第62話 だってあたしのヒーロー


「……暴行罪の現行犯、でいいかな?」


十文字と真希が二人して、驚きで目を点にしている。

なんでお前まで驚いてるんだよ、約束してたじゃん。


「……な、成瀬?!」


十文字は真希を押し付けたまま、こちらを向いて、あたふたし始める。


「とりあえず真希を押し付けるの止めたら?捕まりたいの?」

「えっ……あっ」


急いで手を放し距離を取る十文字。


「知ってるか?」

「……な、何を?」

「犯罪者の末路」

「し、知るわけないだろ!」


「そっか、じゃぁ教えてやるよ。強姦で捕まったやつの末路はきついぞ?一生女性に無理やり乱暴したものとして、いろんな人から見られ、今捕まると高校も卒業できなくて、お前の好きなスポーツも満足にできなくなるなぁ。今後、就職とか結婚とかするにも伴う強姦魔としてのレッテル。控えめに言ってきついぞ?しかもお前だけならまぁいいけど、お前の親にも迷惑かけるってわかってるか?」


「……え?」


「お前の親もちゃんと教育できてない、っていわれるだけで済めばいいな。親の職場で強姦魔の息子を持った親ってことで、冷飯食わされるかも、もしかしたら仕事辞めさせられて、この地域にも住めなくなって引っ越してその後一家離散とかもあるなぁ、まともな職にも就けず、借金地獄。とかも全然あり得るな、で?」


途中から、十文字君は、わなわなと震えて、顔面蒼白になっている。


「……お、おれ」

「で?お前はどうする?お前を捕まえられるだけの写真と音声を俺は今持ってるわけだけど、これではお前の人生とお前の家族の人生を簡単に破滅させられる訳だけど?」

「…………っ!」


ここにきてやっと重要性に気付いたのか。手もわなわなと震えている。


「今お前がここで何もせず戻って今日のkとは反省して、全て忘れれば、この画像も音声も消す、家にあるものをな、それどうだ?」


十文字はもはやしゃべる気力も失ったのか、刻々と頷くだけ。


「じゃそれで話終わりな、もうこんなことするなよ、それじゃキャンプファイヤー戻って、火を見ながら楽しめよ」


ぽんぽんと肩を置くと、十文字はみんながいる方に向かって歩いていく。

そんな彼に帰り際。


「……折を見て、二人じゃなくて周りに大勢いるときに、謝りな、そしたらまぁ許してくれはしなくてもけじめはつく。いまだと恐怖心とかもあるからな、そんでそのあとは関わらないようにしな、それがお前にとってもいい事だとおもうよ、ちゃんと今後は物事考えて行動しな」


笑顔で語りかける。

正直こんな奴どうなってもいいが、真希が変な噂とかたてられても可愛そうだからな。


こんだけ言っておけば十文字も、馬鹿なことしないだろう。

家族のことまで言って暴挙に出るほど愚かな奴はそうそういない、うちの高校に来るような奴ならなおさらな。


「……止めてくれてありがと」

「データは消しとくから、……じゃ最後のキャンプファイヤー楽しんで?」

「すまない……」


肩を落としながら、陽気な場所に戻っていく十文字。


彼がもうこの林間学校は楽しめないだろうけど……まぁ自業自得だな。

自分の気持ちを抑えきれなかったゆえの罰。


さてさて。

ひとまずは。


「……おーい、真希……大丈夫かー?」


未だ木に背を預けている状態の真希。


「……ふぅ、あ、ありがと巧、助けてくれて」


気丈に笑う真希。


「はぁ、何やってんだよばーか」


ぽん、と真希の頭に軽くチョップ。


「……ふぇ?」


間の抜けた声を出す真希。


「手」

「……手?……あ」


真希は自分の手を見てそこでようやく気付く。


「手震えてるじゃん、気丈に、強がらなくていいよ、あんなの普通誰だって怖い」


ぶっちゃけ、ああ言っても分からないバカだったら、十文字がそこで引かなかったら、俺も人呼ぶつもりだった、それくらいあの時は危なかった。

てか普通に男子高校生が迫ってんなよあほ、誰だって怖いわおれでも怖いもん。


「そっか……」


そう言って、真希はへにょへにょとその場に座り込む。

頬には涙。


こういう時、漫画とかだと抱きしめたりなんだりするんだろうけど、残念ながら俺には出来ない。

そんなことしたらかすみにぶっ殺される。


真希は自分でも、頬を伝う涙に気付いたのか、隠すように俺に背を向ける。


俺らの関係は、幼馴染、じゃない。

でも他人というわけでもない。


なんでだろう、不思議と、学校で真希と会った時のような嫌悪感はない。


「……こっち見ないで」


その姿はいつもの自信ありげな様子とは違って弱弱しい。


はぁ、でもこのままじゃ話も出来ないし、しょうがないなぁ。


「……わっ?!ちょっなに?!」


ワシワシと、泣き崩れる真希の頭を撫でる。


「……ちょっ、髪型!崩れるから!」


あれ?昔はこれで泣きやんだんだけどなぁ。


「止めた方がいいか?」


ちょっと不安になって問いかける。


「聞かないでよ、もう少し優しくして!そしたら……続けていいから」


顔はお互い背けたまま、真希は俺の手を受け入れる。


声だけは強気で、でもその身体は震えていて。


顔は背け合っていても、ここ数カ月で1番距離は近かった。


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