第7話 アンドレア侯爵家


「え…」


 咄嗟に『なんで』と叫びそうなった。だって生涯幽閉なんて、まるで重罪人扱いじゃないか。でもそれは僕の内にギリギリ留める事が出来た。叫ぶよりも、ライからそうなった詳細を聞き出したい。


「言っておくがルー、お前の責任じゃないし、破棄を選んだその判断は絶対に間違ってない。例え、貴族派の連中が関わっていたとしても、そうなる行動を取ったのはルル・キャメル自身だからな」


「それは…分かってる。でも婚約破棄だけでそこまでする理由がないだろ?」


 婚約が破棄となった事で派閥関係の問題があったとしても、国のバランスが崩壊してどうこうなるような大事態じゃないはずだ。もしそうなら、僕との結婚は強制的に決まっていただろうし。


「確かにこれまでの悪評や婚約破棄の件を見るならば、数年謹慎させて周囲の記憶から薄れた頃に復帰させる事も可能だったし、評価を気にしない家柄のとこに嫁入りさせる事も出来た。過去にも似たような人物はそれなりにいたしな。けど、俺に言わせればルルアレは無理だ、論外」


「…何か問題でもあったのか?」


 気の良いライに『アレ』と呼ばれる程、僕の知らない所でルルは重大な問題を起こしていたのだろうか。


「問題というかさぁ。ルー、俺の親父と今の俺の身分は知ってるよな?」


「アンドレア侯爵とその三男だろ」


「そう。で、ルーは俺と親友で、尚且つ親父のお気に入りな訳で」


「え、アンドレア侯爵が僕を?」


 初耳だった。ライの父親であるアンドレア侯爵には何度かお会いした事があるけど、特に何かした覚えはない。アンドレア侯爵家は古くからある家柄で、王家派の中でも現当主は現王と親しく発言権が強い、国にとっても王家派にとっても重要人物。お会いする前までは何となく頑固親父というか気難しそうな人柄を想像していたのだけども、実際にお会いしてみると、ライの友人と紹介された事が良かったのか、意外と気さくな方で話していると楽し気に良く笑う方だった。ライと同じ色彩を持ち美丈夫で歳を重ねてもモテる男性と言うのはこういう方を言うんだろうな、と思ったのが正直な僕の感想だ。


「…俺、ルーと話してる姿見てたけど、あの親父が笑う事自体珍しいんだけどなぁ。無自覚か…まぁでもルーは特に天然なとこあるからなぁ」


「天然?」


「あ~、うん、つまりルーの度量が広くてすごいって事だよ。嫌味もバカ真面目に受け止めてちゃんとまともに答え返すし、頭もいいから試すような問いかけにもあっさり返すし。どんな言葉にも怒ることなく相手をさっくり受け入れて、おまけに身分差を理解しながらもしっかり己の意見を通すとことか…いやもう、本気で気に入られてるからな?」


「えっと、褒めてくれてありがとう」


「そうだけど、そうじゃない…」


 でっかいため息を目の前でつかれたけど、真面目で頭がいいって言葉は充分褒め言葉だと思う。


「…あぁ、話を戻すけどな、前提として俺とアンドレア侯爵おやじは、ルーを気に入っている」


「ライはともかくとして、気に入られたのは僕の家の事もあるからじゃないのか?」


「まぁ、そこは否定はしねぇよ。そもそもバーナー伯爵家自体、でっかい港持ちで海軍にも通じてるから色々と魅力ありすぎなんだ」


 それには僕も同意する。現に破棄された側ではないが、『婚約者に浮気された魅力のない男』として評価され、社交界で笑い者とされても可笑しくない僕に、釣り書がどしどし届いている理由の一つだろうからだ。


「な、の、に、ルル・キャメルのバカな行動のせいで、同じ王家派のキャメル伯爵家を挟んで中立派のバーナー伯爵家ルーと親族になる、その当てが外れたんだ。侯爵家としては立場的にも距離感的にもそれぐらいが丁度良い関係だったのにさ。…ルル・キャメルの実態調査結果を知った時の、怒れる親父の顔は正直二度と見たくない」


「実態調査までしたのか」


「それは例の祖父母対策として婚約破棄の際、親父が承認者として両家の間に立ったからな。第三者として承認するのに事前に調査し、事実確認するのは当然だろ」


 あっけらかんと伝えられた内容に、それで前伯爵夫妻が異常に静かで、あんなに早く破棄が成立したのかと僕は深く納得した。

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