第60話 好きの反対は……
「なぁ佐倉ダメかな……」
水洗い場の奥の人少なめのところで、佐倉さんと男子がいた。
何やら訳ありげ。
ということはつまり……
「こ、告白だぁぁぁぁ!!」
恋愛話大好きギャルが降臨する。
ふんすふんすと大興奮。
小声で興奮するという微妙な小技を披露しながら、バシバシと肩を叩いてくる。
非常に痛い。
大して俺は黙々と、皿洗いを続ける。
あいつやっぱモテるんだなぁ。
そう言えば、俺といた時もたまに予備出されてたもんなぁ。
まぁなぜか、高1の終わりごろには無くなってたけど。
それがまた復活したのか……。
うん、夏の魔物が現れたんやな。
「……うーん」
佐倉は答えに窮している様子。
あれ?普段は即答で断ってた気がするんだけど。
「頼むよ、佐倉ぁ」
相手の男子は頼み込み始めた。
「……はぁ分かったわよ」
「おぉぉぉぉぉ、ありがとォォぉ」
一方こちらのギャル。
「きたぁぁぁぁぁぁぁ!」
大興奮。
いいからあなたはちゃんと皿洗いしてごみ捨てしなさい。
「佐倉さんもとうとう彼氏もちになるのかぁぁ。単純に興味から聞くんだけど、実際どうなの?幼馴染が恋人出来るって」
複雑なもの?
と一心不乱に佐倉たちの様子を覗き込みながら、聞いてくる。
「うーん、正直に言っていい?」
「どぞ!」
「例えばさ、クラスの知り合いに彼女が出来たらどう思う?」
「え、知り合い?友達じゃなくて?」
「そ」
友達じゃなくて知り合い!
これ大事。
「うーん、特に何とも思わないかなぁ、しいて言うならお幸せに?」
「つまりそういうことだよ、昔馴染みでも一緒。大事なのは今の関係性だから、さ」
「え……」
2人の様子から一旦目を離し、こちらを振り向く。
「うん?どした?」
「う、ううん、何でもない」
そう言ってまた前を見始める。
そこまでなんだ……
とボソッと聞こえた。
好きの反対は嫌いじゃないといったのは誰だっけ……あぁマザーテレサか
その答えは『無関心』。
嫌いの反対もまた『無関心』なんだけどな。
等しく興味がない。
もう俺にとってはかすみの、彼女の、妹というだけ。
だから誰に告白されようが、誰と付き合おうが何とも思わない。
前の俺だったら、喜ぶなり悲しむなり何かしら反応しただろうけど。
「でも、沙里次第だからね?本当に聞くだけだからね?何も助太刀はしないよ?わかった?!」
「それでも全然いい!俺あいつと話すと憎まれ口叩いちゃうからさ、ちゃんと謝りたいんだ……マジでありがと佐倉!」
うん?
あれれ?
「……ねぇ成瀬君?」
「……どした?」
「これってもしかして、さ」
「うん」
「告白……じゃない?」
「……まぁ告白では間違いないけど、俺らの考えているものとは違うな」
ギャル神がうきうきする愛の告白的なそう言うのではなく。
「仲直りの折衷案とかかぁ」
「んじゃよろしく!!」
そう言って、男子は笑顔で走り去っていく。
後に取り残されたのは佐倉さん。
「……はぁ、全く。恋人同士なんだからちゃんと自分達で解決するために話し合いなさいよね」
つかつかと少し不満気にこちらへ歩いてくる。
あれ?このままだと。
「人を入れるとろくな事になんてならないし、人の悪意次第でどうにもできちゃうんだから……もうしないけど」
自戒のように呟く佐倉。
基本自分のことは自分で聞いた方がいいに決まってるよな。
俺も骨身にしみたよ。
「あっ、たくみ………それに相澤さんも…………聞いてたの?」
「いんやまったくこれっぽちも?ね?」
「う、うぅん!!」
嘘下手かよ相澤さん。
「……まぁいいんだけどね、それじゃ私紗里に伝えなきゃだから、皿洗い頑張ってね」
後に残されたのは俺と相澤さん。
「じゃ、俺もお先に。俺の持分は終わったから!」
そう、相澤さんはずっとそちらを気にしてたから忘れていただろうけど、これ本来2人の仕事だからね。
それを割り振ってただけで。
俺はチラ見しながらでも仕事は進めたので、この結果に。
「なっ、そんな殺生な!」
「殺生じゃありません、やってください!」
「ぐっ…………はっ!?」
女子っぽくない苦しそうに呻いたあと、しかし何かを思いついたのかニヤリと嗤う相澤さん。
「そういえば成瀬君さっきWブッキングさせて私が融通したよね??てことはぁ?」
「冗談冗談、もちろん手伝うつもりだったよ?」
「ほんとぉ?」
「ほんとほんと! 俺のこの透き通った目を見て!」
「うぅ……こ、これ以上は無理!」
相沢さんはすぐに眼を逸らす。
でもわかる。
おれはかすみと見つめ合ってたら慣れたけど。
かすみ絶対俺から目を離さないからね……まぁそのうち目以外も話されなくなるんだけど。
「で、どうだった?透き通ってたでしょ?」
「ううん、濁ってた!!」
自信満々に否定された!!
「そんなバカな!」
「まぁどっちでもいいから、一緒やるよー」
なんか気づいたら俺が、やってないみたいになってるんだが?
とりあえずまぁやるけどさ。
結果、皿洗いは3倍速く終わった。
これ俺いらなかったのでは?
……家庭系ギャルすさまじ。
そして夜。
明りが木々を照らし、影と光が交差する。
物陰に二人の男女。
「佐倉さん、ずっと好きでした!」
佐倉真希が、本当に告白され。
「ごめんなさい……」
名もなき男子が振られていた。
……なんか同じような光景お昼にも見たぞ?
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次回も真希編です。
次の更新は水曜日かな。
よろしゅう!!
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