第7話 失楽園 後編


最近のラブなホテルは受付から部屋に至るまでスタッフと顔を合わせないように配慮がされているらしい。


……いや~しかし高校の制服じゃなくて良かった。


制服だったら監視カメラとかに映ったらめんどくいことになりそうだし、サボりはサボりなので制服だと補導されるかなとか色々考えて、私服姿にした俺を誉めたたえたい。


えらいぞ俺!!


八割型今日は帰るつもりはなかったので必然の結果とも言える。


そういう意味で言うなら計画通り。


親父にも


【今は妻に逃げられて一人の時間欲しいだろ? 俺たまたまほんとにたまたま予定あって友達のとこ二、三日泊まる予定だからさ、その間に1人で身辺整理しろよ? 日曜には帰るから】


ってLINEを送っておいた。

そしたら即座に


【いや死なんし? 友達のとこ泊まるならもっと事前に言っとけって、まあいいか、分かった。あまり羽目を外しすぎるなよ?】


とお許しが出た。


俺も親父も馬鹿な会話をしてはいるが実際会話程の余裕は2人ともない。

2人して強がってるだけ。


家に帰らないのは計画通り。


「あ、あんな感じで部屋選ぶんだね?お姉さんドキドキしちゃった!!」


それが1人であれば。


「……部屋にも色々種類があるんですね〜、それに平日なのに部屋が半分ぐらいは埋まってましたよ」


もう何が何だか分からず思ったことを口にした。


「みんな人肌を求めてるってことなんじゃない?」


人肌……ねぇ、思わず失笑してしまう。


「……どうしたの?」


「いえ何も」


「なんか複雑そうな顔してるよ、なにかあった?っては聞かない約束か……ごめん」


複雑そうな顔……ね。


まあ確かにそうだ。


人肌を求めて母親は出ていったわけだから。


その息子が次の日には人と人とがお互いの温もりを確かめるために、人肌を求める場所に、来ることになるんだからこれほど皮肉が効いたものはない。

所詮は親子か。


あァ考えないようにしてたのに。


考えたら止まらなくなるから。


とりあえずこのなかでスタンダードぽいシンプルな部屋を選ぶ。 正直半分やけくそだ。


「そうですか?ただこういう場所に来て困惑しているだけですよ、かすみさんと違って俺は本当に初めてですから」


自分の言葉がささくれたっているのが分かる。


こんなことをかすみさんに言いたい訳じゃないのに。


母親のことを考えて。イラついて。


こんなのただの八つ当たりでしかない。


「私こういう場所は初めてだよ?」


「……ああそうでしたね、そう言ってましたね」


「……信じてないでしょ」


「いえいえ信じてますよ?かすみさんは優しいですもんね?」


俺に気を使ってそう言ってくれているんだろう。

そういう気遣いさえも今は腹立たしい。


部屋を選択し終わるとかすみさんも異存ないらしくエレベーターに乗り込む。


「……そ、そういえばおばさんには連絡した? 私は大学生だし一人暮らしだから大丈夫だけど巧くんは実家にーー」


「しましたよ、父さんには」


言ってからミスったと思った。


しましただけにしておけば良かった。わざわざ父親と強調したら、


「おじさん?? じゃあおばさん心配してるんじゃーー」


こうなるに決まってる。


かすみさんは間違いなく善意で言ってくれている。


そんなの知っている。分かっている。


分かっているのに止められない。


言うべきじゃないことは頭では分かってる。

嘘をつけばいいことなのに。


「あの人は心配なんてしませんよ」


かすみさんに言ってもしょうがないのに。


気を遣わせるだけなのに。


「あの人は家を出ていきましたから」


「……えっ」




絶句。




そりゃそうだ、こんなこと言われても困るに決まってる。


「何でもあの女は新しい人とやり直すんですって。それこそさっき言ったみたいに人肌?を求めに行ったみたいですよあははっ」


「っ……ごめん」


かすみさんが息をのむのが聞こえる。


さっき自分が複雑そうな顔をした訳を悟ったのだろう。


「別に慰めなくていいですよ、今は何言われても受け止められないと思うんで」


「…………真希には言ったの?」


真希、真希かぁ。


「真希?言ってませんよ?言おうとは思ってましたけど」


「そ、それがいいと思うよ、真希ならきっとーー」


「ーーでも言うのはやめたんです。言ってもしょうがないし確かにその場では慰めてくれるかもですけどクラスのやつらにばらしますよ」


「真希はそんな子じゃないと思うけど」


「さあどうですかね?案外そんな子かもしれませんよ?少なくとも今の俺にはそうとしか思えません」


あぁ今俺の顔は醜いだろう。


みっともないだろう。


初恋の人に当たって。


最低だほんと。


「……聞かないっていったけどごめん聞くね。真希とも何かあったの?ううんあったんだよね?さっき1度は学校行ったけど帰ったって言ってたもんね?」


そういえばバス停まで歩いた時にそんなこと言ったな。


「別にそんな大したことは」


「嘘でしょ、少なくとも君が傷つくことを真希はした?そうでしょ?」


違うか違くないかでいえば、違くはない。


チン。


「部屋に行きましょ、エレベーターも着きましたし」


「……そうだね」



2人して無言で部屋へとはいる。


不思議と他の人のせっせとした声は聞こえてなかった。


まだ盛り上がってないのかな?



