番外編:月羽カケルには月羽きらりという従妹がいる ~狂愛からは、逃げられない!~
月羽カケルには月羽きらりという
「性格サイアク。いいのは顔だけ」と忌憚のない意見を述べるのは、カケルの親友できらりの母方の
カケルと継実はきらりから見れば父方の従兄と母方の従兄である。しかし、そうとは知らずに親友となって今ではルームシェアをしていた。
そんな部屋に今きらりが訪れているので、それを伝えたカケルに対し、彼女を嫌っている継実は「しばらく帰らない」とメッセージを送ってきた。
カケルにとっては、それはとても好都合であったが、もちろん表には出さない。そうすると継実がイヤがるからだ。
カケルにとっては継実は大切な親友である。その友情を壊したくないと思うのは、別に変な話ではなかった。
そして同じくらい――いや、それ以上にカケルはきらりに「狂って」いた。
そう言ったのはほかでもない継実だ。カケルは心外だったが、気にしてはいない。きらりの前では「理性ある獣」であることについては、カケル自身も同意するところであるからだ。
「も~ありえないありえないありえない!」
クッションを抱いたままごろごろとカーペットの上を転がるきらりを、カケルは微笑ましく見守る。
「どうしたの?」
そう優しい声音で尋ねれば、きらりはがばりと上半身を起こしてカケルを見た。
その顔は湧き上がる怒りを抑えられないらしく、少々赤く染まっている。それを見て、カケルはぞくりと背筋に快感が走って行くのを認めた。
けれどももちろん、そんなことは表には出さない。
優しい従兄の顔をして、カフェオレの入ったグラスをソファ前のローテーブルに置く。
きらりは礼もなくグラスを取ると、ぐいとひと息に喉を鳴らしてカフェオレを流し込んだ。
ゴツン、とローテーブルにグラスの底が当たった音がする。
「ありえないの! こんな美少女に迫られたのに冴えない幼馴染とかを取る気持ちが! ありえないの!」
「……振られたの?」
「振られたんじゃないっ! あたしが振ってやったんだから! でも、ホントありえなさすぎて腹が立ってるの!」
「そっか……その人たちは見る目がないんだね。きらりはこんなに可愛いのに」
ここに継実がいれば「見る目がないのはお前だ」とカケルに言っていただろう。けれども残念ながら――継実にとっては幸いながら?――彼はこの場にいない。
カケルの言葉を受けて、きらりは我が意を得たりとばかりに鼻息荒く頷く。
「ほんっとーにそうなの! 四人とも見る目がなさすぎるよっ! あ~あーんなキャラだと思わなかった~~~! 顔はいいけど中身はダメダメ! 時間無駄にした!」
きらりは再びクッションに顔をうずめて、ときおりカケルには意味のわからない単語を口にしながらバタバタと足を動かす。
ローテーブルに肘を突いてそれを見守るカケルの心は、とても凪いでいた。
きらりが「そのうち彼氏できる! 四人!」などと意気込んでいたときは毎日をすごすのが憂鬱で仕方がなかった。
きらりがその「彼氏」とやらを連れてきたときに平静でいられる自信がなかった。
そういうことを継実に相談すれば、「刃傷沙汰はカンベンな」とひどくイヤそうな顔をされたが、彼はまた「上手く行かねえよ」とカケルを励ましてくれた――そう彼は受け取った――のであった。
そして継実の予測通り、きらりは玉砕したらしい。
そのことにカケルはそっと胸をなでおろす。
しかし一度湧き出たドス黒い感情を打ち消すのは、獣のような衝動を御するのは、難しかった。
「お前は異常だよ。あいつのどこがいいんだかわかんねー」と継実は言うが、カケルからすればきらりに恋をしない男たちのほうがわからなかった。
けれどもそれは、カケルにとっては重畳。大変に都合がよかった。
そして継実が出かけている、今の状況も。
――きらりはどんな反応をするだろう? 泣き叫んでくれるかな?
未だにごろごろとカーペットの上を転がるきらりを、微笑ましく見守りながら、カケルはその頭の中で彼女が想像だにしないことを空想し続けるのであった。
溺愛からは、逃げられない! やなぎ怜 @8nagi_0
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