第33話 夏の鍋、冷たい心と熱い身体


 家に帰ると、かすみと親父が鍋をしていた。


「え?……WHY?」


 頭が混乱した。

 なんで家にいるの親父。

 は?社畜じゃん家にいるはずないじゃん。

 あれてかなんで和やかに会話してんの?もっと厳格な雰囲気……はうちの親では無理か。寡黙にしてるくらいしかないか。

 喋ったらぼろ出るもんな。

 そして……


「なんでこの暑いのに鍋?!」


 冬じゃない鍋食べるの普通?!

 真夏日もちらほらある初夏ですよ今は!!


「いやー、最近暑いじゃん?」

「うん」

「お前らも熱々じゃん?」

「……うん」


 何その気まずい感想。

 てか俺らが付き合っているのは知ってるなこりゃ。

 まぁそうか、関係を知らなきゃなんでかすみがいるのかわからないもんな。

 かすみが説明したんだろう。


「今って俺だけ心冷たいじゃん」


 おうふっ?!


 真顔で言うな真顔で。

 より気まずいだろこっちも。

 いつ伝えようかなーって思ってたんだよ。

 あ、でも鍵渡すことラインで言ってたし気づいてたかもしれんけど。


「だから鍋にしてもらって、俺の心は冷たいままでもせめて身体だけでもあったかくなろうかなって」


 なんか親父遠い眼してるよ。

 うん。


「そうだよな、親父」


 わかるわかるよ。

 でもさ、親父にはかけがえのないものがあるじゃないか。

 絶対に裏切らないものが。


 心にいつも寄り添ってくれるものがさ。


「何言ってるんだよ親父、そんな悲しい事言うなよ」

「……たくみ」

「悲しむなよ、親父…………仕事がいつも隣にあるだろ?」


 親父の笑顔がぴきっときしむ音が聞こえた。


 俺はサムズアップして綺麗な笑顔を浮かべた。

 ここ最近浮かべていなかった綺麗な笑顔。


「……たくみくん」


 かすみは苦笑していた。


「息子よ」

「どうした親父?」

「……泣くぞ?というかなんか塩っぽい水が垂れてきたぞ?」

「はは親父ボケるには早いぞ?それは涙じゃなくて普通に汗だ?坦々鍋食ったらそりゃ汗かく」

「……うふふ、ごめんなさい笑ったらいけないんだろうけど」


 かすみが俺ら二人の会話を聞いて笑ってた。


「お義父さんは汗と一緒に心の涙をながされたんですかね」

「かすみちゃん……たくみいい子をもらったな!」

「まだもらってないけどね……でも将来的にはそうなるかな」

「たくみ……」

「かすみ……」


 思わず見つめ合ってしまう。


「……あれ?俺存在忘れられてる?おれそんな存在感無い?てか本当に仲良すぎないか?え?え?」


「たくみ、荷物おいてきてご飯食べよ、ちょっと早いけど」

「そうだね、食べようか、置いてくるわ~」

「はーい、待ってよっか?」

「元々食べてる途中だったんでしょ?そのまま食べてて~」

「うん、あ、お義父さんご飯よそいましょうか?」


 一瞬ぽけーとした顔をしながら、


「……あ、俺か。そ、それじゃもらおうかな!よーしいっぱい食べるぞー!」


 あ、親父接し方困ってるな

 おもろ。


 制服を脱いで、一緒の食卓に。

 俺も坦々鍋を食べる。


 ピリ辛でうまい。

 たまには暑い日に食べる鍋もおつだね。

 親父の凍った心のおかげだ。


「……それにしてもそっか」

「ん?」

「いやこないだ土日に帰って来た時にたくみの顔が久々に晴れ晴れしてたのはかすみちゃんのおかげだったんだな」

「……そんな違った?」

「まぁまぁ。……そうだなぁ中学くらいからちょっと変わったっていうか、意識が変わった?うーんはやく成長したい意思を感じたというか、意識してるなぁって思ってたんだけど」


 え、親父知ってたの?