「それで?」


まあそうなるよな、スルーできないよな。


「……そんな大したことじゃないですよ、ただ嘘告白?するって話を聞いちゃっただけです」


「嘘告白?」


あまりピンと来てないらしい。


「嘘で告白して1週間で振るってことみたいですよ?なんでも罰ゲームだそうで」


「……」


「なんか自分の大人びた感じがいけ好かないらしいですよ?俺なら許してくれるだろうって言ってました、何言ってんだって話ですよね。親の不貞程度で揺らいでる俺が大人びてるって。ほんと何言ってんだか」


「…………」



沈黙。


かすみさんはスマホを取り出して、何かをしようとしてでもやめたのかすぐに置いた。


かすみさんはベッドから立ち上がり、そして俺に向かって深々と頭を下げた。



「うちの妹がごめんなさい」


「嘘かもしれないでしょ?」


「たくみ君はそんな嘘を言わないのは知っている、それに真希はそのつもりはなくても君が妹の言動で、傷ついたのは本当でしょ。……なら家族として謝るのは当然、真希をもちろん信じたい気持ちもあるしお互いのことを聞かなきゃ真相は分からないけど。でもまずは傷つけたのは事実だから。本当は真希をよんで聞きたい気持ちもあるけれど。それも、確定じゃないし言われなくもないでしょ?」

かすみさんは一向に頭をあげない。


「ありがとうございます、大丈夫です。そんなに気にしてないので。それに高校生ならそういうことしたくなる時期もあるでしょ? だから頭を上げてください」


「……たくみくん、それ本心じゃないでしょ?」


「いや思ってますよ、まあ今回偶然、運悪く、たまたまそうたまたまタイミングが悪かっただけですよ」


普段なら騙されたと知ってもここまでダメージ受けなかったはずだ。


それが母親の家出と重なったから堪えただけ。


いや違うな、なんというか全てがどうでも良くなった。



「……さっきからたくみくんの言葉には熱が載ってないよ、まるでそうあるべき、と考えてるみたい」


確かに。


より大人っぽく。


潔く柔軟に。


「……例えそうだとして、かすみさんに関係あります?」


突き放す言葉。


これ以上踏み込んでこないでほしい。


あなたはもう関係ないんだから。


ただの他人なんだなら。


他の人としあわせになってくれればいいんだ!!


「あるよ、たくみくんは私にとっても大事な人だから」


「だいじなひと……ですか」


大事な人ねぇ。


どうだろう、あぁ弟的な意味合いか?


「信じてないね、ううん何を信じたらいいかわからなくなってるのかな、今の君には私の気持ちも届いていない、それぐらい深く沼に沈んでいる」


なんだそれは。


何が言いたいんだ。


「俺なんかに構わなくていいですよ、自分でなんとかしますから」


「こんな状態の君を放っておけないよ」


何言ってんだ?


何を今さら言っているんだ?


落ち着け落ち着けおれ。


「俺なんかより自分の彼氏を大事にしてあげてくださいよ。こんなとこで男と二人でいる場合じゃないでしょ、勘違いされちゃいますよ?」


「……何言ってるの?私彼氏なんていないよ?」


「居ない?あぁ今はいないんですね」


「今までもいたことなんてない!!」


嘘。


何で嘘を言うんだ。


俺は子供の時に彼女が仲良く男の人と歩く姿を見ている。


真希はそれを彼氏と言っていた。


だから俺はかすみさんの幸せのために……


あァ


あぁもう。


また嘘をつかれるのかよ。


「……そうですか、それはすいませんでした勘違いでした」


「思ってないでしょ、とりあえず謝りを口にしただけ」


「うるさいなぁ!いいでしょ!こっちが折れているんだから。かすみさんの嘘にも付き合っているんだから!!」


「嘘、嘘か。……そっか私の言葉も信じられないか」


悲しそうにかすみさんが笑う。


そんな顔が見たかったわけじゃないのに。


俺が見たかったのはかすみさんの笑顔なはずなのに。



俺は俺は……っ!?



「私の言葉……と言うよりはもう誰を信じたらいいのかわからなくなってるのかな?」


袋小路に迷い込んだみたいに。


「最も身近な人からの裏切り。しかも2人。昨日と今日はなんとか我慢してたけどとうとう爆発しちゃった感じだよね私でもそうなると思う。」


ボソボソと何かを呟くかすみさん。


すぐに顔を上げ俺と視線を真っ直ぐ合わせて


「ねえたくみくん」


「…………」


「S○Xしよっか?」


「…………………………………は?」


かすみさんの言葉が理解できなかった。


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ちょっといつもより長めです。




沢山のフォローと応援ありがとうございます。

また★と感想などいただけてありがたい限りです!!

日間ランキング11位になってて、ビビってます。

これも皆さんの応援のおかげです。

ありがとうございます。

今後もよろしくお願いします!!


いつもよりまじめにあとがきを書いてみました。

ではではまた明日の同じ時間に。

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