第73話 転職と旅行
「え、仕事……やめた? やめたい……じゃなくて?!」
き、聞き間違いだよな?
まさかそんないきなりやめるなんて、な?
嘘だよな、聞き間違いだよな?
かすみの顔を見れば同じく、驚いた顔をしている。
「……親父仕事辞めたいんだってさ」
「そ、そうだよね!ふふふ、私も辞めたって聞き間違っちゃったみたい、そんなわけないよねぇ」
「さすがに突飛なことするうちの親父でもそんな突拍子もなく事前相談なくやめることは……ねぇ?」
「だよねぇ?」
二人して同じ聞き間違いするとか、活舌悪すぎだろ親父。
ま、まさかこれが聞き間違ってなかったなんてあるわけないし、さ。
そうだよね、そうであってくれ!
「いや聞き間違いじゃないぞ。ちゃんとやめた!安心していいぞ!」
ぐっとサムズアップ。
しかも無駄に満面の笑み。
「何も安心できないわ!!……え? どうすんの? てかなんで? やっぱ社畜でも仕事厳しくなった? いやでも最近少し楽になったって言ったからそうでもないのか……うん?」
混乱してきた。
そこで閃いた、逆転の発想ってやつだ。
「あ、分かった。 仕事に少し余裕が出来たからこそ、今までの激務がよかった、激務じゃなきゃ俺は生きていけない!ていうマゾヒズム的な考えか!」
「いやそれは一周回りすぎだよ巧……」
かすみにもそれはない、とたしなめられる。
そっか、やっぱ違うか。
でもよかった、親父がそっち系じゃなくて。
「……息子にマゾヒストって言われたお父さんの気持ちを述べよ」
親父が深刻な顔して聞いてくる。
「え……気持ちいい?」
「何でだよ、悲しい、だよ! なんでMになり切って応えているんだ! というか激務に餓えて仕事やめたって世紀末過ぎるだろ!」
怒涛の勢いでまくしたてられた。
とりあえず仕事にくるってたわけじゃなかった、良かった良かった。
「だよなぁ」
じゃあなんで仕事辞めたいって言ったんだ?
そう考えると思いつくのは一つだけ。
中年の鬱ってやつかな。
よくよく考えれば、妻ににげられ、自分は社畜。
仕事にだけ追われる日々。妻には終われず逃げられる。
そりゃ悲しくなってやめたくもなるかぁ。
納得してしまった。
やめたくなる理由。
もっと受験生の俺なりに考えてれば……。
「全部聞こえてるよ?……でも確かに字面見るとやんでもおかしくないな? 俺メンタル実はめっちゃ強いかも?!」
親父がなんか自分で勝手に気づいた。
「たぶんメンタルは鋼……いやゴキブリより強いかも」
「言い直すなら逆だろ普通!なんで言い直してゴキブリなんだよ!」
「そっちの方が強そうじゃん?メンタル」
「いやいや、汚そうじゃんゴキブリだと」
「あ~……」
加齢臭だし、まぁあっているんじゃない?
「余計なこと考えなかったか?」
うわ女子みたいに勘するどい。
きも。
「加齢臭かなって!」
「家に入る前に消臭剤してきたから大丈夫だって!」
「……それでお仕事辞めた……のです……か?」
話が脱線しかけたのに気づいたかすみが軌道修正してくれる。
そして親父はこともなげに答えた。
「そうだよ、辞めた!」
またもサムズアップ。
さっきよりも2倍笑顔。
俺らの苦悶2倍。
おっさんの笑顔。
きしょい。
はぁ。
でも2回言われてやっと理解できた。
呑み込めた。
逆転の発想で考えよう。
親父は働きすぎだったし、少しくらい休んでもいいのかも。
てか休まなきゃいかんよな。
俺の唯一の家族の訳だし。
……もういきなりいなくなられるのは……嫌だから。
「……一旦休むのもいいかもね、20年以上社畜として走ってきたんだからさ」
「社畜として走ってきたってなかなかパワーワードだね……」
まぁここはいい人生の中休みということで半年くらい休みを取ったほうがいいのかもしれん。
健康も大事だしな、これで病気が見つかったりしたらシャレにならないし。
うん、さっきは焦ったけどよくよく考えたら必要な時間かも。
「まぁ少しは休むよ流石に、仕事は今日で終わったし。早めの冬休み堪能しようかな」
「そうだね、それで余裕出てきたら転職活動始めたらいいんじゃない? 生活には当面困んないだろうし。もし大変ならバイトとかも勉強の片手間にするし」
それでも大学に特待生とかで行けばなんとかなるだろう。
そんな意図の言葉だったけど……。
「いや転職活動しないよ?もう」
転職から否定された。
「「うぇっ?!」」
まさかの堂々としたニート宣言。
もう働きたくない、と。
さっきと同じ、いやさっきよりもくらい驚かされた。
そこまでだったか。
社畜で心はもう……。
こういう時は否定しちゃダメなんだよな、確か。
より相手が意固地になるから。
まずは相手の意見を受け入れて、そっからなんちゃらかんちゃらって言ってた気がする。
…………やばいなんちゃらの部分が大事なのにど忘れしたぁぁぁ。
「ま、まぁそういう全てが嫌になることもあるよね」
「そ、そうだね!」
二人して引きつった笑みを浮かべている自信がある。
これからどうしよう。
笑いながら途方に暮れかけたその時、三度爆弾が飛んでくる。
「なんか、勘違いしてないか? なんで転職活動やっと終わったのにもう一回しなきゃいけないんだよ、やめてくれよ。 俺1月から新しい仕事始めるから実質の休みは2週間くらいだな、ちょうど正月明けから仕事だし」
「……」
「……」
「どした?何の仕事?とか給料は?とか休みはとれるの?とかホワイトなの?とかきかないの?そんな興味ないの?!」
親父がなんか勝手にショックを受けているがこっちはそれどころじゃない。
「え、仕事きまった
「え、うん」
きょとんとした顔で頷く親父。
俺とかすみの想いは一つ。
親父ぃぃぃぃぃ。
「
俺らの怒気を親父は笑って受け流す。
受け流すな!!
気にしろ!!
「すまんすまん、驚かせたくて……まぁそれはいいとして年末、羽伸ばしに行かないか?」
それも全然良くないけどな?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
アンケートお答えいただきありがとうございます。
予想以上に②が多くてびっくりしました笑
②を書いておきたいと思います!
教えてもらってありがとうございます!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます