第3話 夢の中
その晩、僕は夢を見た。どこかふわふわした心地だったが、夢だとすぐに分かった。ルルと出会ったばかりの頃の夢だったから。
ルルとの出会いは、ライラに招待されたキャメル伯爵家主催のパーティーだった。
同格の伯爵家であるとは言え、中立派に属するバーナー伯爵家と王家派に属するキャメル伯爵家では特に接点がなく、治める領地だって国の南にある海側のバーナー伯爵家と国の北側にある山脈側のキャメル伯爵家では真逆もいい所。僕とライラとの仲がなければ、呼ばれるはずもなかったパーティーだった。
当時はまだ十三歳で学生の身分だったし、派閥の異なるパーティーに初めて出席したので、ひどく緊張していたのを覚えている。ライラは主催者側なので会場となった大広間を立ち回らねばならず、僕は両親と共にキャメル伯爵夫妻へ挨拶だけして早々に壁際に立っていた。両親はさすがに慣れたモノで比較的親しい相手を見つけて談笑していた。他に同級生もちらほらいたが、学ぶ事を重視する為身分差を問わない学園とは違うので身分差が明確にあり気軽に話せるような相手がいなかったのだ。
そんな僕を見つけ、声をかけてきたのが、ルルだった。
「貴方、素敵な目の色をしているのね!」
初対面で、彼女は僕を見上げてそう言った。青でも赤でもない、珍しい紫色の僕の目を、素敵だと笑いながら。
「君は…」
「わたし? わたしはルルよ。それより貴方の目をもっと見たいから、しゃがんでちょうだい! ねぇ、早く!」
戸惑うばかりの僕に、ルルと名乗った女の子は僕の服を掴んでせがむばかりだった。するとそこへ、数人のキャメル伯爵家の従者達が現れた。
「…お嬢様、見つけましたよ。お部屋にお戻り下さい」
「いやよ。わたしもパーティーで遊ぶのよ」
僕を壁代わりにして、ルルはサッと隠れる。十歳になると大体の貴族が子供達を社交デビューさせるのだが、十一歳の彼女はまだ正式なデビューをしていなかった。後から知ったが、一度大きな病にかかった事で祖父母が心配し、先延ばしに居ていたらしい。なので、デビュー前の彼女は本来ならこのパーティーにも参加出来ないはずだった。
当然その事を知っている従者達は引き下がらず、どうしていいか分からず困惑する僕に謝罪しながら、ルルを説得しにかかる。
「お部屋に新しいおもちゃをご用意しております」
「今はパーティーが大事なの」
「珍しいお菓子の用意もございますので、お部屋に――」
「いやったら、いや!」
「…あらあら、こんなところに可愛い私の子猫ちゃんがいるわね?」
「! おかあさま!! あのね、わたしね――」
最終的には呼ばれたのだろうキャメル伯爵夫人が現れて、すぐに飛びついたルルをそのままパーティー会場から連れ出して行った。それを僕はただただ見送るだけだった。
「ごめんなさい、ルーベン。妹が迷惑をかけてしまって」
「ライラ…。君の妹だったのか…」
フォローの為か、いつの間にかライラが僕の傍にいて、ライラのその言葉でようやくルルと名乗った彼女の正体を知った。
忘れたくとも忘れられない衝撃的な出会いだったのは、間違いない。
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