文化祭の一幕(5)
僕のお姉ちゃんである若葉さんは完全無欠と思われがちではあるが分かりやすい欠点が一つある。
そう、徹夜した後ものすごーく子供っぽくなってしまうこと。
動きや言葉、性格などほとんど全てが幼くなる。
心なしかこの時のお姉ちゃんは僕より身長も小さく見えてしまう。
「千秋~今日もう学校休む~」
ちょっと!胸に顔をぐりぐりするの辞めて!
「おっぱいやわらかーい」
なんか男子小学生みたいなテンションになってきてない?このお姉ちゃん。
もみもみしないで!揉み方がすんごくやらしい!
「こら!さすがに恥ずかしいよ!」
頭をこてんと叩きながら言うと、お姉ちゃんは涙目になって目をうるうるさせる
「怒らないでよぉ......」
僕の胸に顔を沈めるお姉ちゃん。自分でいうのもなんだけど窒息しない?苦しくないの?
「にぃ、ねぇね泣かせたー」
「茶化さないの!お姉ちゃん元に戻さないと!」
この状態になったお姉ちゃんを見るのは何年かぶりくらいだと思うんだけど、前はどうやって沈めたんだっけ......
生徒会の仕事も沢山あって寝るに寝れなかったんだろうけど......
このまま学校に連れて行くとお姉ちゃんの生徒会長としての威厳が崩れ落ちてしまう......!
「お、お姉ちゃん、今日は大事な会議があるから資料作ったんだよね?」
「ちがうもん!」
あれ?そのためにずっとパソコンとにらめっこしてたはずなんだけど......
「お姉ちゃんじゃなくて若葉だもん!」
ふん、とそっぽを向くお姉ちゃん。
「おね......」
「わかば!」
今度は反対側に顔を背ける。
え、えぇ......これ名前で呼ばないと話すこともできないパターンなの......?
「わかばちゃん、お姉ちゃんと一緒に学校がんばろ」
ちょっと千尋さん、順応が早すぎますよ......しかもちゃっかり自分のことお姉ちゃんって呼んでるし......僕の方をちらりと見て表情で察したのか
「にぃよりまし」
とぽつりとひとこと。
たしかによく考えてみると女の子になってしまった僕よりは全然ましなのかもしれない......
「若葉ちゃん、お兄ちゃんもついてるからだいじょうぶだよ」
千尋を参考にして声をかけてみるけどお姉ちゃんは首を傾げる。
「お兄ちゃん?お姉ちゃんでしょ?」
な!いつもの冗談じゃなくて本当にマジでマジの表情と声色だ......!
ど、どうすれば......いいんだ?
「そ、そうだったね、お姉ちゃんだったね......」
ここで僕がとった選択はお姉ちゃんに合わせてお姉ちゃんになることだった。
お姉ちゃんの傾いていた首はさらに傾いて頭の上にハテナマークがいくつも浮かんでいるみたいだった。
「よくわかんない」
まぁそりゃそうか......
「にぃ、朝ご飯の準備してくる」
「ちょっと待ってよ!この状況で僕を置いていくの!?」
今の状態のお姉ちゃんと僕を2人っきりにするの?
「しかたない」
まぁでもたしかに朝ご飯の準備はしなきゃいけないし、お姉ちゃんは誰かが見ておかないといけないことを考えるとそうなるのか......?
「じゃ、よろしく」
そう言って千尋は布団から降りて部屋を出ていった。
部屋に少しの沈黙が訪れる......
ここは僕からなにか話題を振らないとな......
「わ、若葉ちゃんはどうして生徒会長になったの?」
「んーとね、わかばのばしょまもるから?」
言葉足らずではあるけれど言いたいことは大体分かった、まぁ姉弟だからね。
自分が3年間過ごす場所である学校の環境を良くして自分の居場所を良くしようってことだと思う。
なんやかんやこういう質問はいつもはぐらかされるからこういう機会に聞けてよかった。
そんな時、スマホにピロンと着信が入った。
『おりてきて』
単調な文だけどこれがいつもの千尋のメッセージ。こういう方が千尋っぽいけどね。
「若葉ちゃん、朝ご飯食べに行こっか」
手を繋いで2人で階段を降りる。
そこには千尋が言っていた通りフレンチトーストとコーヒーが置いてあった。
「さ、若葉ちゃん、座って」
椅子を引いてお姉ちゃんを座らせる。
「3人揃って」
「「「いただきます」」」
そうしてみんなでフレンチトーストを食べる。
しっかりと液に漬け込まれていて食パンに味が染み込んでいて甘くておいしい。
千尋?それはちょっと砂糖かけすぎじゃないかな?お、お姉ちゃんもそんなにかけちゃうの!?
2人ともびっくりするくらい砂糖かけてるよ......
「ね、千尋お姉ちゃん。この黒いのなに?」
お姉ちゃんはコーヒーを指して言う。
「コーヒーだよ、飲んでみて」
「ちょ、それ!」
「にぃ、しずかに」
千尋がお姉ちゃんに飲ませようとしていたのはコーヒー、しかもブラック。
今の味覚がお子様のお姉ちゃんが飲んだら......
そんなことを考えている間にゴクリとかなりの量を飲んだお姉ちゃん。
そのまま何も言わずにぷるぷるしているので大丈夫かと心配していると......
「このコーヒー濃くてとてもおいしいわね」
......ん?
「甘いフレンチトーストとよく合うわね、さすが千尋」
「でしょ」
千尋が平然とそう返す。
お姉ちゃんが元に戻ったのに!
......まさか
「千尋、知ってたの?」
千尋は気まずそうに顔を逸らして
「......まぁ」
もしやブラックコーヒーでお姉ちゃんが元に戻るのを知っていて僕の反応を見て楽しんでいたでしょ!
「何を揉めてるのか分からないけど私はもう学校に行くから学校に着くまでにはちゃんと仲直りするのよ」
ごちそうさま、と手を合わせて食器を運びそのまま部屋に戻るお姉ちゃん。
さっきまでのお子様モードはどこへ行ったのやら。
あと5分もすれば着替えて家を出るんだろうな。
......というかお姉ちゃんが徹夜していたとしてあのお子様モードに入ったのは一体いつだったんだろうか?考えれば考えるほど僕の疑問は増えていくのだった。
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