第4話 彼女の評価
――そこで目が覚めた。まだ日も昇っていないのか、部屋の中は暗かった。
ぼんやりしながら夢の内容を思い出す。…僕に婚約の打診が来たのは、その次の月の事だったな。
相手はもちろん、ルル・キャメル。僕さえ良ければ受けるという両親。その当時の僕には色々あって、すぐには返答出来なかったけれど。結局僕は、散々悩んだ末に受け入れる事にした。
最初は、僕とは合わない子かもしれないと思ってた。何事にも真面目に取り組むライラと違い、ルルは我儘で好きな事しかしない子だったから。僕の方が年上ではあったけど、いつも僕はルルの我儘に振り回されていた。
…では、今は?
寝返りを打つ。
止めよう、考えるだけ空しくなるし、まだ起きる時間じゃないからもうひと眠りしよう……そう思うのに、思考は止まらない。
――僕の脳裏で、くるくると見知らぬ男性と踊るルルの姿が映る。
僕としては本当に、破棄でなく、せめて解消にしたかったのに何でこうなったんだろう。
男性側よりも、婚約破棄の申請をされた女性は傷物扱いされて遠ざけられる事が多い。解消ならば、家の立場にもよるが多少気を遣われるぐらいで済むはずなのだ。家の名にも傷はつかないし、友人二人の事もあるが、ルルの事だってまだ十八で高等学園を卒業したてで、彼女のこれからを考えればせめて…。それなのに、何で。
――ルルが誰かと話してる。カーテンの陰に隠れてそっと、重なる影。
あぁもう! すでに原因は分かっている、分かっているはずだろ、僕。
原因はルル自身にあるのだ。あの夜会の事もそうだが、それだけではない。十八歳で高等学園を卒業したばかりのはずの、ルル・キャメルの社交界での評価は社交デビュー以降すでに最悪だったのだから。
いわく、見た目の良い男なら誰でもいい尻軽。
いわく、欲しいモノがあれば何でも欲しがる我儘娘。
いわく、婚約しているのに不要に異性に密着する淫らな女。
始めは噂だったのに、ルルの無防備な行動で噂が周知されていき、他にも貴族の娘として致命的な評価はたくさんある。そんな相手に対して婚約の解消にすると
伯爵家としての面目がある以上、破棄を選ぶしかないのは分かっていた。頭では理解していた…僕の心が納得していなかっただけで。それでも、悪あがきのようにルルに最後の機会をと頼んだのは他でもないこの僕で、今日で最後にすると決めたのも僕自身。
――少しでも、僕の言葉がルルに届いて欲しい、…届いていれば。
何度もそう思った。でも、もう僕にはどうしようもなかった。これまでもルルには何度も注意していた。理解してほしいとお願いしたし、理由だって何度も説明した。それなのに、
あの夜会には、王家派の侯爵家や公爵家などの高位貴族の子息も参加していた。もしかしたら王族も隠れて参加していたかもしれない。そんな場で、
王家派は王家を中心として国を治める事を理想とする派。貴族派は高位貴族が中心となって国を導く事を理想とする派。中立派は王家と貴族共に国を支え合っていく事を理想とする派。これが、わが国にある三つの派閥で、互いに敵対している訳ではないものの、権威争いの一環として足の引っ張り合いや嫌がらせくらいはよくある事だ。
現在、
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