第81話 実父
結局昨日親父は夕方になって、何食わぬ顔をして帰ってきた。
とはいっても、昨日は俺が話すのはどうにもきつくてはなさなかったが……
あのまま話していたら親父にすべてをぶちまけて八つ当たりしてしまいそうだったからいうのは止めた。
きっと昨日の俺はかなりささくれ立っていたし。
伝える内容は、親父をただでさえ傷つける内容なのに、そこで俺が追い打ちをかけるのは流石に憚られた。
……一旦冷静になる時間が欲しかった。
一晩寝て、学校に行って、何気ない日常をすごして。
授業を受けて、でもふとした時に押し寄せてくるの昨日の光景。
母親の眼差し、言葉。
それを思い出すとむかつくし、いらつくし、なによりもきつかった。
今日の学校はなかなかに悲惨だった。
胃に何かを入れなきゃと思って、ご飯も食べたがすぐに戻した。
胃が何も受け付けていない状態っぽい。
貧弱かよ俺。
拳も幸い、少し青くなっただけで、痛いんだけどさほど痛みなんて気にならなかった。
何ならその痛みが、自罰的でちょうどいいとまで思っている。
やばいな俺。
真希とかにばれると芋づる式でかすみにもきっと心配されるだろうから、教室ではいつも通りふるまった。
多分振る舞うことは出来てたはずなんだけど。
「あいつ変に勘がいいからなぁ……」
まぁ今日はぼろ出してないはず。
多分流石に。
うん。
何日もは隠せないかもだが数日隠せればそれでいい。
後は俺の心の処理が終われば、事後報告できるだろう。
そしたら無駄な心配もかけない。
そんなことを考えているタイミングでちょうどスマホが光る。
かすみん:
【今日電話……しよ?】
お、おおっと。
いやいやばれていないはず。
朝もいつも通りライン返したし。
だからこれはいつも通りのライン。
今日ご飯の誘い、申し訳ないけど断っちゃったからなぁ。
多分それでだろ。
かすみにはこれ以上親のことで心配かけたくないし、仕事もあるだろうしな。
これは俺がなんとかしなきゃ。
Takumiii:
『おっけ!!親父との話が終わった後でもいいなら、ちょっと時間読めないから、終わったらラインする!寝ててもいいからね~』
かすみん:
【りょかーい】
かすみん:
【猫が敬礼するスタンプ】
かすみん:
【何かあったら言ってね】
最後の一言にドキッとした。
何気ない一言がすべてを見透かしてる気がした。
俺が寝てていいよって、いってもかすみはおきてそうだよなぁ。
なんかかすみはそんな気がする。
親父との会話が早く話が終わるといいけど、多分無理だろうな。
内容が内容なだけに、かなり長くなりそう。
まぁそこは出たとこ勝負ってやつで。
スマホをポケットにしまい家へ。
家に入るのに無駄に緊張してしまうのは昨日家に母親がいたからか。
「……た、ただいまー」
家に帰ると親父はもういた。
ちゃんと親父しかいなかった。
まぁ当然だけどさ。
でも今まで親父が俺の帰宅時にいたことなんてなかったから普通に違和感でしかない。
あ、一回かすみとなぜか鍋食べてることはあったか。
いまだになんでそうなったのかは謎だけど。
「おけーり」
何気ない普段通りの会話。
これで何気なく母さんのことを言えば……
「ん?どした?なんかあったか?」
「な、なに?」
「お前
どこか懐かしい姿を見るように親父は笑う。
「で。なにかあったのか?」
俺嘘つくのそんな下手かな?
ポーカーフェイスだと自負してたんだが?
なんてことを言ったらふっと鼻で笑われる。
は?
まぁ親父が緊張している俺を見て、話を振りやすくしてくれたと思おう。
ふぅ。
「……昨日親父仕事行ってたじゃん?」
「おう、まぁ一瞬だし、すぐ帰ってきただろ。 あ、お前帰ってきたときは寝てたからいつ帰ってきたのかわからんか……」
「いやまぁ起きてたけど」
「ならただいまくらいいえよー、かすみちゃんはいつも言ってくれるから久々に暗い家に帰ってきて寂しかったぞ☆」
きっも。
「きっも」
「言葉に出てるからな?」
いい年した親父が☆つけてるんだぜ?
