第70話 何この気持ち……(真希SIDE)


 林間学校が終わった。


 この林間学校で、1、2カ月ぶりに、少し心のつっかえが取れた気分。

 巧とも仲直り出来た。

 ……完全には元に戻れてないけど、徐々に徐々に昔みたいに話していけたらいいと思う。

 そう3


 だから今日もそのための一環。


「亜衣、沙里、じゃ私帰るから~」


「うん、成瀬君のところ行くんでしょ?」


「今日つかれてたもんね、いってき~。私たちは私たちでまだ遊んでるから」


「そそそ、私たちも彼に色々教えてもらったし、恩もあるからね。真希を独り占めは出来ないよ」


 そんないい事を言ってるくせにその顔はにやにやとしている。

 生暖かいそんな視線を感じる。


「なっ、私は巧のとこ行くなんて一言も……」


「ハイハイ、昨日仲直りしたんでしょ? 行くの分かってるから~」


「ね、喧嘩する前に巧君と話しに行くときと同じような顔してる。 わっかりやすいよね真希は」


「……そ、そんな分かりやすいかな?」


 鏡を見てもいつも通りだけど。


「うん、分かるね」


「わかる」


 2人して即答。


「いいから早く行きな~」


「ほらいったいった、疲れてた巧君を癒してあげな」


「二人ともありがとう……じゃ、また来週ね?」


「あいあい~」


「じゃね」


 2人に見送られながら、家路を急ぐ。

 あ、でもその前にラインだけでも送っておこうかな。



 maki:

 『体調どう?差し入れだけ持ってくね』



 時刻は20時。


 また前みたいに巧と、ううん3人で、話したり遊んだりしたい。

 でも今日は差しいれもってくだけにしておこうかな?

 それでちょっと寝顔見て、満足しよう。


「多分家にいるよね……?」


 今日の夕方、バスを降りた時に既に、巧は疲労困憊という様子だった。

 その様子が心配で借りは話しかけちゃったたけど、あの時はそのまま家に帰るから大丈夫と言ってたし今頃は寝ているはず。

ものぐさな巧の事だ、きっとご飯とかも食べていない。

 あ、でもおばさんとかが作ってるか。


 それじゃ、差し入れは、ゼリーとか果物、お菓子とかにしておこうかな?


 そっちの方が起きてすぐに食べれるよね?


 家には30分ほどして着いた。

 巧の家には明かりがついてないから、巧以外誰もいないのかな?

 巧は寝ているだろうし……。


 ラインの返信はまだない。


 一回家帰って、荷物置いちゃおうかな? あ、ついでに林間学校で汗かいたからシャワーも入っちゃお


「ただいま~」


「おかえり」


 家にはお母さんだけがいた、ゆっくりテレビを見ている。


「ご飯は~?」


「後で食べる~。あ、シャワー浴びたら、後で巧の家に差し入れもって、行ってくるね」


「そう……あら?分かったわ、よかったわね仲直り出来て」


 お母さんからも、隠してはいるけど嬉しそうな声が聞こえてくる。



「……うん、じゃシャワー浴びてくる」


 お父さんはまだ帰ってきていないらしい。

 まぁ臭いからいなくていけど……。


 シャワーをいつもより念入りに浴びて、違和感ないくらいに化粧もして。


 ……まぁ何かある、とかではないけど。 

 最低限ね?

 最低限身だしなみを整えないと。


 シャワーを浴びて準備する。

 巧からの返信はまだない。


 やっぱ寝てるのかな。

 じゃぁ¥あこそっと行こうかな?


 行こうすると、少し慌てた様子のお母さんが声をかけてくる。


「真希、ちょっと待ちなさい」


「何お母さん? 急いでるんだけど……」


「あなたどこいくんだっけ?」


 もう、さっき言ったのに。

 もう忘れたのかな? 年かな?


