第32話 裏庭での一幕

「……ねぇ成瀬話があるんだけど?」


トイレの前にいたのは沙里と亜衣。

略して真希フレンズ。


え?何こわ。

人気者じゃん俺。

これが追っかけされる人の気持ちかぁ、そりゃアイドルが病んだりするわけだよね。

トイレ戻ろうかな


「まってよ」


引き返そうとした俺に声をかけてきたのは沙里……ん?亜衣だったか?

あれ?どっちだ?

いつも二人だったから分かんない。


「……えーっとどうした?」


てか君は誰だ。

名前いってくれないか?


「どうしたって、ずっと言ってるじゃない、話がしたいってさ」

「それはラインでも見たよ、だから返信したでしょ?話すことはないって」

「沙里にしか返信してないでしょ!」

「二人いつも一緒にいるからいいかなって」


あと普通にかすみとの時間邪魔されてむかついたから返信しなかったんだけど。


「一緒にいるけどさ、それとこれとは――「亜衣」――沙里?」


お、自己紹介してくれた。

黒髪で前髪重めなのが、亜衣。

それに茶髪で猫っ毛ショートヘアなのが沙里。


よし覚えた。

いままではマジで興味なかったけどめんどくさい人として覚えた!

こうも連日連絡されるのは普通にめんどくさい。


「放課後時間もらってもいい?」

「よくない」


問答無用で即答。


「……え?え?なんて?」

「だから無理」


「理由を聞いてもいいかな?」


こめかみがぴくぴくとしてるけどまぁ気のせいだろう。


「普通に予定あるからかな」

「毎日?」

「毎日」

「へ、へぇ~忙しいんだ?勉強くらいしかすることなさそうだけど?」

「ま、仮に勉強だとしてもお前らと話すよりは有益じゃないか?」

「……あんたねぇ!!」

「はは、そんな怒るなよそれに先に皮肉を言ってきたのはあんたらだろ?」


もっと憎まれ口叩いてもいいけどこれじゃ話進まない。

てかさなんで俺が調整しないといけないんだよ、本来の目的分かってんのか、俺と話がしたいのに俺を挑発してどうすんだよ、感情押さえなきゃだろ。


だからそんな睨むな、俺だって話したいわけじゃないんだから。

「で、話だろ? はぁ。分かった聞くよ、でも生憎放課後は時間がないから昼

このまま話聞くからそれでいいよな?」

「……まぁ話を聞いてくれるなら」


なんで不承不承なんだよ。


「ハイハイ、んじゃここで話すか?けっこう注目されてるみたいだけど」


周りを見れば俺たちの微妙に険悪な雰囲気を察して遠巻きにこちらを眺める生徒の群れ。


そりゃそうだ男子トイレの前で男と女がそりゃ注目もされる。

されない方がおかしい。


「ここではちょっと……」

「はぁ分かったじゃあまた10分後とかに裏庭でいいか?」


今の時間屋上っていうのもな、熱いし。


そしてうろちょろして人の眼をごまかすこと10分。

何でおれこんなことしてるんだろうと思いながらジュースを飲んでた。


会いたいな~

何してるかなぁ~



Takumiii:『なにしてんの~?』


すると間も置かずにただ一言。


かすみん:『黒い霊柩車!』


あ、2時間ミステリー見てるわ。

お昼だもんなああいうのやってるの。

じゃあ邪魔しないようにしよーっと。


きっとTシャツ1枚で可愛らしく見てるんだろうなぁ。

あぁ早く一緒に帰ってみたい。

あ、そういえば今日金曜か。

ならあしたは……むふふ。


ふぅ早く帰ろう!


裏庭に着くと既に二人の姿。

さっきとは違いイライラと言うより、なーんか神妙な感じを醸し出している。


「あ、あの!」

「ん?」

「「あの、ごめん!」」


2人して同時に頭を下げる。


「……は?」

「さっきは態度悪くて!あれは話聞いてもらう態度じゃなかったから」

「……あぁ」


なんか面食らってしまった。


「その件はいいよ俺も煽ったところあるから、それは済まんかった!」


いくらムカついててもあれは俺にも非があるからな。

そういうところで謝れるかが、かすみに釣り合う男になれるか変わる……気がする。

まぁ本人二時間サスペンスみてるけど。


「それで話って?」

「真希の件なんだけど……あれ嘘告白って知ってるのよね?」

「ああってなんでそれを?」


真希か?


「あの告白の時近くにいたからそれで……」


あぁ誰かとすれ違った気がしたけどこの2人だったのか。


「それで?」

「真希の本当の気持ちを伝えようと思って――」

「――それは出しゃばりすぎだろ」

「え?あいつの気持ちはあいつが言うべきだろ、なんでお前らがいうの?」

「そ、それは――」

「――じゃあせめて嘘告白についても」

「?」

「あの嘘告白は名前こそ嘘告白だけど、本当の告白だったの!」


……うん?


「勇気が出ない真希に何とか言いやすいようにってそう思ってそれで思いついたのが罰ゲーム。そしたらやるしかないし、引けないでしょ」


まぁ友情の空回りって感じだわな。

へー。


「で?」

「で?って」

「俺に何してほしいの?」

「話を聞いて真希の気持ちを……」


なんだそれ。


「は、お前らはどの立場でそれ言ってんの?」

「どの立場」

「真希をそそのかした結果責任とれてないだろ?」


お前らは何も被害がないっていう。

それはずるだろ?


「そんなんでお前ら本当に友達なの?」


俺の言葉に二人は絶句。


「まぁ真希の話は聞くよ、お前らに言われなくても」


2人は俯いて何も言えない。


「真希のために本当にできることを考えろよ?友達なんだろ?」


そう言って後味の悪さだけが残った裏庭での一幕。


「ただいまー」

「おかえり」

「おうおかえり」

そんな後味のわるい金曜日。

家に帰ると、かすみと親父は鍋をしていた。


「WHY?」



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