第2話 最後の機会
あれから僕は友人達と別れ、夜会から王都内にある
「いくら派閥の関係があっても、今のルル嬢では、な」
「ルーベン、あまり気にしないでいいのよ。後は親である私達に任せてちょうだい」
「うん、ありがとう」
自室に戻るよう促され、素直に戻る。嫡男ではあるが、まだ当主ではない僕が出来る事はない。婚約破棄の手続きは、親であり当主がすべき仕事の内だから。
貴族の中には子を道具のように扱う人もいるが、僕の両親は僕の意見を尊重してくれる。当主である以上、破棄の手続きだって勝手に進めていても問題ないのにさ。親に恵まれた僕は幸せ者だと本当に感謝しなきゃな。
色々考えながら必要最低限の明かりの中、着替えもせずにベッドに倒れる。
――今日が、最後の
今日の夜会では僕が彼女をエスコートした。本来なら婚約者同士でファーストダンスを踊るのだが、僕のダンスは下手だからと断られ、すぐ勝手に離れて他の男性達に囲まれ、踊り出していた。当然僕は放置されたまま。
友人達との会話をした後、ルルには帰る事も伝えたし、送る事も申し出たがあっさり断られた。…それは、いつもの事だった。今回は受け入れられたがエスコートさえ断られる時もあるくらいだ。彼女の隣を歩く男性はいつもその顔ぶれが違った。
笑ってしまいたいくらい、ルルはいつも通りだった。きっと今夜くらいは周りから色々しつこく注意されていただろうに。まぁ、だからこそ、エスコートだけ許してくれたのかもしれないが。
そう、今日の夜会でルルは試されていたのだ。僕に対しての態度やその行動全て、それらの結果によっては婚約の解消もしくは破棄となる。最後の判断は、僕に委ねられていた。
――とっくに、ルルはバーナー伯爵家の伯爵夫人になる事はないと、見切りを付けられていたのだ。
そらそうだ。僕が装飾品を贈っても、もっとと次を強請られるが、彼女がそれらを身に着けた所を見たことが無い。なのに他の男性からの贈り物を堂々と身に着け、周囲に自慢する。
どんなに僕がデートに誘っても、大抵僕の場合は仮病使われて断られる。知られていないと思っているのか、他の男性と喜んでデートしている様子は、周囲からの報告もあれば僕自身でも見かけた事がある。
思い出せる中で唯一まともだったのは手紙のやり取りだったが、初めての手紙から数えて七通目以降は、全て従者に代筆させていた事をライラから聞いて知った。通りでいきなり綺麗な字を書くようになったと思ったよ。清書させるだけの代筆なら良かったけど、内容まで全部含めての代筆だなんて、それってルルの言葉は何一つ手紙にはないって事じゃないか。
こんな相手に婚約を続けられるはずがなかった。僕の心情はどうあれ、バーナー伯爵家を軽んじるような態度を取り続ける彼女を、将来のバーナー伯爵夫人に出来るはずもない。
後は、僕の決心だけだったのだ。
解消とするのか、破棄とするのか。その判断はもう下した。僕は婚約破棄をする事に決めたのだ。もう後戻りは出来ない。
――…素敵な目の色をしているのね。
ふと思い出す。
初対面の時、彼女が言った言葉を。この国では珍しい紫色をした僕の目の事を指摘し、よく見せてと、はしゃいでいたその姿を。
僕にはもうため息すら出て来ない。その代わりなのか、熱い涙が出て枕を濡らした。
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