第8話 真実の証明


「SE○しよっか?」


「.......」


「は?」



なんだそれなんだそれなんだそれ



「…………バカにしてるんすか?」


かろうじて出た声は震えていた。

ベッドに腰かけているかすみさんを思わず睨む。


身体でも与えとけば、高校生なら治まる、とでも思っているのか。


それなら俺を浅く考えすぎだ。


だけど相対するなぜかかすみさんは真剣な目をしていて。





「バカになんてしていない、ただ真実の証明になるかな、と思って」


「……真実の、証明?」


何を言っているのか分からない。

何をしたいかが分からない。


「うん、私がたくみくんを忘れていなかったって言う証明。もし他の人に浮気とかしてたら大学生なんだもん。普通やる事やっちゃうでしょう?」


やること。

そう言われればいくら俺でもわかる。

そう言うことだって。


でもたとえもしかすみさんが初めてだったとして。


……それが彼氏がいないという証明にはならない。




「.......そうだね、だからこれは悪魔の証明になっちゃうね。でもまあそれは後々の私をみて信じてもらうしかないかな?」


困ったように笑うかすみさん。


なんだそれなんだそれ。

そんなの俺にとってしかメリットがない。

最悪やり捨て去れるかもしれないのに。

かすみさんにとっていい事なんてないはずないのに。



「っ!?…………な、なんでそこまで、なんでそこまでするんですか!!」



「……そんなの決まってるじゃない………そんなの」



かすみさんはくしゃりと聖母がほほ笑むように笑った。



「たくみくんの事が大切だからじゃない、他の誰でもないたくみくんが。巧君じゃなきゃこんなこと言わないよ。他の人だったら最悪勝手ににどうぞって思う。でもこれはたくみ君のことだから。私からしたらたくみ君が壊れちゃう事に比べたら私の初めてなんて安いもんだよ」



屈託なく笑うかすみさんは昔の頃の笑顔のままで。


「ッぅ!?」


「たくみくんは変わらないよね。真希とか友達とかの前だと必死に我慢して泣かないようにしてて、弱音を吐かないようにしてる。辛いこともきついことも泣きたいことも全てを君の心の中にしまい込んで嗤ってる。それは間違いなく君の強さだよ?」


でもねーー


かすみさんは言葉を続ける。



「それは脆さでもあるの。 どこかで発散しないと爆発しちゃうんだよ。きっと今回のはきっかけに過ぎないんだよ。大きなきっかけではあるけど、元々積もっていたものが爆発したの、そうなる土壌は多分あったんだよ昔から」



誰も信じられなくなるくらいには。



「だから…………おいで?」


かすみさんが昔みたいに大きく手を広げている。


自分の感じていたことをそのまま言われた。言われてしまった。



そうか、俺は辛かったのか。


爆発したかったのか。




「事情は完全には分からないけど私も一緒にいてあげることは出来るから……」


「…………かすみ……さん」


泣いたらスマートじゃない、大人っぽくない。それじゃかすみさんに、釣り合わない。



「……誰だって辛いことがあれば泣くの、子供も大人も。…………だから泣いて、いいんだよ?」


ダメだった。


限界だった。


俺はいつもこの人の前では、1番大人っぽく見てほしい人の前でだけ上手く心を隠せない。


本心が溢れ出す。




「……うぅぅぅっ、ぁぁぁぁぁっ!?」




「大変だったねたくみくん」




俺はかすみさんの胸の中で声を漏らして泣いた。









「………………っ!?」




目を開ければ微かなライトの光が差し込んでくる。


俺は1人ベッドの上で布団を被って寝ていた。




「……今何時だ?」



時計を見れば深夜の1時。



辺りを見渡すも俺一人だけ。



「…………ん、かすみさんがいない」




…………タクシーでも呼んで帰ったんだろうな。




「……帰っちゃったか」



そりゃ幻滅されてもしょうがない。


かすみさんの胸を借りて泣いたから少しスッキリして頭が冴えてくる。


それで思う。あまりに見苦しかった。

そりゃ帰られてもしょうがない。


「ふられちゃったな」



「……たくみくん?」


俺が1人落ち込んでいるとかすみさんがドアをガチャりと開けて出てくる。


「……かすみさん、幻影……、帰ったんじゃってっ!?その格好ぅぅ!?」


かすみさんはバスローブを1枚羽織っただけの姿だった。


その姿は非常に扇情的で出るところがしっかり出ているかすみさんの魅力を余すところなく表現していて。


控えめにいって女神だった。


って見てる場合じゃないっ!!


