第5話 偶然という名の奇跡には理由がある
「巧くん!!!!」
かすみさんの切羽詰まったような声がした。
その声は昔聞いた声とほとんど変わりなくて。
…………でもそんなわけない。
かすみさんの声がここで聞こえるはずがない。
「……あァ」
とうとう幻聴まで聞こえる様になったか?
やばいかもしれん、そこまで追い込まれてんのか俺。
そういえば鬱の人は、最初鬱とか気づかないとか聞いたことある。
そんでなんかのタイミングで病院とか行った時に鬱っぽいって診断されるらしい。
……いや待て、でもちゃんと考えられてるってことは、自分を客観視できているから大丈夫だな、たぶん。
「……なんで今あの人の声が聞こえてくるんだよ。あの人は今こんな人がいない海になんているはずない。……普通に大学に行ってるはずなんだ、こんなとこにいるなんてどんな奇跡だよははっ」
自虐的に思わず笑ってしまう。
これはただのかすみさんへの未練。
ったくこの辺も大人みたいに割り切れたらいいんだけどなぁ。
「……それにあの人は彼氏と仲良くやっているはずだし」
だから断ち切るようにあえて自分に現実を突きつけ無理やりにでも納得させる。
1種の自傷行為とも言えるかもね。
あれ?
やっぱこれ鬱か?
「はぁ、まだ忘れられてないんだなぁ、かすみさんはもう小さい頃の約束のことなんてとっくに忘れてるっていうのに」
「わすれてないよ」
「……いやいや」
信じられない……。 ここにいるわけがない。
仮にこの声がもし。
もしも現実であるとすれば、こんな情けない場面をみられたことになる。
あの人には、大人っぽくて知的で、少なくとも彼女の隣に並び立つことが出来る、そんな風に自分を飾った、かっこつけられているそんな時に会いたい。
決して今のような、感情の行き場を失い、ただ発露してるときじゃない。
だから幻想であってくれ……っ!!
が、俺のそんな懇願にも似たある種の願いは、残酷にも届かない。
後ろの誰かは濡れるのも構わず俺、の正面へと回り込んでくる。
「みて」
グイッと顔に目線を合わされる。
が、見ない。
見たくない。
眼を開けようとしない俺に。
「……眼を開けてくれないと「キス」しちゃうよ」
「え」
「開けてくれたね?」
あ。
目の前ににこりと笑ったかすみさんの顔がある。
その顔は夕日に映えて、相変わらず綺麗だった。
そんなかすみさんに対して俺が出来ることは何とか作り笑いを浮かべることだけ。
だから次に出てきた言葉は自然と俺の口からこぼれていた。
「……なんで」
俺のつぶやきに対して、かすみさんは何故かその豊満な胸に俺の顔を押し付ける。
「……ふぇ?」
「……辛い時は、泣いて、いいんだよ?」
「…………っ」
泣いていい。
でもそれはスマートじゃない。
大人じゃない。
何時でも悠然と物事に寛容なのが大人だろう。
だから。
「…………っ?!」
必死で目から滴が零れないように格闘すること体感5分。
もしかしたらもっと短いかもしれないし長いかもしれない。
「……大丈夫です」
目の前には心配そうに見つめるかすみさんの姿。
「……どうしてここに?」
本当にどうしてここにいるんだ?
どうして、今この瞬間にいてしまったんだ。
本当にたまたま、奇跡が起きちゃったのか?
「……えーとね」
何故か言い淀むかすみさん。
え、なに。
なんで。
「い、言ってもひ、引かない?」
「はい………………多分」
「多分、たぶんね…… し、信じるよ!その言葉!」
そう前置きしてかすみさんは事の顛末を話始める。
それは俺を十分に驚かせそして
「おふっ…………」
悶絶させた。
「なになにどうしたの? どうしてうずくまるの!? 引いた? 引いた?やっぱり?!」
なんかかすみさんが目をアワアワさせている。
が、俺に構っている余裕は残念ながらないら。
ファァァァァァォッ!?
ふおおおおおおおっ!?
ぬあああっ!?
おれは心の中で大絶叫。
確かに心のダメージはあったが、その傷心中の姿を見られた。
さらに海で黄昏れるとかもうそれ痛いやつじゃん!
死ぬつもりとかではなかったけど!!
海に入ったのも海水冷たいのかなーとに思ったからだし!!
服とかそんなのは正直どうでもよかった。
もうぱっぱらぱーだっただけ。
総じていえば!!
俺の行動全て!!!!
紛らわしい!!
「…………か、かすみさん……」
「はい……」
かすみさんの覚悟を決めた目。
俺の真摯な眼差し。
夕焼けが俺らを照らす。
「本当に――」
「――本当に?」
すぅ、と息を吸い、力を込めて
「――すいませんでした!!!」
「……ふぇ?」
かすみさんの間抜けな声が聞こえた。
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