第4話 君との想い出(sideかすみ)
私が巧君を見たのはいつぶりだろう。
たぶんお正月に一回挨拶したあとかな。
本当に挨拶するだけの希薄な関係。
妹の真希は学校でも仲良くしてるみたいだけど生憎と私は彼の2歳年上。
残念ながら同じ時は過ごせない。
というか過ごせなかった。
中学に上がった頃に巧くんと急激に距離が空いてしまった。
丁度従兄弟のお兄さんと出かけたくらい。
ただ思春期だから今はそっとしておこうとか考えて日和ったのが運の尽き。
あれよあれよといううちに話しかけづらくなってしまい、1年、2年、……今ではもう挨拶する程度。
あぁ昔みたいに仲良く……。
ううんちょっと違うな、たぶん仲良くなりたいんじゃないんだ。2人だけの、2人にしかない関係に。
特殊な、特別な関係。
「ふふ、こじらせてるなぁ私」
初恋が呪い、とはよく言ったものだ。
まるで私のためにあるような言葉。
私はその呪縛から未だ抜け出せず、いやそもそも抜け出す気もないのだけど。
でもいい加減呪いを振り払って新たなステップに進まないと。 だって巧くんは多分「私との結婚」の約束なんてとうの昔に忘れて新しい道を歩いてるんだから。
あれ?言ってて悲しくなってきた。
※
今私は都内の女子大に通っている
大学は今全面的にオンライン授業。
地元でしなきゃ行けない手続きがあってたまたま戻ってきていた。
今まで面倒で住民票の変更はしていなかったがいい加減親に急かされたので、
渋々と一人暮らしをしている家から1時間と少しをかけてやってきた。
市役所は混んでいて、陰鬱とし、思わず昔のことを思い出して現実逃避してしまう程には面倒だった。
ちょうどその面倒な手続きが終わって帰ろうとした時。
「……あれ巧、くん?」
高校に行っているはずの時間なのになぜか私服姿の巧くんが目の前にいた。
心做しかその背中はしょんぼりしているような気がする。
というか、あれ?
「今の時間は…14時過ぎ、よね?」
普通なら学校の時間。
今は別にGWとか特別な休みという訳でもない。
(ならなんで?)
そんなふうに考えているうちと巧くんは駅へと向かって歩いていく。
いつもは胸を張って歩いている巧くんの背中が小さく見える。
いつも見てるとは言っても後ろから、しかも最近は残念なことにその後ろ姿すらあまり見れてない。
でもなんでだろう、あの後ろ姿は昔、わたしと距離が離れてしまった頃と少し似ている気がする。
真希は何も無かったって言ってたから信じてたけど……。
今はそれじゃダメな気がする。
なんか言葉には言い出しずらいけどどこか遠くへ、手の届かないところに行ってしまいそう。
どうせ今日は家に帰るだけだし遅くなっても問題はないわね。
巧君はフラフラとどこか覚束無い様子で改札へと電子カードをタップして入場する。
巧君が待っている電車は巧くんの学校とは正反対の方向。
これで完全に学校へ遅刻していくということも無くなった。
「巧くん?」
『まもなく電車がまいります。黄色い線の内側にてーーー』
私が少し離れたところから声をかけてみるが返事はない。
というか多分私に呼びかけられたことに気づいてない。
普段なら絶対に気づく距離。
何かあったのかな。
そのままおぼつかない様子ながら慌てて巧くんは列車へと乗る。
本来ならこんなの迷惑でしかないことはわかっている。
今は1人になりたいデリケートな時間なのかもしれない。
「ごめんね、勝手についてくような真似して」
彼に聞こえない謝罪を口にする。
こんなことされたらウザイだろう。
だから危ないことをしなきゃ声はかけない。
ただ見ているだけ。
そして何も無ければ今日のことは忘れる。
そう心に決めて巧くんと同じ電車に乗った。
※
夕暮れ時。
ここまで電車とバスを乗り継いできた。
さざめく波が砂浜に打ち上がる。
6月とは言っても有名なビーチではないし、平日ということもあってお客さんは巧くんと私以外誰も居ない。
巧くんは砂浜に座って1人、海を眺めている。
時折スマホが光ってはいるが見る気配もない。
海に来てからではない。
電車に乗っている時もそう。
彼は1回もスマホを見なかった。
景色も、何もみていない。
その瞳には何も映していない。
私がちょっと離れた後ろにいても全く気付かないほどには何も見えていない。
心ここに在らず。ずっと何かを考えるように一点を見つめている。
今もずっと水平線を眺めている。
ふと、巧くんが立ち上がる。
海に来てから30分。
そろそろ帰るのかな?
たしかにいい時間だし。
広い海でも見て黄昏たかった気分たったのかな?
その私の考えは巧君自身の行動によって否定される。
「……え?」
巧くんは靴をその場に並べておき、荷物も何も持たずそのまま海へと向かって前進していく。 ゆっくりと確実に。
まるで探し物が海の中にあるような感じで。
もしかして……。海を見たかったんじゃなくて。
海を、最後の場所にしたかった??
「…………あの頃は楽しかったなぁ」
ここまで一言も発しなかった巧くんがボソリと呟いた。
あの頃。
ここのビーチはたしか私たち家族と巧くん家族で何回か子供の頃に来ていた。私たちが小学生くらいの頃だったけ。
また来たらいい。私はそう思うけどでも多分違うんだよね、だって今楽しかった…って言ったもん。
過去形。それはつまり現在は違うといこと。
何かあったのかな。
真希とは上手くやってると思ってたけど
それとも好きな人に振られた?
そう考えて私の心がズキンとするが、今はそんなのどうでもいい。
「……はぁ」
深いため息。
そして……。
「もういっか」
巧くんは、海へと一直線に服のまま飛び込んでいく。
飛び込んでいく?
もう既にくるぶしまで海に使っている。
それでも止まる気はなさそう。
その光景を見た瞬間、見守るとかそういうお題目の全てを忘れ、私は巧くんへと向かって駆け出していた。
「巧くん、待って!!」
でも私の声は距離は潮風のせいで巧くんには上手く聞こえていない。
足に力を込め、必死に巧くんの元へと駆ける。
「巧くん!!!!」
近づいて呼び止めたら一瞬、ビクリと立ち止まった。
だが。
「……いやいやなんで今あの人の声が聞こえてくんだよ。あの人は今こんな所にいるはずない、大学に行ってるはずなんだから」
その声はどこか憂いを帯びていて。
「それにあの人は彼氏と仲良くやっているはずだし」
うん?
んんんん?
なんか訳の分からないこと言ってる?
私の事?
でも彼氏いたことないし。
じゃあ……だれ?
「はぁまだ忘れられてないんだなぁ、あの人、かすみさんはもう小さい頃のことなんて忘れてるっていうのに」
「わすれてないよ!」
「……いやいや」
巧くんに声は聞こえているはずなのに、それでも彼は振り向かない。
だから私は濡れるのも構わず巧くんの正面へと回り込む。
「みて!」
グイッと顔を目線に無理やり合わさせる。
その目は悲しげに染まっていて。
それでも彼はふにゃりと悲しげに作り笑いを浮かべる。
「……なんで」
巧君のその顔があまりにも見ていられなくて。
私は思わず彼を抱きしめていた。
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沢山のフォローと応援ありがとうございます。
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さてさて、ところでカクヨムの仕組みが分かっていないんですけど。こんなに読んでもらえるのはなにかあるのだろうか(困惑)
……考えても分からないので、Twitterでも眺めます。
@KakeruMinato_
よければフォローしてくなんし。
ではでは。
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