第4話
人気のない国道沿いに路駐した。国道と言っても山肌が間近に見えるくらいには山深い道で、車の通りは一切ない。
私は《おにぎり@シャケ》を後部座席から勢いよく引き摺り出した。アスファルトと砂利とで顔と手を擦りむいた《おにぎり@シャケ》が情けなく呻いた。その声が癇に触った。
この程度で呻くなよ。ロペはもっと辛かったんだからな。
顔を蹴り上げた。靴越しに足の甲に鈍い肉の感触が走った。不愉快だった。
助手席からロープを取り出し《おにぎり@シャケ》の手首に巻き付け、そのまま引き摺る。抵抗する動きを見せた瞬間に蹴りを入れた。尚のこと抵抗するので、指を勢いよくバッドで潰した。
闇の中に絶叫が響いた。
痛みで神経が過敏になった《おにぎり@シャケ》は顔中から汁をこぼしていた。息は荒く、上手く呼吸すらもできていなかった。手近な樹にロープで身体を縛り上げてやった。
「ごめんなさいッ…ゆる…ゆるじでッ…」
樹に縛りつけられ、私を見上げる《おにぎり@シャケ》は醜かった。潰れた鼻。細い目。エラの出た頬。美しいロペと比べて、あまりにも醜かった。
「なんでお前が生きてるんだよ」
言葉は、嗄れて砂のようだった。
私はコンビニで買ってきたシャケおにぎりを《おにぎり@シャケ》の口に無理やり詰め込んだ。米のつぶれる感覚と《おにぎり@シャケ》の漏らす鼻息とが右手に感じられて、ひたすらに不快だった。
「ふぐっ…ぶぶ…」
何度も米を吐き出し、私の右手は唾液と咀嚼された米粒の破片で汚された。地面から落ち葉の混ざった土をすくい、《おにぎり@シャケ》の口内に詰め込んだ。
「食えよ食えよ食えよ食えよ!!!!泥食えよテメェ!」
《おにぎり@シャケ》の食道から迫り上がる胃液と吐瀉物を腐葉土で塞いだ。身体を跳ね上げ、《おにぎり@シャケ》は苦しみを表現した。私はなおも腐葉土を喉奥に詰め込んだ。
「吐いてんじゃねえよ食え食え食え!!泥食え!食えよ食えよ食え!」
気管に詰まったのか、数度痙攣して《おにぎり@シャケ》が動きを止めた。喉を蹴った。腹を蹴った。血と泥と米と吐瀉物が勢いよく《おにぎり@シャケ》の口から飛び出た。
「ひゅー…ふっ…ゔぁッ…」
酸素を再び肺に入れることができた《おにぎり@シャケ》の口に再びおにぎりを詰め込んだ。腐葉土も詰め込んだ。唾を吐きかけた。
何度も何度も何度も何度も、胃が膨れ上がる目一杯、米と腐葉土を詰め込み続けた。
唐突に私は飽きた。
《おにぎり@シャケ》を痛めつけることに飽きた。
もうこれ以上、こいつに存在して欲しくなくなった。復讐の嗜虐心が、殺意に負けた。
「死ねよお前」
私は力なく放心する《おにぎり@シャケ》を見下ろした。金属バットを空高く振り上げた。
《おにぎり@シャケ》はそこまで痛めつけられていても、尚、生に執着するように怯えた表情を私に向けた。どうせ命乞いだろうが、土が詰まっていて何を言っているのかわからなかった。
どこまで、醜いんだお前は。
私は勢いよく金属バットを振り下ろした。
頭蓋の割れる音がした。脳の潰れる感覚があった。
引き千切れた肉と液体の撒き散らされる音が静かな雑木林に響いた。
生温い湿度の中に、人間の中身の臭いと腐葉土の臭いとが不快なほどに立ち昇った。
私はその場に座り込んで、大きく息を吸った。涙が溢れた。感情が昂って、コントロールが効かなくなっていた。鼻血が垂れた。
それでも、私は笑っていた。
大きな笑い声だけが、月の光も入らない暗闇の雑木林に長い時間こだましていた。
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