第2話聖女様、あなたは残念ながら罪を

 教会にいるであろう、マリアンの元へと向かう。


 道中、子供のお小遣いにもならない全財産で、二つのパンを買って食べながら進む。空腹は満たされて行く。


 所持金はゼロ、そして、無職。

 ある意味、痺れる展開である。


 もし、女の子だったら火傷しちまうぜ。


 聖女マリアンとは、パーティを組んで共に死戦場をくぐり抜けた仲だ。


 教会でずっと育てられ、常識を知らない所があるが、マリアンの性格からして、人の物を盗むとは考え難い。

 でも、何度見ても紙には聖女マリアンと書かれている。



 教会は王城の次に大きな建物だ。

 久々に教会に来たが、外観に新たに装飾が増えている。


 いい身分じゃねぇか。


 綺麗に磨き上げられた十字架と、教会の建物の中央にあるステンドグラス。共に、女神を模した作りになっている。


 よしっと気合いを入れ、扉を軽くノックし、扉が開いた先の老婆へマリアンに会いたいと告げる。



 この老婆、年期が入りすぎだろ、魔女じゃないの?


「今、聖女様は祈りを捧げていらっしゃいます。祈祷が終わるまでは静かにお願いしますね」


 イエスッマダム。


 教会のメインとも呼べるホールに、祈りを捧げるマリアンを発見した。



 マリアンは祈りが終わったようで、名前を呼ぶと俺に気づいた彼女が、キラキラした目を向けながらこちらに向かってくる。


 足は遅いが、さながら主人を見つけたわんこのようだ。


 さぁベイビー。お仕置きの時間だっ。


「アルス様、来て頂けたのですね」

「マリアン、本当に会いたかった」


 端から見ている老婆からしたら、美しい出会いに見えたのかもしれないが、「本当に」の意味が違う気がする。



 さぁ、我輩の大事な金を返して頂こうか。

 おやおや?どういう事だ?

 この顔が、マリアンには通じていないだと?


 お金の話だ。

 どう切り出そう……。


 マリアンが嬉しそうに口を開いた。


「教会の外観をご覧になられましたか、アルス様。十字架やステンドグラス、あれは、アルス様の寄付の一部で出来た物ですよ」

「……俺の金???」

「はい」


 俺の記憶には……。

 寄付した覚えがありません。



「アルス様、私はとてもとても困っていたのです。救えない人々を救いたい。教会の外観を美しく変えたい。たまには、指輪やアクセサリー、豪華な服を買って、贅沢と言う物をしてみたい。そんな時、アルス様は私に言って下さいました。」


 俺が君の金貨になるよ。



 って言った?


 俺は言ってないよね?そして、あなたの欲望もりもり入ってたよね?それで、俺の金はどこに結び付くのですか。


「アルス様はあの日、強い意思を持った言葉で私に言いました。いつ、どんな時でもお前の助けに、必ずなるからと」


 ちょっと待って、ちょっと、待ってぇぇいぃ。

 それは、魔竜討伐の時だよね。


 よくあるじゃん。打倒するべき敵を目前に、不安な仲間に声をかけるやつじゃん。

 教養は?教会の人は、人の物を取っちゃダメって言わないの?


 なんで知らない間に聖女の生活スポンサーになってんですか。

 聖女の贅沢は、勇者の提供でお送りしておりますっておかしいだろ。


「マリアン、確認だけど、俺の金は収納魔法でしまっていたよね?」


「はい。ですが聖女の私には魔法への干渉が出来ます。収納魔法も魔法の一部ですので……問題はありませんでした」


 マリアンは笑っている。満足したような笑顔が眩しさまで覚える。


「マリアン、俺の金は……」

「余ったのは、袋に戻しましたよ」


 あぁ、マリアンが信仰する神よ。

 手癖が悪いってレベルじゃねーぞ。

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