 それに驚きなんだが。


 それにしても肉うまぁ。


「そんな変わったんですか?」

「そうだねぇちょうどかすみちゃんと会わなくなったころかな、俺はちょっとしかわかんないけど、その俺が見ても落ち込んでて、しばらくしたら、まぁ俺にとっては一瞬だったけど、そしたら何とか仮初の復活をしてた感じだなぁ印象としては」

「親父に似合わない詩的な感覚言うじゃん」

「俺詩人ぞ?」

「似合わな」

「だな、嘘ついた。俺も感覚としては気づいていたけど、この言い方をしたのは母さんだ」


 母さん?

 え?気づいてたのか?


「お前が悩んでたのは気づいてたよ」

「でもなんも声かけられなかったぞ?」

「あえてかけなかったんだよ、お前が乗り越えると信じてたからな、それで実際目的?を見付けて走り始めただろ?」

「そうだけど……」

「母さんも声かけたかったって言ってたぞ?でもあいつスパルタなところあるから。歯を食いしばって我慢したらしい。獅子が我が子を谷に突き落とすやつだよ」


 確かに母さんはそんなところあった。

 だからいなくなったときだからこそ信じられなかったんだ。

 てか父さんの話しぶり、まだ母さんの事愛してるんだな。


「……なんか湿っぽくなっちゃたな、そういえば巧はかすみちゃんと二人の時どんな感じなんだ?」

話題を変えるように殊更明るく親父は言った。

それはいいがその話題は俺にダメージが


「たくみ君はですね~」


 そっから始まったのは俺についての話題。

 かすみも嬉々として話し始めた。

 そしてずっといじられ続けた、鍋を3つつきながら。

 なんか久々でこういう感覚は楽しかった、家族みたいで。


 ただ親父にいじられたのは普通にむかついたけど。


「じゃ、いこっかな」


 鍋を片付けて、少しすると親父は徐に立ち上がった。


「あれ?仕事?少し休んだほういんじゃないか?」


 流石に母さん出てってから仕事に根詰めすぎな気がする。


「あ、違う違う、いやもちろんそれもあるけどちょっとやりたいことあるんだよ」


 やりたいこと。

 あ、リフレッシュ的に羽を伸ばすってことね。


「あーおっけ、楽しんできて」

「なんか勘違いしてる気がするけど。まあいっかあ、それとかすみちゃん」

「……はい?」


 いきなりの親子の会話に降られて困惑気味のかすみ。

 うんかわいい。


「かすみちゃん、こんなひねくれて素直じゃなくて意地っ張りで迷惑かけることしかないかもしれないが、悪いやつじゃないからこれからも面倒見てやってくれ」


 真剣にそう言って親父は頭を下げた。


「頭を上げてください、昔から私も助けてもらってますから。それで言うと私も巧君の面倒見ますけど巧君にも私の面倒みてもらいますから。だからお義父さんこそ今後もよろしくお願いします。」


 かすみが恭しく頭を下げる。


「いい子と付き合ったじゃん、たくみ」


 がしがしと頭を荒々しくなでて、そのままスーツで外に出ていく。


「……いいお父さんだね」

「……さぁ?」


 そう言って玄関を閉めようとしたところで親父は慌てて戻ってきて


「一つ言い忘れたことあった!巧こっちこい」


 そうやって俺を呼び寄せる。


 ……なんだ?


 親父は小声で俺にだけ聞こえるように


「……避妊はちゃんとしろよ?」

「やかましい!分かってるわ!」

「そっかならいい!行ってくるわ」


 清々しい笑顔で今度こそ行きやがった。


「……なんて?」


 純粋な笑顔を向けてくるかすみ。


「お義母さんと同じこと」


 一瞬顔を?にして、次いで顔を仄かに赤らめるかすみ。


「じゃ、じゃあ洗い物とかしたあとで、け、健全に、しよっか」


 かすみの恥じらいぶりに俺は悶絶した。


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 まだ火曜日!!!

 きっつ!!!


 今日会議なのでこっから仕事します!

 明日更新なかったら仕事で疲れ切って死んだと思ってください!


 いつも応援ありがとうございます。

 星とか、フォローとかありがたい限りです。

 作品のフォロー数も3500人を超えました!

 あといつも言ってますが、感想とかも拝見してますので、嬉しいお言葉ありがとうございます!!


 ではでは魔の水曜日頑張りましょう!





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