第61話 告白の返事と真希の怒り

キャンプファイヤー、林間学校等、山へ行った際に行われる行事の一つ。


井の形に組んだ丸太に火をともし、その周りで暖をとったり、食事をとったり、ダンスをしたり。

でもまぁやっぱりメインはダンスか。

うちの学校はまずはみんなで輪になって軽く踊ってマイムマイムして、あとは踊りたい人が踊る感じ。


燃え盛る火を見て癒されるもよし、友達と話に花を咲かせるもよし、友達同士でダンスをするも良し、はたまたみんなに見られながら二人の世界を作るもよし。


年頃の人にとっては告白の場にもなったりもしてる。

ちなみにうちの班の陽キャである田中くんと佐藤くんとかカズダンスしてた。

なんで?


そして俺はというと。

キャンプファイヤーを尻目に真希に指定された場所へと向かう。


はぁ、話ってなんなのか。

でもまぁ、キャンプファイヤーの陽気にあてられるのもきついからしゃあないか。


ちょっと薄暗いところで真希が、立っているのが見えた。


「おー……ん?」


声をかけようとして止めた。

あれ?


「実はさ……」


男の声。


え?また?

またなの?

またこのパターンなの?

昼にも見たよこれ。


佐倉が男子と二人でいるパターン。


またお悩み相談か。


「……用件というのは?」


少し辟易したように話す、佐倉。

さっきより少しイライラしている気がする。


というかあの男子は確か……


……うーんダメだ全く分からない。

でも多分多分他クラスだ。

他クラスの人なんて、名前手なんて知ってるわけない。


「班行動の時じゃだめだったのかな?さっきまで話す機会結構あったでしょ?」


………。

もしかして…………。


「あったけどさ……この話はあんまり表立って話す内容じゃなかったし、誰にも聞かれたくなかったんだ……だから1人になるのを待って、そしたら佐倉が一人になったから、さ……ダメかな?」


まぁ普通にいったらダメなんだけどな?

でも多分。


「……短時間で済まして、十文字君」


不承不承と言った感じで、真希がうなずく。


だろうな、ここで粘られてもめんどくさいから、OKするしかないよな。

今絶対心の中ではめんどくさいって思ってるぞ、こいつ。


「あ、ありがと!!」


十文字君の顔に喜色があふれる。


あぁ素直な人なんだな。

たぶん佐倉の本心を何も察せられてない。


「……ただ」

「うん?」

「今度なにか二人で話したいとかあったらちゃんとアポイント取って?私にもっ予定とか色々あるから、さ」


喜色を察したのだろう、佐倉が釘を刺す、真顔で。

佐倉の真顔に、十文字君は、う、うんっと頷く。


俺の予想していることなら多分次はないけどな。


「……ちょっとごめん」


真希は携帯を取り出し、何かを送信。

すぐにおれの携帯が震える。


まきにゃん:『ごめん、めんどいのに絡まれたからちょっと会うの待っててください、ほんとごめん私から時間とてもらったのに、この厄介ごと終わらせないと落ち着いて話せなさそうで、ほんとごめん』


真希から謝りのラインが飛んでくる。


Takumiii:『……あい、はやくしてね

まきにゃん:『ほんとごめん』


まぁほんとならあいつ優先じゃないだろ。とも思うが、十文字君も何かしら覚悟決めてて退く様子もなさそうだから。しゃあないだろ。


俺が見てなかったらもう少し苛つくが、さすがにこれはどうしようもないから、みていよう。

あと普通に佐倉が心配だし。


「……それで話って?」


なんか佐倉の眼すわってね?


「お、おう!じ、実はさ……そ、えーっと」


やばい十文字君がもじもじしてる。

やめろお前それ、佐倉がイライラしてるだろ、察しろ十文字君。君は今佐倉のイライラを加速させている。

あと、もし告白しようとするなら、多分また後日に……


しかし十文字君は覚悟を決めてしまったようで。

佐倉の目をまっすぐに見て。


「……簡潔に言うわずっと前から好きでした!……友達想いなところとか、厳しい言葉とか言うけど、その割にだれかの為を想っての行動だったりとか、憎まれ役を演じたり。最初はいいやつだな、って思ってた。だけど、こないだ班で一緒になって話しているうちにどんどん好きになった!だから俺と付き合ってほしい!お願いします!!」


十文字君が言い切った。

簡潔かどうかは別にしても、THE高校生らしい告白っぽい。間違っても俺のかすみへの告白よりは100倍ましだろう。


それが真希に届くかどうかは別問題だが。


「……ごめんなさい、あなたと付き合うことは出来ません」


真希がしっかりと眼を見て拒絶する。


「……理由を聞いても?」

「私はあなたとのことをそもそも知らないっていうのもあるけれど……。でも根本的に仲いい人でも付き合う気はないんだ、今は誰かと恋愛する気はないからさ。だから誰から告白されても多分断るかな?……だから付き合えません、今は恋愛をしてるときじゃないから」


多分本音は前者のところ。

まぁ所謂「おまえだれ?」っていう状況だろう。

傷つけないための言葉が最後の言葉。ああいっとけば引きやすいだろって思っての言葉。


「……恋愛したくないって、でもさ。してみたら変わるかもしれないだろ?いろんなとこに二人で行ったり、高校生活が彩るって!一回恋愛を俺と考えてくれないか?遊園地とか水族館とか、いろんなとこ二人で行こうよ」

