22.5年ぶりの実家

 十分ほど走らせて、実家に着いた。

 庭付きの大きめの一軒家で、家の脇にガレージがある。その前に父親のジャガーが駐車してあるのは昔と変わらない。ガレージの中は物置になっているから車が停められないのだ。

 奈央は慣れた様子で、車をジャガーの横に停めた。

 年式の古いジャガーは、美奈が中学生の頃に中古で買ったものだった。納車された日、子どものように喜んでいた父親の笑顔を、美奈は思い出した。

 玄関前のスペースは、向かって右側が小さな畑のようになっている。道路から玄関をつなぐレンガの小道を挟んだ向かって左側には、プランターや植木鉢が並んでいて、いまは季節柄なにも咲いていないが、春になれば色とりどりの花が咲く。

「ただいまぁ!」

 玄関を開け奈央が叫ぶ。

「みなちんが帰ってきたよ!」

 美奈は奈央の後に続いて中へ入った。懐かしい匂いがした。

 奈央はスニーカーを脱ぎ捨て、さっさと廊下の奥へ歩いて行った。

 廊下の奥のドアが開き、母親の「帰ったの?」という声が聞こえてきた。

 脈が早くなって、息が荒くなった。美奈は廊下の床に腰掛け、手探りでブーツのジッパーを下ろした。

「美奈ちゃん、おかえり」

 足音とともに母親の声が近づいてきた。

「ただいま」

 美奈はブーツを脱ぎ、床の上に立った。

 母親は少し白髪の数が増えたように感じられたが、美奈の知っているままの姿だった。柔らかく温かい笑みを浮かべている。美奈は妙な違和感を覚えた。

「疲れたでしょ」

 母親は美奈からボストンバッグを受け取り、廊下を歩いて行った。

 美奈がリビングに入ると、奈央がソファに腰掛けていた。足をこたつテーブルの上に投げ出している。

 三人がけのソファと、こたつを挟んだ対面にひとりがけのソファ、棚がついているテレビ台に載った液晶テレビと、サイドテーブル。美奈の記憶のままのリビングだった。こたつ布団の柄が違うが、それ以外はなにひとつ変わっていない。

「なおりん、お行儀が悪いよ」

 母親がお盆にコップを三つと、紙パックのオレンジジュースを持ってキッチンから歩いてきた。

「足が疲れたんだもん。ねぇ、パパは?」

 奈央は足をこたつの中に潜り込ませ、そのまま滑るようにソファから床に腰を落とした。母親はテーブルの上にコップとオレンジジュースを置き、

「パパは、散髪」

「もうほとんど切る髪の毛なんてないのに」

「パパ、気にしてるんだから、そういうこと言わないの」

「ねぇえ、みなちん、座れば?」

 奈央がこたつ布団を上げて促す。母親もこたつに入り、コップにオレンジジュースを注いだ。

「美奈ちゃん、上着脱げば? マフラーもしっぱなしじゃない」

「みなちん、なんか動きが変だよね、今日」

 美奈は首元に手をやり、緊張感と違和感に戸惑っていた。

「ううん、ちょっと疲れたから、部屋で寝るね」

 逃げるようにしてリビングを出て、階段を上った。

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