第76話 あの日以来……
その日の放課後。
図書室で職業とかについて調べてたら、帰りが少し遅くなった。
まぁ今日は家にかすみいないし、そんなに早く帰る必要はない。
「親父だけだしなぁ、家いるの」
普段家にいないからこそ、いる今だけでも同じ時を過ごそう……とはならない。
まぁ、家で可愛い大学生彼女がいるか、むさくるしいおっさんがいるかどうかってモチベ的に帰りたいかすごい変わる。
とはいっても帰るしかない訳なんだけど。
「……まぁ帰るか」
ワンちゃん親父いない可能性もあるしね?
かすみおすすめの音楽を聴きながら、校門を出る。
でもこれなんで90年代の音楽が多いんだ?
「………ぇ?」
でもそういえば今シティポップが再度流行り始めたっていうし、ある意味最新なのかもな。
「…………ねぇ」
流行は定期的なサイクルで再燃するっていうしなぁ。
今そういう時期なのか?。でもたしかに、「まわれまわれメリーゴーランド」とかははいつ聞いてもいいよなぁ。
かすみじゃないけど、俺も思わず「せなぁぁぁぁ」って言いたくなるもんね。
「ちょ、ちょ待…っ…てよ」
なんか、今外で「ちょ待てよ」って聞こえなかった?
え? まさかいるの?
キムタクが。
期待を込めて後ろを向けば。
いた。
昔馴染みが。
なんか肩で息をしているし、顔も心なしか怒っている気がする。
あ、分かった。
これ多分なんか嫌なことあって、機嫌悪いやつだ。
てことはあれだ。
君主危うきに近寄らず、的な奴だな。
くるっと回れ後ろ。
進行方向に向かって走ろうとしたところで、「待って!」
と聞こえる。
さすがにイヤホン片方外してるし、聞こえなかったは無理だよなぁ。
「…………俺?」
「うん、俺」
ニッコリ笑顔で頷かれる。
あ、やっぱおこかも。
「そっかそっか、どうした? いつもより帰るの遅いな?」
「勉強してたからね。それより私結構声かけてたんだけど、なんで無視したの?」
顔は笑っているのに、目が笑っていないから普通に怖い。
この辺かすみとちょっと似てるよな、さすが姉妹。
「俺結構音楽爆音で聞いてるから、気づかなかったんだごめん」
「じゃぁ急に何かに反応したのは?」
「え、後ろから【ちょ待てよ】って名言はいた人いたら、振り向くでしょ」
「私そんなこと言った覚えないけど……!まぁいっか、一緒に帰らない?帰るわよね?私の事さっき無視したのに断ったり、しないわよね?」
なんで軽く脅し気味なんだよ。
「別にそんな風に言わなくたって帰るよ、方向一緒だし」
「え?いいの?本当に?だって私……」
うん?なんだ?
ってああ。
「なに前の事気にしてんだよ、もう終わったし、それはキャンプの時にも言ったろ? もういいって」
本心からの言葉。もうあれは過去だ。タイミングが悪かっただけなんだ。
「そ、そう。 そっか」
なんでそんな嬉しそうなんだよ。
でもそういえば……
「そういえばキャンプの後あんまり話してなかったな? 顔あわしても逸らされてたし」
「そ、それはっ!」
焦ったように顔を赤くする真希。
え、なんで?
「あー、友達に俺と話さないほうとかいわれたとか?」
「そうじゃないんだけど……」
ん?だとしたらなんだろう?
そんな恥ずかしがることなんてあったか?
「そ、そう!巧がお姉ちゃんの彼氏になったでしょ?だからこう、どういう風に接するっていうのかな?どうしたらいいかわからなくなっちゃって、さ」
「あ、ああ。まぁいつも通りでいいんじゃないか?」
そこはどうでもいいんだけど、お姉ちゃんの彼氏、って言った時に息が荒くなったのは気のせいだよな?
「そっか、じゃあいつも通りお兄ちゃん!ってよんだほうがいいよね?」
「…………ふぁ?」
「なぁにお兄ちゃん?」
「ちょっと怖いんでやめてもらっていいですか?」
なんか言葉のそれが、お金をねだる時の微妙に嫌な感じだ。
「怖いって何よ、でもお姉ちゃんと結婚とかまでしたら実際にそうなるのよ?」
そ、そうか。
真希が義妹……。
「そうだよなぁちゃんと勉強しろよ!」
「いきなり、兄ぶり始めてちょっとうざぁ…………しかも私勉強してるし!まぁ巧……ううんっ、お兄ちゃんには負けるけどさ……」
「頑張り給え!」
「分かってるよ!私が目指している大学に行くにはもっと勉強しなきゃいけないから」
「へ、へぇそうなのか……どこ大目指してるんだ?」
「早慶大かな、そこで総合商社に入りたいの」
総合商社に入る為のステップとして大学……か。
「ちゃんと考えてるんだな、夢のために」
俺が感慨深く、うんうんと頷いていると、真希はポカンとし、ついでにあははと笑った。
「夢? 違う違う、今はお金を稼いで稼いで、がっつり仕事して、それでお母さんとかに車とか買ってあげたいの。だから大学の時にまた別の何かやりたいこと見付けたらそっちやるつもりだし」
「それでも進路きまってるんだからいいよなぁ……俺も何か見つけないとなぁ」
「あ、まだ決まってないんだ。でも悩めばいいと思うよ。それに……」
と真希は続け、
「巧の中で、ううんっお兄ちゃんが姉さんを幸せにすることはどんな進路でも変わらないんでしょ?」
「ああ、もちろん」
当たり前だ。
俺がかすみを守るんだから。
もう離さないように。
俺の即答に真希は満足したようにうなずき、でもすぐに思案顔になる。
「あ、でも」
「ん?」
「こ、……には気を付けてね?」
ごにょごにょとして最初の言葉がわからなかった。
「え、なんて?」
「子供!!」
え?どういうこと?
なんで子供が?
「え?」
「あぁもう伝わらないんだから!まだ高校生なんだから、こ、子供には気をつけなさいよ!」
こども。
子供。
子供。
こどもぉぉぉ?!
「え、なんで?」
「だ、だって高校生の性欲なんて獣みたいなもんでしょ?それに姉さんは魅力的だから間違いを起こさないようにねーー」
「―-チョップ!!」
真希の頭に軽くチョップ。
「あいたっ!」
頭を軽く押さえ、涙目に。
「真希に心配されなくても大丈夫だわ!理性あるぞ俺は」
「えーでもその割にはこないだは……」
「こないだ?」
「あ」
こいつなんか口を滑らしたな。
明らかに不味ったって顔してるし。
「今日のことはかすみに聞いてもらおっと」
「ちょ、姉さんはやめてぇ!!」
「だめ、絞られろ」
「鬼!」
「ばーか」
そんな風に話しながら、家へ。
なんだかめっちゃ懐かしい感じがした。
そんなある冬の日。
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