第80話 あの時と同じ(sideかすみ)

 巧に抱いたほんのちょっとの違和感。

 手間をかけてしまうのはエミちゃんに申し訳ないけど、私の中で巧が最優先だし、何かあったら嫌だから聞かせてもらった。


 まぁ快く了承してもらったけど。

 今度キャラメルマキアーテスタバフランぺチーノデラックスのほかに、東京いちごとおかしもあげようっと。

 エルには内緒しないと食べられるからこっそりと。


   藍沢しか勝たん:

 【今日一日巧君見てましたけど、結構いつも通りでしたよ?適度に会話して、冗談とかも言い合って。笑ったりしてましたよ?まぁたまに目に光がなくなっているときもありましたけど、最近進路で悩んでいるとも言っていたので、その辺かなって】


   かすみん:

 【そっかそっかぁありがとう!あぁいいなぁ私も高校生活に戻りたーい】


 巧は大丈夫……なのかな。

 エミちゃんを信じればそうなんだけど……でもなぁ。

 うーん放課後一回電話でもしてみよ。

 

 でも高校生かぁ、同じ教室良いなぁ。

 高校生の時だったら私が3年生で、巧が1年生。

 あぁそんな世界戦があったら放課後プレイとか、制服プレイとか、色々その時にしか出来ないこともあったのになぁ。

 ………いやよくよく考えたら別にそれは今でもできるくない?


 なんなら放課後巧を車で迎えに行って出来るお姉さんを演出するのも良くない?


 あれ?

 あれれ?


 こーれありなんじゃないかしら?


 そのまま温泉地帯に宿でも取っておいて二人でまったり個室露天風呂とか?

 温泉でその流れのまま?


 うーん。

 控えめにいってありよりのありかな?


 思い立ったら吉日。

 恋はハリケーン!


 って誰かも言っていた。



 「でも今日行くのはだめだよね、あまりに計画性なさすぎるしある程度準備したいし……うーん、でも年末は彼お父さんと二人旅だから……終業式とかのあととか、クリスマスでもいいかなぁ」


 でも打ち上げとかあるかなぁ?

 私の時はあったけど……ま、その辺は真希にでも聞いておけばいいか。


 

 「そのためにも明日からもちょっと多めに仕事しとこーっと」

 


 かすみは笑みを浮かべながら、目の前の動画編集にとりかかった。

 そんなことを考えながら、動画編集にとりかかって4時間。


 時刻は16時。

 学校はそろそろ終わる時間かな?


 朝、巧は夜お父さんと話があるって言ってたから、それ終わった後にでも電話しようかな?


 でも話ってなんだろう?

 あ、今度の旅行のことかな?

 どこ行くかーとか、どこのホテル、旅館に泊まるとか?

 

 ってなったら話長くなる……よね?


 どうだろう?

 とりあえず連絡しよっと。


 そうしてスマホを手に取ると、真希からラインが来ていた。


   maki:

 【姉さん今日巧と話した?】


   かすみん:

 【ラインでちょとだけかなぁ、なんかあった?】


   maki:

 【あ~いや、私もちょっと話して、遠目から見てただけだから多分でしか言えないんだけど……】


 なんだろう。

 打ち込んでいるからか、なかなか次の返信が来ない。

 あーもうじれったい。


 もう電話をかける。

 

 「……はいはいなんとなくかかってくる気した。……姉さんほんと巧のことになると必死だよね、まぁ分かるけどさその気持ち」

 

 呆れたように笑う真希。

 でも今はそんなのどうでもいいから早く教えてほしい。


 「学校帰りだよね、ごめんね。要点だけ教えてくれたらいいから、さ」

 

 「んじゃほんと要点だけ。……私の直観だけど、巧たぶん無理してる気がするんだよね~」


 「無理してる……なんで?」


 真希の直観は私の不安ともあっている。

 でも真希の勘違いということもあり得るし……。

 

 十中八九私たちの勘が当たったから正しいと思うけど。

 

 「……ほらなんか昔、巧のお父さんが仕事しすぎて無理して倒れたことあったでしょ?」


 「あぁあったねそんなことも。小学校高学年だっけ?でも巧はお母さんを困らせないように泣かなかったんだよね?」


 あの時も結局病院では一切泣かなかった。

 病院から家に帰って、不安がっている巧とせめて一緒にでもいてあげたらっていううちのお母さんの提案で、真希と巧の部屋の前まできてようやく気付いた。


 部屋の中から巧のすすり泣くような声が聞こえるのを。

 

 多分幼いながらに悲しませないように配慮したんだろう。

 次の日には全然大丈夫だよ、って笑顔だったし。

 でもその時の眼は、今でも覚えている。

 顔はわらっているのに、心で泣いているそんな感じ。

 

 彼は昔からそうだった。自分の心の痛みは、なかったことにしちゃう。


「あの時と同じ目をしてた。私が声かけてもよかったんだけど、ほら夏に私色々巧を傷つけちゃったじゃん……だからほらあんまり踏み込めなくて……今日は遠慮しちゃった? それに私彼女でもないし?」

 

 あはは、と笑う真希。

 多分前までの、あの事件が無ければ、真希はいつも通りに勝気に巧の相談に乗ろうとしたんだろうけど。

 

 でもたしかに真希の懸念はもっともだ。

 確かに巧の中で真希のこととお母さんのことが紐づいてしまっている節もあるから。真希の慎重さはありがたい。


 巧も頭ではお母さんのことと真希のことは別の事って頭では分かってるだろうけど、多分感情が追いついてないんだと思う。


 こういうのは時間も大事だからなぁ……

 真希も出来ることはしているから、後は何事もなければ時間が解決してくれるはず。


 「姉さんも朝の段階で気づいてたんでしょ? でも重い女とかあんまり思われたくなくて、聞けなかったでしょどうせ。私が、元幼馴染が保証します。巧はあんなに優しい眼をするはずがない!」


 「なんて事言うのあなたは!……まぁ巧はお世辞にも目つきは良くないけど、そこがいいんじゃない!って違う分かった、私からも聞くわ」


 「うんさすが彼女」


 真希のおどけるような声。

 私の心配はいらない、ってことかな?


 「うるさい!」


 「あ。最後に一つ」


「うん?」


「なんか巧若干腕をかばっていたような気もしたから怪我してるかも、まぁ制服で様子見れてないからこれも直観だけど。一応気にしといて」


 真希は最後に不安気に言葉を残して電話を切る。


 「ほんとに巧はもう!」


 巧みのことが心配でたまらない。

 でもまだ巧から私に何も言わないってことは何かがあるのかもしれない。


「私も巧の意思を無視するようなことはしたくないからなぁ」

  

 となったら、することは一つ。


  かすみん:

 【今日電話……しよ?】

 

 でもこれくらいは…………いいよね?


―――――――――――――――――――――――

次回;実父 お楽しみに!


Ps.

最近寒い……凍え死ぬ。

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