第5話 こちらがあなたの上司です

 隊長室を出て、長い廊下を二人で歩いていく。前方に開けた場所が見えて真ん中には円形の受付用のテーブルがあり、人間と鬼が仕事していた。

「ここが諸々の受付スペース。だいたい事務員が二人体制でいるから何か用があったら利用出来るから。事務員は基本的に狐面を身に付けているから分かりやすいよ」

「そうか…あっちは?」

「広げた扇みたいな形で右から第1部隊、第2部隊、第5部隊、第3部隊、それで左端が第4部隊だよ」

指差しながら説明をしている。

「ちなみに見る人には分かると思うけど、ここの建物、旧網走刑務所の形状と同じ感じの設計になってまーす」

バスガイド風の口調で説明するマリーに俺もつい突っ込みを入れる。

「…俺達は受刑者か!」

それに対し、まあまあ抑えてというジェスチャーを加えながらマリーはこう続けた。

「大小あれども罪を償うという意味では似たようなもんでしょ」

 マリーは事務員に二言三言話をすると、第2部隊と説明した方へ歩き出した。

「こっち側に第2部隊の4班があってだいたい事務系統を担当してるんだ。全部でうちの隊は一班5人位で5班編成になっていて、机の位置が数字の順番通り並んでいるわけじゃないんだ。そして班ごとに一組で行動するのが決まりかな」

 喋りながら廊下の突き当たり手前で立ち止まる。

 左側の扉に「隊長室」と書いた札がかかっている。

「マリーです。新人を連れてきました」

扉をコンコンと叩いて入る。俺も一緒に中に入った。

 内装は、学校の校長室と応接室を合わせた様な調度品と、奥に体格の良い男の鬼が立派な椅子に座っていた。

「マリー副隊長、ご苦労様」

「ほら、ご挨拶!」

「藤堂、文也です」

促されるまま名前を名乗る。

「座ったままで失礼。私が審判の門第2部隊の隊長、藤岡弘、だ」

「隊長、笑えないジョークはやめてください」

「失礼。藤岡弘、は魂の名で本名は近藤勇だ」

「隊長!ダブルで偽名使わないで下さい!」

さすがにマリーも怒りそうな雰囲気だったのを察したのか隊長が自己紹介した。

「本当の名前は樋山琰愁ひやまえんしゅうだ。これからよろしく頼む」

立ち上がり握手をしようとした瞬間、隊長が腰に手を当てる。

「…無理しないで横になってて下さい」

マリーに促され隊長はソファーに寝っ転がった。

…腰痛持ちなのか、大変そうだ。

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