「恋愛しなくても十分私の高校生活は彩ってるよ、十文字君と付き合わなくても全然楽しいから大丈夫」


うわきっつぅ。

でもそう、そもそもこの理論で行けば十文字と付き合わう必要ないよね別の誰でもいいよねそれ。


「……話はもういいかな?ごめんね、また明日から普通のクラスメイトでよろしくね」


最後だけつくった笑顔で真希はいった。

今日のことは忘れよう、と。


上手いな、これなら十文字も分かったよってなるはず……。


「待ってくれ」


腕をつかみ、それをとめる十文字君。


「……なに?触らないでほしいんだけど」


佐倉の目が絶対零度にまで下がる。

ただその言葉は十文字君には届かない。


「……成瀬か?」

「……え?」

「あいつと仲いいよな、あいつのために、ふるのか」

「……え、っと」


予想外の言葉に眼を丸くする佐倉。

ついでに俺も。


どう答えたらいいのかわからず、間があく。

なんでたくみの名前?と混乱してるんだろうな。

でもその間で確信を持ったのか、十文字君は語気を強め。


「成瀬と、仲いいよな。あいつが好きなのか?」


え?どういう話の流れでそうなった?


「いや、だから恋愛する気はないって」

「あいつと最近は話してないから、もう何もなくなったと思ったのに!」


あ、それを計算したうえでの告白なのか。


「というか、あいつの何がいいんだよ!ぼさっとしてて、友達も少なくて、なに考えてるかわからなくて、いっちゃえば勉強しか出来ないようなやつだろ?あんなののどこがいいんだよ……」


え?いきなりめっちゃ罵倒されてるんだが俺。


「それ以上言わない方がいいと思うよ、クラスメイトの悪口は」


それに対して、諫めようとする佐倉


「わからないんだよ!なんであんな奴が佐倉に惚れられるのか、あいつの取柄なんてないだろパッとしなくて」

「それ以上言うと、もうクラスメイトにすら戻れなくなるよ?」


佐倉の言葉も、十文字にはもはや聞こえない。


「そもそも今日のハイキング見たか、あいつこの程度の山で疲れ切って一番遅かったぞ?しかも相沢とかと最近は一緒になってさ!」


あぁ分かった、十文字の根底にあるのはきっと嫉妬心。

自分が仲良くしたい人と俺が話してるから言葉、か。


警告はしたからね、と佐倉。


「……それが?」

「え?」

「十文字君は巧と話したことあるの?」

「いやないけど。じゃあ彼の良いトコロ何も知らないよね?だって私でさえ本質の部分は分からないんだもん」


それは一種の自戒のようで。


「でもさ、少なくとも巧は君にそんな風に言われるような人でもないよ。パッとしない?体力がない?だからなに?少なくとも、相手のことも考えもせずにいきなり話しかけてきて告白するような常識外なことはしないし、常にかかわった人のことを考えてあげられる人だし、告白して振られた原因を人のせいにしないで、自分の何が悪かったかって考えて、悪いトコロを治そうと常に頑張れる努力家なんだよ、知ってる?今でこそ彼、全国レベルで頭いいけど昔は勉強できなかったんだよ?でも誰かの為を想って、ここまでになった。あなたは勉強しか出来ないって言ったけど、違うよ。彼は他のすべてを犠牲に捨てそうなったの、私のせいで。……だから彼をバカにすることは許さない」


「……俺にだって――」

「――何があるの?」


もうの独壇場だった。


「スポーツとかさ、人間関係とか」

「じゃあそれが果たして将来なにになるの?スポーツ選手になるわけでもないでしょ、どこまで本気で打ち込んでそのスポーツやった?本当にすべてを捨ててやったの?巧みたいに」


俺もそこまで将来のこと考えてないけどね。


「……くっ、それは」

「それはなに?」


真希が怒涛の如く追い詰める。

それだけ、ぶちぎれてるってことか俺をバカにされて。

ここまで怒ったところみたことないもの。


「少なくとも君が馬鹿に出来るような人間じゃないよ、彼は。……私もそうだけど、私は彼の相手にすらなってない」

「なら相手になってない同士――」

「――勘違いしないで?」


その微笑みは氷の微笑だった。


「…………っ?!」

「誰かを好きになるのはかまわない、見た目から入って、好きになって付き合って別れて付き合っての繰り返し、サルみたいに盛って、そう言う恋愛をしてもいいとおもう、でもね少なくとも私はそうじゃない、だから考え方も違う、私とあなたじゃ考え方が違うの!想像力のない、あなたと付き合うことは出来ない、そこに他の誰かは関係ない!」


うっわえっぐ。

でもその言い方は……


「このッ!!!」

「なっ!」


十文字が力任せに木に真希を押し付ける。

うん逆上させるよね。


「ふっ、なに?言葉ではだめだから今度は力任せ?」


それでも気丈に、侮蔑の目を向ける真希。

怖いだろう、いやだろう、でも目を逸らさない。

強いなおまえ。


……多分十文字本人も頭に血が上っていて、何が何だか分かってないんだろう。

直情的にやった、それがすべて。

それじゃ決定的なことをする前に言う前にいくか……


「出来るもんならやってみせなさいよ!!」


真希の挑発に十文字は顔を真っ赤に染めて、手を振り上げたその瞬間を。



パシャる。



スマホのカメラでフラッシュを焚いて、思いきり音を鳴らす。


「「え?」」


声が重なる。


「……暴行罪の現行犯、でいいかな?」


笑顔で俺は前に出た。



ー-----------------

お久しぶりです。

ちょっと長めになりました!!

久々のしっかり真希回。

もうそろそろ2章も終盤です!!

今後もよろしくお願いします。

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