第56話 あなたを知りたい(真希SIDE)

「……ういっす」

「……うん」


 バスの中はお祭りムードになっていた。

 どこもかしこもやれキャンプファイヤーだやれBBQだ、やれ肉を魚を、野菜は食わない、トランプやりたい、王様ゲームを女子とやりたいだの。


 最後の男子なんてもはや欲望駄々洩れで獣じゃない。


 そんな空気が許容されるほど、バスの中のテンションは以上に高かった。浮足立っていたとも言っていいかも。

 ……1部の席を除いて。


 まぁつまり私と巧の二人の列だけど。

 ここだけ隙間風が吹くレベルで盛り上がっていない、というか会話すら最初だけ。


 しかもバスの席は前の方になり、というか1番前だから後ろの会話に参加することもしづらい。


 つまり長野の山奥に行くまでの2-3時間私たちは隣の席ということ。

 でもこれは逆にチャンスでもある。


「……元気だった?」

「まぁ俺は……お前は?」

「私もまぁ」


 巧がお姉ちゃんの彼氏なのは知っている。

 直接お姉ちゃんに聞いたから。


 だからあの時私は振られたの?

 告白したときにはもう既にお姉ちゃんと付き合っていたというのは聞いた。


 だけどかすみ姉さんは


『ううん真希それは違うよ。確かに私はあの時彼女だったけど、でももし私がいなくても彼の答えはNOだったよ、これは確信を持って言える。私がいるとかいないとかは関係ないの。彼が告白の時にいった嘘をついたから真希の告白は受けない、それが本当に本当の答えなんだよ、なんでたくみがそう言ったか、これ以上は本人が言わなきゃいけないことだから私の口から言わないけど』


 多分そこが1番大事なところなんだろう。

 でもそれはわたしが自分で聞かないといけないことなんだと思う。


 葛藤する思いとは別に、口では雑談を続けている。


「……髪、切ったんだな」

「うん、今までの自分と決別したくて」


 嘘をついた。

 そのこと。でも私にはわかる、今までたくみと一緒に過ごしてきたから。

 今までの彼なら、姉さんとのことが嘘だと分かっても、そこまではしなかったはず。叱って、本気で怒りはするだろうけど、絶縁なんて言うそんな強い言葉は使わなかった。


 ……しかもあれは本気だった。

 本気でさよならを言っていた。というか今もそう。

 彼は業務的に話しているだけ。


 だから変えたかった。

 そんな自分を。誠実になれなかった自分を。これはそのための誓い。


「そっかそう言うのもあるよな、過去との決別の仕方は」


 まぁ俺は何もできてないけど。


 そうぼそりと呟いた。


 これ、きっとこれ。

 このことがきっと彼の心をむしばんでいる。

 それはきっと、私のこと……だけじゃない。


 告白の時もそうだった。

 嘘の話をしたとき、時折何かを思い出すように、憎悪を抱かせていたから。

 それが何かは分からないけど。


「過去と決別したい……の?」

「うん」


 即答だった。

 窓の外を見るその顔は、眼は、普段と変わらなくて。


 でもよく見ると分かる、その内面に激情を示しているのを。

 怒りか悲しみかそれが何かは分からないけど。


 だからこれ以上触れるのは止めた。

今の私は踏み込んじゃいけないから


「……今日この後山登りだっけ、久々だよね山登り、むかしみんなで登ったよね」


「あぁそんなこともあったな昔は。……今はもう有り得ないけど」


 ばさりと。

 そうばさりと切られた。


 ……多分今、彼の中で私は多分幼馴染じゃない。

 

 赤の他人。

 話したくないのかもしれない。

 でも彼は優しいから、今も話を聞いてくれている。

 久々に登校したときは目も合わさず、要件しか話さなかったのに。


 そんなあなたを、最初から優しいあなたを私は好きになったんだよ?

 私は昔からあなたのことが好きだったんだよ?

 私の嘘で、あなたが変わる前から。

 ずっと。


 伝えたいことはいっぱいある。

 話したいことも聞きたいことも色々ある。


 でもそれはきっと今じゃない。

 不意打ちの様な今じゃ。


 私はスタートラインにすら立っていない。

 だからまずは開始位置に。


 改めて関係を……

 だからこんな表層をなぞるだけの会話は止める。

 逃げるだけの会話は、髪と一緒に切ってきた。


「……ねぇ巧?」

「……どうした?」


 こんな表層だけをなぞるような会話がしたいわけじゃない。

 私はあなたに……


「キャンプファイヤーの後、時間、つくってくれない?はなしたいことがあるの二人だけで」

「…………」


 思案するように、深く考える巧。

 嘘告白の時のことを考えているのかもしれない。

 いろんな思いが去来しているんだろう。


 私と二人きりというのが、本当なのか嘘なのか、また騙されているのか、考えているのかもしれない。

 私はあの時失った、信頼というものをまだまだ取り戻せていない。


 私はそんなスタートラインにすら立っていない。

 だからまずは開始位置に。

 改めて関係を……


 私が彼への恋慕を、恋人になりたいという、その気持ちはやっぱり捨てられない。……けどだからって何かを、奪おうとしようという訳じゃない。


 ただ今はゆっくりとこのを冷めさせていき、いずれはあのころの3人の幼馴染に戻れるように。


 私の気持ちは複雑。


 でもまず1番にあるのは……謝りたい。

 あの時の小さな嘘を。

 今までの積み重ねた嘘を。


 全てはそこから。


 私は知りたい。

 何であんなに怒ったのか、あれからどうだったのか、何を想ってたのか。


 あぁあの時素直に気持ちを伝えていたらもしかしたら物語のように、かすみ姉さんと同じ土俵ぐらいには立てたのかな?


 ううんこんなのは無駄な妄想。

 思わず自嘲すてしまう。

 こんなことを今さら考えても仕方ないのに。


 だから今は前を。

 過去でも未来でもなく、今生きる現実を。


「お願い……」


 祈るように頼む。


「分かった」


 憮然と、しかし優しい彼は確かに頷いた。


 ー---------------------


 週末ですね!

 久々真希サイドでした!

 思い悩むJKうまくを描けられたかな?

 ちょい自信ないです笑

 感想教えてくだせぇ


 明日サポーター様向けにも更新予定です。

 とりあえずはお風呂回ということで。


 ではでは。

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