第10話 彼女の家


「ねぇかすみさ……かすみ?」


まだ呼びなれないな、呼び捨てにするの。


「……うんなーに?」


「この後どうします? もう帰りますか?」


とりあえず駅まではどっちにしろ一緒なので、ここまでは一緒に来たけども。


「そーねぇ、うーん」


むむむとうなるかすみさん。

時刻はまだ昼過ぎ。


かすみさんがどうするにしろ、俺としてはまだ家に帰るつもりはない。


「今日は途中で大学の講義をリモートで受けなきゃいけないから私は帰るしかないかなー」


そこは華の女子大生。

1日オフなんてそうあるはずがない。


「そうですか、それじゃここでお別れですね」


そう言って、俺はまた家とは逆方向の電車に向かおうとして――


「……どこ行くの?」


――それをかすみが呼び止めた。


「どこって……ちょっと友達のところまで」


「家とは別方向に? というかそしたら昨日その友達のところに行ってるはずだよね?」


「……」


理詰め!!


「それにあんなことがあった後に友人のところに行けると思わない。 

だから――」


一旦言葉を切って、断言するようにかすみさんは


「――またあてどなく適当にどこかに行こうとしてるでしょ」


俺の嘘を理論武装して完膚なきまでに見破ってきた。


「……ええ、まぁ」


「じゃあさ、どこにも行くあてはないってことでいい?」


「そうなりますね、今回は海行ったから次は山とかでもいこうかなー、ぐらいに考えてます」


それを聞いた瞬間かすみは眼をとがらせる。


「……なんで君はそんな人を不安にさせるようなところばかり行こうとするの? 2時間ミステリーとかで自殺したり、1番最初に死体が見つかる所とかじゃない! 心配になっちゃうでしょ?」


「前も言いましたけど、そんな気はありませんて。 ちょっと自然の? マイナスイオン的な? 地球の磁場を感じて? 人間と言うものの矮小さを感じようかなと考えましてね?」


「そんなとってつけたようなこと言わなくていいから!! これは君にいかに山や海が現場になってしまうかその危険性を教える必要があるようだね!!」


……ん? どういうこと?


「つきましてはたくみく……じゃなかったたくみ、わたしの自宅にこない?い、いいえきなさい! 二時間ミステリーの虜にしてあげる!」


命令!!

しかも赤面しながら言っているから可愛さの方が大きい。


女性のおうち。


「それはもちろん実家ではなく?」


「私の一人暮らしの方よ、あっちの街にはまだ戻りたくないでしょ?」


ちゃんと俺の気持ちも汲んでくれているらしい。

おれはまだあそこには戻りたくない。

とは言っても週明けには戻らなきゃいけないけど。

少なくとも今は現実逃避をしていたい。


「――じゃあお邪魔してもいいですか?」


「ええ、おいで?」


そう優しい声で微笑まれたらどんな男でもついていくと思う。

それぐらいかすみさ、かすみの笑顔は綺麗だった。


「そして私と二時間ドラマの熱に溺れましょう?」


ちょっと何言ってるかワカラナイ。




トコロで女性がおうちに誘うということはそう言うことだよね?

そう言うことをしてもいいという認識でいいんだよね?

古来より女性が誘うということは「食べちゃうよ?」的な話だよね?

まぁ昨日既に食べられてしまったからこれはリピーター的な……


二回目を期待しても??


そんなことを考えながら反対側のホームではなく、かすみと同じ方向の電車へと乗り込んだ。



かすみの家はかすみの実家から電車で大体1時間くらいの最寄りの駅だった。

海から帰ったら大体3時間強かかった。


帰っている最中に思った。

俺遠くに行きすぎじゃね?と。

そりゃかすみも心配するわ。


まぁそれさておき、かすみが一人暮らししている家までは駅から歩いて10分位の住宅街にあった。

人通りが完全にないという訳でもなくて、かすみいわく治安も良いらしい。


女性の一人暮らしとしては程々に安心らしく、家のセキュリティもしっかりしていて、玄関にはオートロック、宅配ボックスも着いており、他人と接触する機会が可能な限り減らされておりしっかりしていている。


「女性の入居者も多いんだよ〜」


とはかすみさんの言。

なら安心か。


「……と言うか女性しか見てないかも」


……前言撤回、別の意味で安心できない。

俺通報されるんでじゃ?


