第77話 温かい家族と冷たい家族

 「今日は来てくれてありがとね~、急に呼んじゃって大変じゃなかった?」

 

 「い、いえいえお呼びいただき光栄です!」


 目の前に座るは真奈美さん。

 横にはかすみ、お誕生日席には真希が。

 

 なんだこの状況。


 「とはいってもお母さん急すぎるよ、誘うなら事前に言ってほしかったなぁ特に私を通して!」


 「あら、誘ったじゃない?」


 「誘ったというか私がたまたま家にいたからじゃん、いなかったら私抜きだったんじゃない?」


 「いなくてもよかったのに、私は巧君とゆっくり仲良くしっとりとお話したかったのにさぁ」


 なんか真奈美さんが魔性の色気を目の前で出してるんだが?

 というか、お胸をテーブルに乗せるとかダメじゃないか?

 ……楽とかなのか?

 ならしょうがないけど。


 「なに人の彼氏取ろうとしてんのよ!巧は私のなんだから!」


 むぎゅっっと思いきり抱き締められる。

 む、胸に顔が。


 気持ちいけど、でもいかん。

 顔緩めるわけには。

  

 「取ろうとなんてしてないわよ、でもほら将来の話をゆっくりとね?」

 

 胸に埋もれた顔はそのままに、真奈美さんはテーブルに置かれた俺の手を撫でる。

 

 「セクハラ禁止!」


 めっ!とお母さんの手を軽くたたこうとするがそこにもう真奈美さんの手はない。

 なんというか、真奈美さんが狐のようにオホホと笑い、かすみがふしゃぁと威嚇する、うん猫みたい。


 「ほら、母さんも姉さんも巧が困ってるから離してあげなぁ」


 そんなあきれ顔で話している真希もだが、お前もさっき、【母と姉が取り合ってる?ここは私も参戦しといたほうが?】


 って言ったの聞こえてるからな。

 おまえこないだ俺らの営みを覗いていたかすみにばれて、しこたま怒られてただろ。

 あほなこと言ってないで真希は反省しろ、むやみやたらに混乱を巻き起こそうとしないでくれ。


 お前のせいで、かすみもかすみで怒ったあと。


 【み、身内にこっそり見られてるとかならそれはそれであり……かも? 他の人とかだとだめけど……いやなしか】


 なんか葛藤してたんだからな。

 新たな可能性を感じさせないでくれ。

 俺は人にあんまり見られたくないからね?


「まぁご飯食べないとだしね。ほらご飯準備しよ?」


 「はーい」


 「むぅ、はいはい」


 「手伝いましょうか?」


 「ううん巧君ゆっくりしてていいから」


 

 そう言っててきぱきと3人で、準備を進めていく。控えめにいって手伝うスキがない。出てきたのは和風ハンバーグに小松菜のサラダ、金ビラごぼう、みそ汁と純和風な食事。


 そのどれもが昔懐かしい味がしておいしい。


 「どうかしら?」


 「とても美味しいです、なんというか優しい味がします!」


 「あら嬉しい事言ってくれちゃってぇ。ちゃんと愛情を入れてるからよねぇ」


 真奈美さんが嬉しそうにほほ笑む。

 でも嬉しいからってご飯おかわり山盛りにしなくても大丈夫だよ?

 普通盛りにしてくれると嬉しいかもなぁ。


 「……何それお母さん古くさぁ、今時そんなこといわないよ?」


 ぴしり、と音がした。

 真奈美さんの笑顔は相変わらずだが、目が笑っていない。


 「あ、いや古臭いっては言葉の綾で、実際は味があるっていうか、年期を感じるっていうか、あ、いやそうじゃなくて年の功?」

 

 失言気付いた真希が慌ててフォローを入れるが時すでに遅し。

 なんならフォローが追い打ちになっているまである、真希が追加の言葉を言うたびに真奈美さんの笑顔がぴくぴく動いてたし。


 「真希には、年の功の言葉の意味を後でしーっかり教えてあげたほうがいいみたいね?」


 「そ、そんな……姉さん……」


 真希はかすみに顔を向けるが、ぷいと顔を背けられる。

 一瞬絶望した表情を浮かべるが、すぐに顔を切り替え、そして俺の方を向いてくる。


 「た、たくみぃ……」

 

 泣きそうな顔をしながら助けを求めてくる真希。


 任しとけってうまくやるから。


 真希に安心させるように笑顔で軽くうなずく。

 かすみは、えっ?!と愕然とした顔をしているが。


 俺はこの地獄の雰囲気を打破するために声を挙げる。

 だからかすみそんな心配しないでくれ、そんな死地に赴く勇者を見送るような顔を。

 

 「真奈美さん」

 

 「んー?」

 

 真奈美さんは相変わらずのきれいな笑顔。

 

 「全く真希ったら本当に失礼ですよね、年期を感じる、とか。お義母さんとてもお若いのに。ここはもう親しき中にも礼儀あり、ってことも含めてガツンと言ってあげてください!」


「なっ?!」

 

 人の様子をのぞき見たりもしちゃいけないしねぇ。

 かすみにこっそり目くばせすれば、すぐに意図に気づき、


 「そうだね!社会に出た後でもそう言うのは大事だし!お母さん私からもお願い!」


 二人して真希のために頭を下げる。


 真希は俺らの行動に愕然とし、口をあんぐりと。

 それを見とがめた真奈美さんは更に。

 

 「礼儀も含めて人生というものを、年上のおばさんが教えてあげます!冬休みをかけて、たっぷりとね」

 

 「んなっ?!」


 がくっとうなだれる真希。

 ちゃんと反省してください。


 そんなにぎやかな夕飯。


 こういうのが家族の温かさかなぁ、久々だと思った。

 うちもまたいつか、母さん居なくても、父さんと出来るか?


 「どうしたの?」


 かすみが聞いてくる。


 「ううん、別に?」


 「そ、ならいいんだけど」

 

 まずは母さんを忘れること、からが始まりかな? 

 


 

 

 そんなことがあって数日後。

 今日も未来について進展がないまま帰途につく。

 

 「ただいまー」


 誰もいないはずの家の玄関を開けて……そして目を疑う。

 

 「遅かったわね、で、あいつ知らない?」


 自分でも血の気が引くのが分かる。

 

 「……あい、つ?」


 「そ」


 小声で、「やっぱまだだめかぁ」と目の前の女がつぶやくが一体何のことをいっているのかわからない。

 というか今の状況が全く分からない。

 

 「あいつよあいつ、あーお父さん、知らない?」


 「……家にいるはず……だけど」


 半年前より、髪は大分短くなり、化粧は心なしか濃くなっている気がする。


 「いないから聞いてるのよ!、ちっ。 どこいったのよったく」


 目の前の女の言葉遣いは前より荒くなっており、常に落ち着かない様子。

 前はこんなにイライラしていなかった。


 まるで俺の知っている人とは別人みたいだ。

 別人であってほしい。


 「……なにしにきた?…………母さん」

 

 そこには半年前に勝手に出ていった、母さんが足を組んで座っていた。

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