「す、すすすいませんっ!!」


俺は慌てて目を背ける。


だが脳内には未だかすみさんの肢体が、残っている。




「……あははァ、恥ずかしいねこれ」



そう言いながらも近づいてくるかすみさん。


必死で目を瞑り続けるが、それでも衣擦れの音はしない。


「ふ、服、き、き着ないんですか?」


「さすがに海で濡れちゃったし着る気にはなれないよ」


「そ、それはすいません」


「たくみくん的には着た方がいい?」


な、な、なんだその問いは。


本音を言うなれば着て欲しくない、というかそのまま見たい。


が、それでいいのか日本男児よ!!


そこは紳士らしくいた方がいいんじゃないか!!


付き合ってもいない人にそんなことをするのは不誠実なんではないか!


まじめに考えるんだ。今の俺はクレバー冷静に物事を判断で出来るロボットだ。

いや、昨今の性事情はかなり乱れておると聞く。

ならここはワンチャン。

いやだが、やはりかすみさんには幸せになって欲しい。


こんな事でその笑顔を曇らせたくない。


だから!!!


「ち・な・みに分かっててやってるからね?」


わ、わ、わわ分かってる!?

新たな検討事項が出てきたぞこれは。

難問だ。フェルマーの最終定理くらい問題だ。

どんなものか知らないけど。

あれ?あれって最近解かれたんだっけ。

あれそれならつまりこれも解決で斬る??



「私はね、たくみくんに、私が今、ここに。私という存在が確かに君の隣にいることを感じて欲しい」



さ、さささっきのはなしはまだ終わってなかったのか!?



ファサリと俺の背中にかすみさんの身体が抱きついてくる。 そのなんとも言えない優しく、それでいて安心するような香り。



「……」


「たくみくん?」


「……いいんですか?もう止まれなくなりますよ?」


「……あーん、それは怖いねぇ」


そんな言葉とは裏腹にかすみさんは俺の体を抱きしめ続ける。


いやより力を込めてくる。


もう理性が効かなくなってきている。


これがあれか魔性の香りってやつなのか。


かすみさんの匂いに包まれて。


そのやわらかさに触れて。


全てが甘く蕩けそうだ。




だからか俺は口を滑らせた。




「綺麗だ。昔も今もどんどん綺麗に可憐になってる。だから俺はずっとかすみさんが好きで今も好きになり続けてる」



半ば独白に近かったが、言ってから気づく。

後ろにはバッチリかすみさんがいるわけで。



確実に聞かれてしまった。


まぁほとんどバレてたようなもんか。ポジティブ大事。



だが一向にかすみさんは何も口を開かない。



沈黙がラブホの部屋を支配する。


なかなか普段ならない光景だろう、ラブホでの静寂って。

嬌声で響くならわかるが。


だってここ、「せっせ、あんあん」する場所なんだからさっ!!!



なんか心の中だけでもふざけてないとやってられない!




……ん?


すすり泣いている……?




「……あ〜かすみさん?」


「ご、ごめんね」


……ごめんか。


ことわられちゃったか。


やっぱ慰めでここに来てくれたんだな。



自分で言ってて意味合いに気づいたのかアワアワと俺の後ろでしだす。




「……ち、違う違うの!嬉しくて」




「嬉しくて?」




それってつまり……




反転してかすみさんの顔をみようとかて。


唇に柔らかい感触を感じた。


目の前にはかすみさんの長いまつ毛があって。


「私も好き」


「もう止まれませんから」


「……あら怖い、でもあたしももう自制出来る気はしないよ?」


かすみさんの目も潤んでいて。

さっきまでとは意味合いが異なる。


これが正しい道なのかは分からない。


でもきっと二人で進む道が底なし沼だったとしても、俺はかすみさんあなたと共にいたいんだ。


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「かすみさん可愛い!」とか「巨乳!」とか「くそえろい!」

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今後もよろしくお願いします!!



ではではまた明日の同じ時間に。


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