第5話
「棘の衆」5
司令官の疋田藤吾は珈琲を飲みながらウシトラのデータを見ている。
「こんなデータは役に立たん!」
「え?は、はい」
副司令官の鳴海未華子はオドオドしている。
「脳波検査とか鬱とか統合失調症とか関係あるはず無いだろ?」
「し、しかし、衆の前兆を把握する事で今後の役に立つのではないでしょうか?」
「そんなのは解ってるんだよ!わしが言ってるのは奴等は苦行を乗り越えてくるんだよ!彼らの共通点は開いた後のカリスマ性だけであって悟りを開く前触れなど無い!在るとしたら心への大きなショックだけだ!その前触れなど調べようがないだろ!」
「そ、そうですが……政府も建前上このようなものを用意しないとですね……上に示しがつかないと言うか……精神論は通じないと言うか……」
「全く!政府も曖昧なやつらだ!」
「その曖昧さが平和を保っているのですよ」
「わかっとるわ!」
二人のやりとりはまだまだ続いていたー。
ウシトラはボロアパートの二階に暮らし始めた。
そのアパートの大家は志保の母で有り、志保とフジ子もこのアパートに暮らしている。101は志保の母、102は志保、103はフジ子である。ウシトラは201である。
学校の制服は学ランとセーラー服である。ウシトラは真新しい学ランを志保母から渡された。
あの激しい銃撃戦の中で両親は死んだ。
あの日の朝まで世田谷の一軒家で普通の生活をしていたのに、午後には全て無くなった。悲しいのだが…どこかで冷めた自分も居る。トラウマが消えたと言うか…何か開いたというのか…。
何とも言えない感情が胸の中に感じている。
ドンドン!ドンドン!
ドアが壊れそうな勢いで叩かれている。
ウシトラは慌ててドアを開けた。
「おっす!一緒に学校行こうよ」
「え?……やだ」
フジ子はドアを締めて再びドアを叩いた。
ウシトラはまたドアを開けた。
「おはよう!ウシトラ君!学校いこ!」
「やだ」
「どう誘えば一緒に学校行くの?」
「誘い方の問題じゃ無いと思うよ」
「なにが問題?」
「それは…特に」
「じゃあ一緒に行こうよ」
ウシトラは頷いて部屋から出てきた。
二人は無言で学校に向かった。
沈黙に我慢できなくなったフジ子は何度もウシトラを見た。
「あのさぁ」
「……」
「友達ってどうすればなれるのかな?」
「……俺、友達居ないから解らないよ」
「前の学校には居るでしょ?」
「学校行ったこと無い」
「なんで?」
「親は学校行かなくていいからお祈りしなさいって」
「お祈り?」
「親が仕事行ってる間、家に誰もいなくなるから貴方が護りなさいって」
「なんだそれ~」
「先生に言われた事を守らないと幸せになれないらしいよ」
「先生って?」
「村上康彦先生」
「なるほどね」
ウシトラの隣にいて念うのは初対面の時に感じた大きな暗い憎悪が少し変化しているように感じている。
フジ子はウシトラが衆になる前に助けなければと、任務を理解出来た気がする。
つづく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます