第68話 巧の独白 後編 (ギャルSIDE)
「……で、出てった?」
「ああ、他に男作ったとか何とかで。学校から帰ったら家はもぬけの殻。あったのは置手紙だけ。でさ、まぁそんなことがあって俺は荒れたわけだけど。次の日は複雑な気持ちながら勉強でもして気を和ませようと、学校に行ったんだよ」
なに、お母さんが出て言った以上にまだあるの?
そんな残酷なことあるの?
止めてよ。
でも成瀬君の話は終わらない。
「そしたら追い打ちをかけるように、真希がさ。俺に嘘告白をするっていう話を聞いちゃってさ。なんか今まで俺がつき合ってきた人間関係って何だったのか、って思ってさ。その日初めて学校を休んだんだ」
その日のことは覚えている。
欠席も遅刻もせず、朝早くから学校へ行く、学年1位の成瀬君が休んだからちょっと話題になっていた。勉強のし過ぎ、とか言われてたけど。
そんなことがあったなんて、知らなかった。
そりゃ佐倉さんに怒るのも当たり前だよ。
昔馴染み。
そう成瀬君に言わせるほどではある。
「あぁ、でも真希の場合はどうやら嘘告白っていうのは友達が発破かけようとしたことらしい。だから気持ちはほんとだったぽいぞ?……少なくとも俺をはめて笑いものにする、みたいな意地の悪いことをしようとしてたわけじゃないらしい、後から聞いた話だと。だから真摯に謝られて俺も許したわけだし。この件で相沢さんはいつも通り接してやってな?これは俺らで解決した問題だから」
「うん、分かってるよーん」
「ありがとな」
成瀬君はそこでようやくいつもの笑顔に戻った。
でもすこし分かってしまった。
佐倉さんの気持ちも。
多分、踏ん切りがつかなかったんだろう。お姉さんをだましたみたいになって、自分が幸せになっていいのかとか考えたんだろう。
だって基本はいい人だから。
その様子を見て友達が背中を押した。
その背中の押し方は間違ってたけど。
そうだなぁ。
どっちの気持ちも分かる。
「タイミングが最高に悪い……のかな?」
「な?それは俺も思うよ」
一個一個ならまだ耐えられるかもしれない。
それでも十分辛いけど。
でも合体したら破壊力がすごい。
もう合体した悟空とベジータくらいやばい。
「まぁそんなわけで俺はあてどなく海に向かったんだけど、さ。」
「何その不安な言葉!?あてどなく海に向かうって何?まさか……自殺……的な?」
まさかの想像が頭をよぎる。
けど今いるから安心だけど。
「いやいやまさか。広い海を感じて自分の悩みはちっぽけだと確認しようとしただけ。まぁちょっと海に入ったけどな」
入ってるじゃぁぁぁぁぁん!!
「そうしてたら後ろからかすみさんが来てさ、俺を止めてくれたんだ。『何してるの?』って濡れるのもお構いなしに、抱きしめてくれた」
かすみさんを思い出しているのか、その顔はどこまでも朗らかだった。
「そのまま俺の話を聞いて、八つ当たりまでした、みっともなかった俺をただ受け入れてくれた。
ただ自分の身を投げうって、抱きしめてくれた。それでなんやかんやあって、誤解だったことが分かって、付き合うことになったんだ」
「……そうなんだ」
そりゃ惚れるよ。惚れなおすよ。
好きにならないほうがおかしいよ、女神すぎるよ。
でもなんていうのかな。
この2人はきっと運命なんだろうなって。
引き離してもひかれあうそんな感じなんだろうな。
お互いに見付けあう。
そんな相性ピッタリの二人。
その相手が私じゃないのは、とても悲しいけど。
すっぱりとはいかないけど。
「どう?参考にはならない、と思うけど、役に立てばいいな」
「……なんで?」
「うん?」
「どうして、そんな辛いことを、トラウマを起こすようなこと教えてくれたの?つらいはずなのに」
ただただ分からなかった。
「うーんそうだな。相沢さんには助けてもらったからねそのお返しがしたかったっていうのが一つ。あと一つは俺の個人的なことだけどさっき真希にも親のこと言おうとして言えなかったから、その時は手が震えてだめだった、立ってられなかった。でも乗り越えなきゃいけないから、だから克服しようとした、そんな至極自分勝手な理由だよ」
そんな風に私を気遣うために、言ってくれる成瀬君はやっぱり優しい。
「でもなんで真希には言えなくて、相沢さんには言えたんだろ」
ぼそり、と成瀬君がつぶやき、首をかしげる。
「そんな理由で教えてくれたの?私のために?」
「うん、ごめんねかっこいい事言えなくてさ」
あはは、と笑う君。
あぁ好きだなぁ。
最高にかっこいいよ。
でもそんな言葉は言わない。
なんでのろけ聞いて、好きになるのよ私はバカなのかな。
「相沢さんの恋愛に役立ててもらえたらいいな、ちょっと、いやかんり特殊だけど、ダイジョブそ?」
そう言われたら私はこう答えるしかないじゃない。
「うん、とっても!」
最高の笑顔で。
「ならよかった」
「ごめんね無理させて」
「ううん、じゃまたなんかあったら言って?」
「うん!成瀬君こそなんかあったらいって次は相談乗るからさ!」
「頼むわ、ギャルの意見聞かせてよ、じゃぁ先帰りな?後で俺は帰るから」
「で、でも……」
「いいから。女の子森の中に置き去りにするのも気が引けるからさ。ここは俺を立ててよ」
「……うん」
私が帰っていく横目で見ると、成瀬君は再度座り直して空を見上げる。
その顔はどこか物憂げで。
でも私には何もできなくて……。
だから、これくらい、いいよね?
私はスマホを開いて、連絡した。
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2話目更新!!
次回2章ラストです!!|
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