そりゃそうなるわ。
「もう少し早ければお出迎えあったのにな」
「オマエの?」
露骨に嫌そうな顔をするなくそ親父。
「いや」
「あ、じゃあかすみちゃんか? ほんとあの子いい子だよなぁ……礼儀もちゃんとしててな」
何も知らない親父は無邪気に笑う。
それがどうにももどかしくて。
「いや…………母さんの」
何事もないかのように、事実を端的に言った。
「そっかそっか、お前と……は?」
親父の笑顔は凍り、そのまま沈黙。
「母さんが来たよ。ああ、元、かな?」
そのまま話を続ける。
それでも親父は変わらず沈黙。
何かを深く考えている。
そして口にしたのは疑問だった。
「……あいつは何しにきたんだ? 家に戻ってくる……ってわけじゃないだろう? 今いないしな? 手紙でも戻ってくるつもりはないって書いてあったのに」
久々に親父の一切余裕のない表情。
さっきまでの笑顔はどこへやら。
まじめな顔をしている。
「別に俺が言わなくてもある程度が察しているんじゃないか?」
「まさか……」
俺の言葉にはっとした様子の親父。
「……親父がこないだ俺に隠した届いた書類。離婚届だよな、あれまだ出してなかったんだな。 もうてっきり役所に出しているものと思っていたよ」
「……………」
重い沈黙。
「なんで?……どうして離婚届、出さないんだ」
冷静に。
冷静にだ。
落ち着け。
純粋な疑問を投げかけろ。
それだけに終始しろ。
それ以上を考えるな、考えたらきっと…………
「……母さんの様子はどうだった?」
なにかを思案するように、言葉を選ぶように、親父は声を発した。
俺の質問には答えない形で。
自分のききたいことだけを聞いて。
でもさぁそれはずるくないか?
「いらいらしてたよ、親父が離婚届を出さないから」
「そっか」
なんでだよ。
どうしてそんな顔してんだよ。
あんたはもっと怒るべきじゃないのか。
裏切られたんだぞ?
妻の話だろ!
余りにも、余りにもその反応は違うだろ!
「元気にやってるんだな……」
そんな反応は……あまりにもちげーだろ!
「…………なぁ親父」
「…………なんだ?」
「あんた悔しくはないのか?」
「…………ああ悔しいさ」
そうかそうか。
でもな。
「俺にはそんな顔にはとても見えねーけどな? 他の男の元に奔った、俺らをごみのように捨てた、今までのすべてを否定された! なのにッ!!」
親父の顔には悲しさも悔しさも怒りもすべてを内包していた、だが一番大きかったのは……
「なんで安堵してんだよ、あんた」
安堵だった。
どこかほっとしていた。
どうしてだよ……
「安堵……か。確かにしてるかもな、書類だけ送られてきても本当のあいつ様子は分からなかったから、さ。生活は出来ているみたいで良かった。なんでだろうなぁ俺はあいつをまだ………」
その目は裏切られた今も自分の妻を信じていると雄弁に語っていて。
それほどまでに夫婦の絆は強いのかもしれない。
大人の事情っていう糞みたいなものがあるのかもしれない。
まぁでもあんたの妻は別れたいって言ってたけど。
「巧、確かに俺はまだ離婚届けを出してない。というか出す気は今のところない」
親父の眼はもう決意していた。
「……は?」
「離婚をするにしても、ちゃんとお互いに話し合って決めるべきだと俺は思ってる。こんな言い逃げの形は違う!」
「話し合うなんて、もう終わった関係なら、早く離婚したほうがいいだろ?もうそんな時期は過ぎたんだよ」
「終わった、ならな。でもその終わったというのも話してみなきゃわからないだろ? だからまだ応じるつもりはない………………すまん、おまえにはいつも苦労を掛けるな?」
最後には申し訳なそうに労わるような親父の言葉。
…………は?
…………あんたがそれを言うのか?
…………ここで?
…………もうだめだ。
俺の感情が爆発した。
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年末年始ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃッ!!
ストックキレかけてまs。
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