「なんか無性にイラっとしたけどまぁいいわ。 あんた差し入れしに行くんでしょう? 何その恰好、ミニスカート入って。気合入れすぎよ?」


「そ、そんなことないよ!身だしなみ身だしなみ!」


「化粧もばっちりじゃない、もう少し落ち着かせないと巧君にひかれるわよ?」


 引かれる……。

 それは嫌だな。

 うーんここは鬼……間違えた、お母さんの言うことを聞いておく。


「……分かった着替えてくる」


「いい? あと巧君はかすみの、彼氏なんだからね? あんた分かってる?」


 ジト目で見られる。


「分かってるって! 彼女の妹としていくの!」


「あんた分かってなさそうだけど……まぁいいわ自分で分かるでしょきっと」


 分かってるよ。そんなに心配しなくても。

 まぁ今は深く考えない。 急いでいるから


 少し地味目な服に着替えて、再び外へ。


「今度こそ行ってきまーす」


「はいはい、行ってらっしゃい気を付けてね……ってとなりだから心配はいらないわね」


「うん」


 外に出て、隣の家へ。

 さっきと変わらず、部屋に明りはついていない。


 玄関のチャイムを鳴らそうとして、手を止める。


 巧が寝ていたら起こすことにならないだろうか。

 チャイムを鳴らして、巧の眠りを邪魔しちゃうのは忍びない。


 だから一階にいる家族にだけ聞こえるようにノックをする。

 何回かノックするが、返答は無い。



 ドアを恐る恐る開けようとするが、返事はなし。

 誰かが出てくる様子もない。

 だから昔のように、部屋に入ろうと、玄関近くの植え込みを見る。


「あったあった、やっぱ変わってないんだね」


 植え込みには巧の家のカギ。

 中学生の途中まではこうやって家に入っていた、思春期になってからはめっきり回数は減ったけど。

 でもこれは緊急だから。

 巧の体調心配だし、ちょっと顔を見るだけだから。


 誰にでもなく言い訳をしながら、そーっと家に。


「ぉ邪魔しまーす、差し入れもってきましたぁ……」


 中に入るとやはり一階に明かりはない。

 玄関には靴が乱雑に脱がれ、林間学校で使われたバッグもそのままに。


「本当に疲れてたのね……」


 とりあえず様子だけでも見ようと、勝手知ったるリビングに差し入れの大半を置き、巧の部屋がある2階へ。


 巧を起こさないようにそーっと上に。


 上に上がるにつれ、何かを定期的にたたくような音と、BGMのような音楽が大きく流れている。


 あれ?起きてるのかな?

 音楽かけっぱで寝ちゃったとか?


 部屋からの扉は薄い明りが漏れている。

 でも変わらず寝ているかもしれないので、音を立てないようにそっと近づく。


 進むにつれ、聞こえてくる音は大きくなる。

 一体何の音だろう。


 パンパン、とした音と、意味も分からない洋楽がかかっている。

 ……それに聞こえてくるのは多分……女性の嬌声。


 そこで私は帰ればよかったんだろう。

 頭はがんがんと警鐘を鳴らしていたのだから。


 でも私は止まらなかった、止まれなかった。

 部屋の扉を開けることはせず、そっと中の様子を窺いみる。


 見えたのはベッドの上で踊る二人の姿。

 男は仰向けで、女はその上で上体をくねらせ、蝶のように舞う。


 動くたびに、女性は、喜悦の声を挙げ、男性は苦しそうに、でも幸せそうな表情を浮かべている。

 2人の手はしっかり握られていて、とても幸せそうだった。


 そこにいるのは、想い人と自分の姉。

 二人だけの男と女の世界が、目の前に広がっていた。


 初めてみた。

 姉の、媚びるような、色気を振りまくそんな様子は。


 初めてみた。

 どこまでも優しい幼馴染の、余裕のない、でも、自分の女を離さないという獣欲を。


 態勢は変わり、姉を四つん這いにし、巧は後ろから。


 余裕のなさそうな巧の顔。

 姉しか見ていない、見えていない。



 今だけじゃない、多分ずっとそうだったの。

 彼の目にはずっと姉しか映っていなかった。

 私はそれを認められなかっただけだった。



 それを直接認めさせられた。


 次第に動きは激しさを増し、そのままお互いに果てていく。


 彼はそのまま倒れこみ、また態勢が逆転する。


「あ~、元気なくちゃった。 じゃあ元気にしてあ・げ・る」


「ちょっ、かすみ……待って」


「待ちませーん」


「んぐッ?!」


 くいしばるような巧の声。

 かすみ姉さんの姿はまるでサキュバスの様だった。


 私はその姿を見て、もう立ってもいられない。



 ポロリと頬を涙が伝っていた。



 でもなぜだろう、胸の奥はこんなにも苦しいのに。

 悲しくて辛くて。


 でもなんでだろう。

 なんで私はこんなにもドキドキしているんだろう。


 なんで私の口は歪んでいるのだろう。

 なんで私はこんなにも――










 ――濡れているんだろう。











 そうしているうちに、2人はまた始めていた。

 その姿は、最高に気持ちよさそうで。

 愛を深めていた。


 深い深いキスをしていた。

 糸が引くようなそんな深いキス。


 どこまでも、深く深く。

 心から繋がるようなキス。


 どれくらい見ていたのかは分からない。

 5分だったかもしれないし30分だったかもしれないし。

 それを見て私は帰ろう、と思った。


 私はそっと階段を降り、家を出る。


 家に帰り、誰にも顔を見られないように部屋に入る。

 途中でお父さんとすれ違った気もするけど、どうでもいい。


 扉を閉めて鍵を閉める。

 布団をかぶり、目を閉じる。

 寝て今日のことを忘れるように。



 でも瞼の裏に焼き付いたのはあの光景。


「……グスッ……………んンっ」


 泣きたいのに。

 私は慰めるように、自身の手は下へ向かう。


「何この気持ち、こんなの絶対におかしいのにっ」


 普段こんなことしないのに。


 その日は朝まで寝れなかった。

 身体は疲れているはずのなのに。


 その日何回イッタか正確には覚えていない。

 でも少なくとも、2桁までは覚えている。


 お母さんが言った、姉さんの彼氏という言葉の意味。

 どこまでも私は理解させられていた。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 2章終了です!

 最終話いかがだったでしょうか。

 この2章の終わり方は1章の頃から実は決めていました。

 ちょうど70話で終われてよかった。

 

 3章は少し書き貯めてから、出すようにします!

 3章は母の話です、お楽しみに!

 その前にサポーター向けにSSでも書こうかなぁ。

 更新再会とかについてはツイッターとかで告知します。



 アカウントはこちら!

 @KakeruMinato_

 


 いつも応援して頂きありがとうございます。

 星とか頂けるとモチベになりますのでお忘れの方は、ぜひお願いします!

 本当にとてもモチベになりまくってます!!

 後、感想とかも目を通してます、返せてないだけなので返せるときにかえしますので……

 誤字脱字とか助かってます!

 レビューもお時間あれば……2章も終わるこの機会にぜひ。


 2章の感想ぜひお待ちしてます。

 ではでは!

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