オマケ 貴族派の誰か その3
「アレがほぼ一方的に、婚約者を無視してるみたいで。飽きたって理由でまともに会ってもないし、会っても相手の言葉はほぼ聞き流してるし、意思の疎通どころか会話も碌にしてないようなんだ」
「…あり得ないが、アレならあり得るか…」
誘惑している側が言うのも何だが、婚約者がいるのに誘いに乗るのももちろんの事、アレの態度は貴族として婚約の意味とその重さを考えれば、普通ならあり得ないことなのだ。
「婚約した当初、アレは十一歳だったそうだし、その後まともに会ってもなくて会話もしてないなら、見た目だけはいいし周囲のフォローもあっただろうし、アレの異常さには気付きにくいと思う」
アレの異常性は、幼児か子供であったならまだ笑って受け入れられるかもしれない。だからこそ、婚約者も子供であったアレと婚約する事を受け入れられたんだろう。
だが、残念ながらアレはもう学園の最上級生だ。
「…そうだな。俺も最初は全然気付かなかったしな」
「僕もだよ…」
見た目がいいのが災いしてアレの異常性は、大体付き合いだして四日目辺りで感じ始めるのだ。そして、その異常性を理解したら最後、理由あっての事だけど、誘惑する為に近づいた僕達の方が、アレを受け付けられず、また傍に居る事が気持ち悪くなって、精神的に耐えられなくなる。…自分に夢中にさせて破棄させてやると自信満々だったヤツが、一人では到底不可能であると悟り、そうして僕達の同士になっていくのだ。減っては増える同士の参加理由はこれが基本的なパターンとなっている。
「どうやったら、あんなのが生まれるんだろな……あれか、教育が悪かったのか?」
「う~ん、様子を見るにキャメル伯爵側には諫める側と甘やかす側がいて、諫める側が教育しようにも甘やかす側が邪魔してこう着状態になるパターンが多いみたいだね。甘やかす側に非があると思うけど、諫める側の当主が強く出れないのは理由がありそうだけど…」
「バーナー伯爵家側は?」
「親も婚約者も諫める側だけど、大事にしなきゃいけない婚約者を無視するようなアレが、その親の話を聞くと思う?」
「ねぇな…」
「でも、教育のせいでアレが生まれたとは思えない、と言うか思いたくないよね」
「…だな、アレは元々ああだったんだろな」
教育のせいならば、僕達も含めて貴族全員がアレと同じになった可能性が出てしまう。基本的な貴族教育なんて大体どこの家でも大きな違いはないはずだからだ。そんな考えるだけで吐き気を催す可能性なんて、ないでしょ。ないよね? うん、なくていい。
「婚約者がアレの異常性に気付いて破棄するのが先か、
「なら、いっそのこと強制的に婚約者に向き合わせたらどうだ?」
「『大らかな海の民』と呼ばれ『人たらし』で知られるあのバーナー伯爵家の嫡男だよ? それで任務失敗したらどうするのさ」
流石にアレは受け入れないとは思うけど、過去のバーナー伯爵家の『大らかさ』によって起きた逸話は有名だからな。例えば、『とある公爵家の悪童が聖人になった事件』とか『異国の強欲な豪商が財産投げ打って求婚事件』とか。婚約者である嫡男とは付き合いがないので性格等は良く知らないが、聞いている話では血の素質は受け継いでいる様子だ。はっきり言って、アレと向き合わせてどう転ぶが分からない所がある。怒らせたら怖いとも聞くから、今以上に刺激してその怒りがこっちに向けられても嫌だ。
「…そうか、どうやっても受けた任務の内容からして、後者の方法で頑張るしかねぇのか」
「…うん」
早く任務達成したいなと、切実にそう思う。
これは僕の勝手な予測だが、王家派と中立派への嫌がらせはついでであって、貴族派の高位貴族の本当の目的は、最初の方で脱落していったらしい身内内のロクデナシ連中を、一斉処分する為に始めた事なんじゃないだろうか。だが、予想外にアレがアレだったのでロクデナシ連中が早々に脱落し、嫌がらせ自体も今更引くに引けなくなって、僕達のような者達を成功報酬で釣って仕掛けているのだろう。…釣られた僕達も悪いが、ちょっと巻き込まないで欲しかったと思わないでもない…。
さぁ、愚痴を言っても仕方がない。そろそろアレの元に向かわなければ。嫌だけど。囲む同士達を助ける為にも、今付き合っているのは僕だしね。本当に嫌だけど。
それから、ある夜会の後。とうとう婚約破棄となった、と聞いた時。
各自、醜聞の責任を取る形で受けていた謹慎処分から解放された僕達は、同士の間で集まって大いに祝杯を挙げた。任務達成による喜びよりも、アレから解放された事による喜びの祝杯が主だったのは、余談かもしれない。
【完】
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