第67話 巧の独白 前編(ギャルSIDE)
「成瀬君とかすみさんの付き合ったきっかけ、とかを教えてよ、私の恋愛のために、さ」
そう言った瞬間、成瀬君の顔が一瞬強張る。
「え……」
「え?」
ポーカーフェイスの彼にしては珍しくあからさまに狼狽えたていた。
なんでそんな不安そうなの?
のろけたりするんじゃないか、と思ったんだけど。
どうしよう。
予想していたことと違いすぎる。
「あ、あれ?ごめん聞いちゃいけないことだった?……かな?」
「あ~ごめん。ダイジョブ、だよ」
そう言う割に成瀬君のしゃべりは釈然としない。
どうして?なんで?
付き合った想い出でしょ?
どうしてそんなに悩むことがあるの?
嫌なことがあったの?
かすみさんはそんなことをするようには見えなかったけど。
「まさか、同じような話を1日に2回もすることになるとは思わなかったけど……」
2回?
え?誰かに聞かれた?
でも、成瀬君基本クラスメイトとかにも彼女いること言ってないと思うし……
「佐倉さんとも、同じ話してたかんじかな?」
「うーん、まぁ……」
成瀬君は苦笑いしながら、でもあんまりはっきりとしない答え。
「……?」
「……どちらかというとしたくても、出来なかった……て感じかな?」
「……出来なかった?」
なんで?
「あ、言いたくないなら言わなくてもいいよ、というか佐倉さんとの個人的な会話だし全然全然」
「……ううん大丈夫、いつかは乗り越えないといけないことだし、話すよ」
ナニカを少し覚悟した感じの言い方。
軽く話してくれていいんだよ?
「俺とかすみは元々幼馴染だったんだよね、真希と一緒で。3人で幼馴染」
想い出のように話す成瀬君は先ほどの苦しそうな様子はなかった。
少なくとも最初のうちは。
「小さいうちは3人で仲良くて。それで俺はずっとかすみに恋をしてた。初恋ってやつだよね。それで結婚の約束までして、よく聞くやつ。普通はさ、歳をとれば忘れるものだけど俺らは忘れなくてね」
その話だけ聞くと思春期になったらぽぽーんと付き合いそうなものだけどなぁ。
「そんなときにかすみが男の人とあるいてるの見てさ。多感な時期だから直接聞けなくて、それで真希に聞いたんだよ」
佐倉さん……前まで成瀬君が怒ってた。
あ、なんかつながったかも。
いやな予感がする。
「真希に聞いたら彼氏って言ってて……俺もかすみにそれ以上聞くのが怖くなってさ。それでその時見た人が眼鏡かけて頭良さそうな感じだったから勉強するようになったんだけど……あ。結局その彼氏ってのは嘘で、ほんとは従兄弟の人だったしそのことではもう真希とは和解してるんだけど」
「あ、それがこの前の?」
「……まぁそれもあるな」
他にもあるんだ、佐倉さん。
気持ちとしては、佐倉さんも成瀬君のことが好きで、軽い気持ちで嘘ついちゃった……的な感じかな?
気持ちは分かるけど……ダメだとそれじゃ。
そんなずるい方法じゃダメだよ。
「話を戻すとそのまま、俺は高2。かすみは大学生になったそれで――」
「――ちょっと待って」
「ん?」
「そのまま数年過ごした……ってこと?」
「うん。その間もお恥ずかしながらずっとかすみのことが好きで……いや諦められなくてさ」
恥ずかしそうにしてるけど、何それすごい。
純愛じゃん。
ずっと一人の人を好きでいたってことでしょ。
何それそんなのもう恋じゃないよ、愛だよ。
一途に誰かを想うなんて……
「すごい……好きなんだね」
「好きだよ壊れそうなくらいに」
そんな風に即答してもらえる、かすみさんがうらやましい。
「そっか最高の彼氏だね……ごめん話遮茶って。続けて?」
もう愛の深さに驚愕して、そりゃ敵わないよねって思い始めてたりもするけど……。
まだ。
「うんそれで、1か月前、うーんと相沢さんと話すようになるちょっと前かな?その頃にさちょっと……」
明らかに言葉に詰まり成瀬君。
息遣いも荒くなっている。
「……言いづらい?無理しなくていいよー?」
「……ごめん、ちょっとだけ待ってくれる?言えると思うから多分」
その声もか細く、今にも消えそうで。
でも伝えようとしてくれている。
だから、私に出来るのは待つことだけ。
成瀬君はたっているのも辛そうで、ゆっくりと近場の岩に腰かける。
手は震えている。
冷汗なのか、額には汗が浮いている。
うっすらと見えた顔色は、月のように白い。
それでも待つ。
だって待ってと言われたからね。
……でもハンカチで汗を拭いてあげるくらいはいいよね?
それくらいならいいよね?
始まらなかった恋に破れたけど。
せめて今くらいは好きだった人を助けてあげても。
そうして数分。
でも成瀬君をそこまでトラウマにさせることってなんだろう。
予想もつかないや。
家が火事になったとか?
そういうのじゃないかぁ。
うーんなんだろう。
そして数分待つと。
「……ごめん。実はさ……」
そうつぶやく成瀬君の顔はまだ辛そうで、でもどこまでも真剣で。
「……俺の親が。母親が、出ていったんだ」
その言葉はびっくりするくらい怒っていた。
憎々し気に。
見たことが無いくらいに、怒っていた。
……でもその瞳の奥はどこまでも悲しそうで。
まるでそうしないと、怒ってないと自分が壊れてしまうような、そんな感じがした。
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長くなりすぎたので前後編にします!
今日後編もお昼か夕方くらいに出します!
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