第39話 葛藤と答え(かすみside)

「本当にごめんなさい」


深々と真希は頭を下げた。


「……」


私は応えに窮してしまう。

それが私の偽らざる本音。


2人の自分がいた。

1人は許してあげるべきだ、と言う私。


真希は幼心の嫉妬で嘘をついてしまった。

それは確かに当時不安定だったわたしたちの関係を変化させるには十分だったけど。

今だったら真希の嘘に私もたくみも惑わされない、でも、真希同様に幼かった私たちは揺らいだ。

でもそれは真希のせいだけじゃなく、他の何かのきっかけで同じようなことになってもおかしくなかったかもしれないという可能性もある。


まぁつまり時と場合が悪かったということ。


真希の嘘もそこまで悪質じゃないと思えるから。

だから若かりし頃の過ちと言えばそれまで。

許してしかるべきだ、と。


最終的には付き合えたんだからいいだろう、と。

許すべきだ、と。



ただもう一人の自分が言う。


そんなのは結果論でしかない、と。

あくまで今彼と付き合えたのも、今たくみといられるのも数奇な運命の巡り合わせでしかない、と。


もしかしたら、いやまぁありえないけど、たくみをあきらめて別の彼氏を作っていたかもしれない、あの時たくみを追いかけなかったかもしれない。


そんなIFも十分あり得た。

それを何とか手繰り寄せたのは自分自身の行動とたくみの思いが殊更に強かったからで、それでも5年もかかった。


5年も彼と会えなかった。日々を過ごせなかった。

それはの弱さもあるけど、真希が原因の一端を握っているのも間違いない。


この5年のお互いの成長を共に歩めなかったのは、許しがたい。


そんな相反する感情が私の中でせめぎあう。

許すのか、許さないのか。


ずっと考えていたことだった。

でも先延ばしにしていた。

彼は私になんて言ってたっけ。

たくみなら私の立場なら何て答えるのだろう。


そんな風に考えた時。


「……あ」


思い出した。

たくみが最初になんていったのかを。

真希の告白を断った後で、私に最初になんて言ったのか。

あの時彼はそう。


自分がつらいながらも私にこう言ったんだった。


『真希を叱ってあげてほしい』


彼は謙遜して、優しくないなんて言ってたけど。

でもその言葉は真希に、更生の機会を、チャンスを与えるということだから。


そっか。

なら答えは決まった。

私は真希とどうなりたいのか。

そんなの最初から決まっていた、だからたくみもあの時ああいったんだろう。

ならば私の答えは……


「ねえ真希」

「……はい」


緊張した面持ちで返答する真希。


「……話は分かったよ」

「う、うん」

「それでどうするの?私との関係はこじれちゃって、たくみ君との初恋を無理やり断ち切って、私は彼氏を作ったのに、また気持ちをぶり返させちゃって、今取り返しのつかない事になってるんだけどどうするの?どうすればいいの?」

「っ?!そ、それは……」


自分でも相当意地の悪い質問をしていると思っている。

だって実際はそんなことないから。


でもね、ちゃんと考えてほしかったの。

あなたにとっては謝って終わりでも、そうじゃない人もいるかもしれないってことを。

自分の言動には責任があるんだってことを。


「た、巧との仲は誤解は、解けるようにする、か、彼氏に関しては、え、えっと、その……」


多分真希は彼氏が出来たと私がいった時、ほっとしてた。

それはきっと巧のことを忘れて別の人と恋をして、たくみとのことはもう過去になったと考えたから。

だから私なら笑って許してくれると考えたからだと思う。

でもそうじゃないよね?


「……ねぇどうしてくれるの?」


ただただ無機質に問いただす。

もうこんなことをしないように。

自分の行動に伴う責任を自覚してもらうために。


「な、なにも……私には、……出来ないっぅぅぅ」


すすり泣く声。

やっと自身の犯した、ありえたはずの未来を理解したのだろう。


「そこで泣くのは逃げだよ?」

「……っ?!」

「泣きたいのは私の方だよね?」

「……そ、そうだねごめん」


真希は涙を拭って、私をまっすぐ見る。


「私にはどうしようもできない、からっ。き、気が済むまで私の事詰ってくれていいから、かすみ姉さんの気のすむように――」

「――それもまた逃げだよ相手に罰をゆだねるなんて、自分で考えて考えて考え抜いて、どうしたらいいか苦悩すべきだよ」

「……っ」


唇をかみしめ、下を向く真希。

その拳は力なくダレている。


もうそろそろいいよね。

ちょっともうだめだ。


「っていうのももしかしたらあったかもしれない未来、でも実際は無かった」

「……?」

「たくみとの未来は何一つ消えたわけじゃないし、スタートしたばっか。ううん可能性に満ち溢れている」

「……そ、それってどういう……姉さんは彼氏がいたんじゃ」


きょとんとした顔の真希。


「彼氏はいるよ?」

「……じゃあやっぱりさっきのは」

「でもその彼氏は赤の他人じゃなくて……たくみだもん」

「か、彼氏が……た、たく、み?」

「そ」

「……ほぇ?」


理解できなくてショート寸前って感じだね。


「さっきまで話したことは嘘よ、そんな絶望的な状況にはなってないよ。ただそうな

る可能性があっただけ。真希には今後誠実に生きていってもらいたかったからお灸をすえたの、私たちに何もなくてよかったね?」


もうだめだった。

これ以上真希のつらそうな顔を見るのは。

やっぱり妹だからね。

笑顔でいてほしい。真希にはそれが似合ってるから。


真希の反応を待っていると、だんだん真希の顔に色味が戻ってくる。

そして……


「……グスッ、うえぇぇぇぇぇぇぇぇぇんッ!!よかっだよぉぉぉぉぉッ」


大号泣しながら私に抱き着いてきた。


「わ、わたしと、とんでもないことを、ね姉さんの人生を、うわぁぁぁぁぁぁぁっ」

「泣くな泣くなぁ女の子だろう?」


よしよしと慰めてやる。


「わ、わだし女だし、ぞぞれは男の子に言うやつじゃん、うわぁぁぁぁぁンっ!」


泣きじゃくる真希。

今回は反省を促したくて、かなりきつく言ったからね。

でもきつかった、ふりとは言っても実の妹に対してきつい言葉をなげかけるのは。


真希に本当にさよならを言ったたくみはもっときつかっただろう、本当に彼は強いふりをする子だ。本当は誰よりも泣きたかったくせに。

これはもうあったらたくみをもっと甘やかさないといけないわね。


「……でも何回も言うけどこれはあり得たかもしれない未来だから、今回はお姉ちゃんのたくみへの愛が深かったおかげでなんとかなったんだからね?そこ忘れないように。だから許すのは今回だけだぞ?」

「……うん、責任もつ」


泣きじゃくりながら私の胸にうずまる真希の姿は、昔を彷彿とさせた。

私と真希、それにたくみ、3人で遊んでいたあの頃にみたそんな姿を。


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ま、まだ月曜日(´;ω;`)

お仕事ご学業に、日々お疲れ様です。


どうでしたでしょうか。

かすみの選択は。

みなさんの御意見優しくお聞かせください。

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