第5話 ルルの事


 昔からルルは興味が引かれるとすぐに飛びつくような子だった。次々に目移りしては、あれもこれもと欲しがる。我儘ではあるけれど、可愛いから許される…そんな考えを持つ女の子。欲しいモノは何でも与えられて、愛されて当然だと考えているのは、限度を超えて可愛がる祖父母のせいだろうか。いや、彼女が可愛いのは本当の事なのだ。貴族の嗜みとしてはダメダメだったけれど、笑ったり怒ったりとくるくる変わる表情や小柄な身体は小動物のような愛らしさがあって、とても可愛らしく見えるのだ。可愛いルルは周囲に愛される方法ことを誰よりも知っていた。


 そんな彼女が遅くなった社交デビューを果たし、婚約者ぼく以外の貴族子息達と知り合うようになり、学園に入学すれば親の目もない時間が出来るとどうするか。僕も婚約者として学園でも出来る限り一緒に居られるよう気を配ったけれど、学年も違うと校舎が異なる事もあるので、ずっと一緒になんて居られない。ルルの興味が愛を囁く周囲の男性陣に移るのは、彼女にとって自然な流れなのかもしれない。…そんな性格ルルだからこそ、彼女が集中して狙われたのだろう。


 ルルは単純に愛を囁かれている事を喜んでいるようだが、その相手はすべからく貴族派に属する男性だった。家柄を調べればすぐ分かる。派閥の対立関係いやがらせで私との婚約を貴族派が潰そうとしているだけだと気付くのも。そうなれば悪意ある彼女の噂話を流しているのも、彼女と踊る男性貴族派達の関係者だろう事は想像するに難くない。事実、ルルと良く踊る男性陣の一人の親族らがお茶会やパーティー等でルルの話を吹聴していたとの情報がある。このまま破棄が成ればあっと言う間に男性陣は引いていくだろう。もし残っていてもどうせ女関係にだらしないロクデナシに決まってる。


 当たり前だが、当初はバーナー伯爵家もキャメル伯爵家も貴族派が仕掛ける罠や、その悪意からルルを守ろうとした。僕の婚約者だし、キャメル伯爵家だって大事な娘なのだ。悪意ある噂だって消そうと色々奮闘した。だが、肝心の婚約者ルルが自ら喜んで罠に飛び込み、僕達の注意も聞いてはくれず、自由気ままに振舞い続けたのだ。結果、噂もほぼ真実であると周知されてしまい、貴族の社交界最悪の評価をルルには張り付けられた。両家共にお手上げ状態だった。

 婚約が破棄される結果になったのは、ルルの自業自得。……なんて、そう想い切れたら、良かったのにな。


「…ルル、僕は」


 真っすぐに僕の目を見つめるきみ。

 …目以外の事は褒めてくれた事がないけれど。


 真っ赤なバラが好きで甘いお菓子も大好きなきみ。

 …僕の贈った花はバラ以外彼女の部屋には飾られなかったけれど。


 ロマンチックな物語が好きで恋の詩集が大好きなきみ。

 …僕の贈った詩はヘタクソだと笑われてしまったけれど。


 ――それでも、きみのことが、すきだった。


 本当に、僕には恋愛運が無さ過ぎる。

 室内はまだまだ暗くて、明るい朝は遠そうだ。僕はもう一度寝返りを打つと、ギュッと目を強く瞑った。


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