第3話 彼女との想い出

「大きくなったら僕のお嫁さんになってください!!」


 俺が幼なじみの姉に告白したのは確か俺が小学1年生とかの頃。


 自分で言うのもなんだがかなりませていたと思う。


 が、その答えも。


「……ふふ、嬉しい!…………はい、私をお嫁さんにしてくれるのを楽しみにしているね」


 彼女は優しくそう微笑んでくれた。


 応えを聞いた俺はまさに天にも登るような気持ちだった。


 嬉しくて、嬉しくて、嬉しくて。


 思わず涙ぐむほどに。


 俺は彼女のその言葉をずっと信じていた。


 *


 とは言っても中学1年生までだが。


 俺はまだその頃も彼女のことが好きだった。


 彼女は俺よりも2つ年上で中学3年生になっていた。

 その美貌は拍車をかけ美しくなり、また身体つきも非常に女性らしくなっていた。




 だけど俺は別に綺麗だからすきになったわけじゃない。一目惚れとかそんなものでもない。あるっちゃあるかもしれないがそれだけじゃない。


 彼女は俺が小さい頃からよく遊んでくれて、そうして接するうちに自然とその優しさに、笑顔に、その仕草に、全てに惚れていった。



 小学生からずっと好きだったんだから俺って結構一途よな。



 まあとどのつまり俺はそんなのことがずっと大好きだった。


 そう、だった。


 これは過去形。


 現在進行形では無い。

 無いと思いたい。


 まあ多少忘れられないことはあるがそれでもまあ以前の状態よりはマシになっただろう。


 俺は中学生の時に失恋した。


 それも間接的に。


 彼女が大学生ぐらいの男の人と歩いているのを見てしまった。


 その男は茶髪で優しそうで眼鏡をかけていて……。


 見るからに大人の男性と言った感じ。


 大人びたかすみさんとは年の差はありながらもお似合いの2人だったと当時の俺は思った。


 少なくとも中学一年生で背がまだ伸びていない、ちんちくりんな俺よりは。



 だがさすがにそれだけで失恋とは言えないだろう。


 だから彼は誰なの?と聞いてみた。


 今さら「大きくなったら結婚しよう」と約束したじゃん!などは子供の口約束で、かすみさんは忘れているだろうから、自分の口からは言えないが、それでもこんな俺でも、かすみさんが彼とまだ付き合ったりしていないなら頑張ろうと思ったのだ。


 かすみさんに見合う男になれるように。


 でもちんちくりんな俺はさすがに本人にあの人誰?彼氏?と聞くのはあまりに怖く、みっともなく感じた。


 だってそうだろ?


 もし本人から「今幸せなの〜」とか頬を赤く染め、はにかみながら言われたら死ぬ。



 心が死ぬ。


 だから俺は遠巻きに確認することにした。


 俺と同い年の幼なじみである真希に。

 かすみさんの妹である真希に。

 妹なら知らないはずがないから。


 そして返ってきた答えはーーー




「…………あぁ巧、見ちゃったんだ、そうだよあれはかすみ姉さんの恋人。半年ぐらい前? から付き合いはじめたらしいよ?」



 俺が絶望するにたる答えだった。



「なんか彼の大人びたところに惚れたみたい。やっぱり頼りがいがあったなんでもそつなくできるところがいいみたいよ〜」

「ま、まぁわたしは?大人びた人より?身の丈にあったというか……」


真希の最後の言葉はほとんど聞こえなかった。



「………そ、そっかぁ」



そういって頷くのが精一杯だった。

茫然自失とはこういった時のことをさすんだろうな。


 さすがにその月は凹んだね。


 中学に進学していた俺は部活に入ったこともあってかすみさんと接する機会は減った。


 というか部活に積極的に参加し、意図的に減らした。


 俺に残ったのは苦い記憶と大人びているということが大事だったんだと悟ったことだけ。


 だから勉強は頑張ったし女性たちに同年代の奴らがするようにがっついたりはしなかった。


 大人びている、それはつまり物事を客観的に俯瞰するということがそう見えると試行錯誤するうちに悟った。


 努力しても隠す、自分の気持ちを押しとどめ、感情を基本表に出さない。


 そんなことを積み重ねていったら同年代より大人びている、ひいては達観していると言われるようになった。




 こんな俺ならかすみさんは恋人にしてくれる?



 いや無理だな。


 即座に自分の考えを否定する。



 大人びたとは言ってもそれはかすみさん以外にの話。


 今でもかすみさんとは顔を合わせづらいし、話もあまり出来ない。


 それはもちろん失恋のこともあるが避けてしまったと言う負い目もある。

 いつまでも未練たらしい。



「今さらどんな顔をして会えばいいんだか…。 って今さらかすみさんのこと考えてもしょうがないのにな、だって」


 彼女はもうここにはいないんだから。


 これが俺が最初に裏切られた話。


 厳密には裏切られたわけじゃないのはもちろん分かっている。


 いつまでも初恋に縛られた陰キなやつだということも


 だが、でも、それでも忘れられないんだよなぁ。


 なんかのアニメで言ってたなそういば。



「初恋って呪い……だったか」



 言い得て妙だな。


 いつまでも俺を過去に繋ぎ止める。


 そういえばあの頃はまだみんないた。


 母さんと父さん、それにかすみさんに真希。


 俺の周りではみんなが仲良くしていた。


 それが今では男二人のむさ苦しい関係。




 ……うん、こんなこと言ったら親父泣くな。


 しかも親父あんまいないから実質俺1人。




 10年で関係が大きく変わっちまった。




「巧くん?」


『まもなく電車が参ります。黄色い線の内側にてーーーー』


 さて、行くとするか。


 俺はその場に列車へと慌てて飛び込んだ。



 だから俺を呼ぶ声は何も聞こえなかった。



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