えを言い放った。
は。
「…………は?」
な、なんだ。
信じたくないって。
そんなことあるか?
「し、信じたくない?」
「ああ」
え、あ。頭大丈夫か?
「信じたくないって、出ていったのは事実だろ?」
「そうだな。でも好きなんだよ、それでも好きなんだよあいつのことが。裏切られたかもしれない、愛想衝かされたかもしれない。だから改善できるようにした。あいつのことだけじゃない。お前のことも考えて」
「はぁ?」
意味が分からない。
改善とかそれこそ今更じゃないか。
「忙しいから話す時間作れなかった、だから今更それを治したってか? 戻ってきてほしいから?!バカか!おっせぇんだよ!治すなら手遅れになる前にやれよ!今じゃ意味がないだろ!!」
「手遅れ……か」
「全部が全部おっせぇんだよいつもいつも今日も!全部!!」
どうしてだ?
どうして俺の言葉は止まらない。
「そうだなもっと大事にすべきだった。……………言い訳になっちまうがな、俺は仕事して、仕事して、お金を稼ぐことが一番お前らの幸せになると思ってたんだよ。何不自由なく暮らせるようにってな、だから頑張った、頑張ってた。だから気付いてやれなかったんだよ。……………もっとうまくやればよかったのになぁ。バカだよなお俺も。ほんと」
哀愁漂いながら、悲しく笑う。
「ああほんと大馬鹿だ。その結果妻も幸せも全部逃がしてるじゃねぇか」
こんな言葉思ってても、言うつもりないのに。
親父を傷つけるつもりなんてないのに。
「まだ。まだ終わりじゃないんだ」
往生際の悪い。
もう聞くに堪えない。
「はぁ、頭冷やしてくるわ」
玄関で靴を履き、そのまま外へ。
扉を閉めるその刹那。
父さんの口が動いた。
「俺……あいつは……真澄は……浮気……していないと思うんだ」
なんだそれ。
そんなあんたにとって都合いい話あるかよ。
なんだよそれ。
じゃあなんで出ていくんだよ。
意味わからねぇよ。
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次回癒しカミング!
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