オマケ 貴族派の誰か その2


「それで、今日でだ?」


 なるほど、この兄も経験しているからこそ、僕達の事情同士のことを知っているのか。それで余計に心配して声をかけてくれたって事かな。僕はこの兄がだったことは知らなかったが、純粋に心配してくれた事は素直に嬉しいと思った。


「三回目で二週間目、かな…」


「よく保つな……同士は?」


「そろそろ代わってくれるって」


「もう親父に報告して終わりにしろよ、充分だろ。たった五日だけだし当然破棄のハの字さえ至らなかった俺だったが、貢献したからって親父が上に手回ししてくれて、一応出世の約束をもらえたぞ」


 いいな、と思うけど、それは兄に婚約者がいたからだと思うよ。誘惑する側に婚約者が居るか居ないかで、社交界を賑わす醜聞は大きく異なるし、自力で婚約者を見つけられなかった僕に対して、父はそんなに甘くない。


「…前の同士は五回目で四週間近く保たせたんだ。僕もせめてそれぐらいしないと…」


 まぁ僕の事情なんてこの兄に言っても仕方がないので、別の話をしておく。因みにその同士はその後、お腹を痛めて倒れてしまいそのまま脱落したって聞いた。噂では倒れた時に介抱してくれた医者の娘さんと良い感じらしい。男爵家出身だったからきっとそのままゴールインするんだろうな、なんて羨ましいのか、ちくしょうめ。


「は? アレと、五回? よんしゅうかん…? 本気ですげぇなソイツ…」


 僕の内心は知らずに、兄が感心したように呟いた。

 そう実は僕達、アレに付き合う苦肉の策として同じ任務を担う者同士達で、当番制のように順番を取り決めて、順繰りで付き合っているのだ。任務において互いにライバル関係であったはずが、今では互いを同士と呼び合い助け合っているこの状態。可笑しいだろう? でも、こうでもしないと本当に耐えられないのだ。僕は今回の任務によって、生理的に受け付けない人物が存在する事を初めて知った。同士だってそうだろうし、きっとこれまでの脱落者も同じなんだろう。

 だって脱落した中には名の知れた者も居たらしいんだ。女好きのロクデナシで有名な某侯爵の庶子は、付き合って二日目でお手付きにしたそうだが、その後一週間で脱落したそうだ。アレとこれ以上付き合うくらいなら未亡人の愛人になると叫んで姿を晦まし、一時期は行方知らずだったらしい。次に、女たらしで手癖の悪い有名な某男爵は、三日目で脱落。数多くの経験からアレの異常性を察知して、無理だと判断し、即座に撤退したそうだ。引き際が見事だったと聞いている。更には、高額な賭け狂いで有名な某子爵の息子は十日間耐えたが、賭け事は二度としないと誓いを立ててまでアレと離れたくて、脱落を望んだそうだ。他にもたくさんいるって話だけど、一ヶ月以上耐えた猛者は多くないそうだ。

 いやもうすごいよね、貴族派の悪名で有名所が軒並み脱落しているんだからさ。それまでもちょっかい出すよう指示はあったらしいけど、この任務が本格的に始まったのは、アレが十六歳になってからだって話だ。その時からアレはアレだったんだなと思うと、この場合、変わらぬアレを恐ろしく思うべきか、ロクデナシ連中にも一応貴族としての矜持が生きていたのだと感心するべきか。…おっと、思考が逸れた。


「…えっと、取り敢えず、次に代わってくれる同士はいるけど、あまり周回が早いと気付かれそうだしね、しばらく我慢するしかないと思ってるよ」


「アレが気付くか?」


「一応、伯爵令嬢だよ。それに万が一気付かれて破棄に至らなかったら、僕達の今までの頑張りが無になるのは絶対嫌だ」


 現在、同士は十数名居るが、一人当たり耐えられる期間はそんなに長くない。順繰りにだって限界はあるだろうし、いつこのカラクリにアレが気付くかとヒヤヒヤしているのは僕だけじゃないはずだ。僕は今回で三回目になるが、今の所アレは同名の別人だと思いこんでるようだった。一応前とは別人を装って髪型とか好みの服装とかは意識して変えてはいるけど、演技に自信がないから性格までは変えていないのだけどね。普通は気付くが、アレは自分が愛されていればそれでいいようなので、このまま気付かないでいてくれるのを祈るばかりだ。


「…さっさと破棄すりゃいいのに。あんなののどこがいいんだ…」


 うん、僕もそれはすごく思ってた。けど、同士達と共に頑張っていたら、ある事実に気付いてしまったのだ。


「いや、それが、たぶんバーナー伯爵家の嫡男婚約者はアレの異常さに気付いてないと思うんだ」


「え?」


 まぁ、驚くよね。


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