ま、まぁ?

とりあえずはかすみの部屋でおとなしくしていれば滅多なことではばれないだろう。


最優先事項はこんな誰に会うともしれない廊下を早々に抜け出すしかない。


「……は、はやく中に入りましょう」


俺の焦りを何かと勘違いしたのかめちゃくちゃニヤニヤしている。


「……もうなーに? そんなにお姉さんの部屋に入りたいのー? しょうがないなぁもう」


かすみさんの妄想は止まらない。


「やっぱ男子高校生だもんねぇうんうん、現役女子大生のリアルな部屋が気になっちゃうお年頃よねぇ」


にやにや。


にやにやにや。


俺の反応を玄関前で窺おうとする19歳。


「……いいから早く開けてくださいよ、ちょっとなんかババ臭いですよ?」


「ババ臭っ……そ、そんなベージュ色の下着なんて着てないし!!」


「だれもそんなこと言ってませんよっ!! 近所迷惑になるので、早く入れてください!!」


というか若い人でも全然、ベージュの下着はくと思うよ?

……かすみはまぁ濃紺のものだったけど、、、


ご、ごくり。


………………ふぅ。


よし、落ち着いた。


「なに悶絶してるの? 鍵開けたよ? ……あそれと本当に私持ってないからね!」


「はいはい」


「そこ!! 簡単に流さない!!」


ビシッ!!と効果音がつきそうなほどかすみの眼はまっすぐで。

そして重大な問題として玄関の入り口をふさぐように通せんぼしている。


ふんすっと腕組みしたせいでそのたわわな胸がぼよんっと揺れてけしからんことに。


でも早くしないと通報されるしぃ!!

しかもまだ懸念事項もあって。


「……分かりました!! かすみはベージュのばばくさパンツを持ってないし、履いてもいません!!! これでどうですか!?」


「……うーん?」


かすみは俺の迫真の言葉にも困っている様子。

そんなとき


がたっ。


誰かが帰ってきた音がした。


「……まぁいいでしょう! うちへどうぞ!」


そう自信満々に案内された先は……


ごちゃぁとした、いい意味でいえば生活感のある部屋だった。

その惨状を前にして俺は頭を押さえ、かすみは「……あ」と声を漏らした。


そうだと思ったんだよ。

実家でも片付け苦手だって、かすみのお母さんがぼやいてたから。

こうして俺の危惧は当たっていた訳だ、それも





「あ~危なかったなぁ」


たくみたちが部屋へと入っていったあと階段から姿をひょこりと身体を出したのは、の女子高生。髪をミルクベージュに染め、制服も適度に気崩す、所謂ゆるふわギャル。


「あんなカップルさんのところを通って帰るのは気まずいしねぇ」


それにしてもと、ゆるふわギャルは家に入る道すがらに先の光景を思い出す。


「あの男の子、どこかで見たことあるんだよなぁ……」


5秒ほど思案するが一向に記憶には出てこない。


「まぁいっか、いずれ思い出すよね!それよりもお姉ちゃんにごはんつくってあげないと」


すぐにさっきのことは忘れ、今日の夕飯に何を作るか考え始めるのだった。




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さてさて、海辺のホテルから女子大生の家に。

男子高校生夢のコースです。

女子大生の家は秘境か魔境か。

次回もお楽しみに。


沢山のフォローと応援ありがとうございます。

また★と感想などいただけてありがたい限りです!!。

これも皆さんの応援のおかげです。

ありがとうございます。


ではではまた明日の同じ時間に。


Ps.ストックが切れかけてます。(深刻)




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