神代千尋②
場面は最初へと戻る。
「...やっぱりあいつ喋らないぜ......?」
「おい...どうすんだよ......ここから進まないよ?」
私には何を言ってるのかは分からなかった。
でも、悪い事を言われていることさすがの私でも分かる。
頭の中では、こういうふうに話そう、とか考えてはいる。でも上手く言葉として出てこない、そうして誰も何も言えずに沈黙の時間が流れていく。
すると先生が見かねて、
「ち、千尋さんは人と話すのが苦手らしいので!自己紹介はなしで!」
「新しい環境になって皆も緊張してると思うので、また機会があれば自己紹介してもらいます。」
周囲からの視線は決していいものではなかった。
なんであいつだけ自己紹介しなくてもいいの?とか、皆がやってることが出来ないんだとか皆の目が暗にそう伝えてくる。
これは3年目になっても辛い。
そうして自己紹介は私を除いて順調に進んでいき、休憩時間になる。
もともとあったグループ、新しく気があった人達で集まるグループ。
私はそのどちらにも属さずにいつも通りにぃのクラスへ向かう。
ただいつもと違うのは向かうのは春休み前とは違う教室ということ。
「にぃ、何組だろう?」
クラス替えしたからどこのクラスか探す手間がある。
そうして3つくらいの教室をドアの近くから覗いてようやく次に始まる授業の準備をする兄を見つけた。
「にぃ、やほ。」
「あ、千尋、何組になったの?」
にぃは私が近くにいることに驚くこともなく言った。これも毎年のことだし驚くとも思ってなかったけど。
「4組。」
「そっか。みんなと仲良く出来そう?」
「......まぁ」
「そっかそっか、難しそうだね?」
にぃが笑いながら言う。
「僕もずっといられる訳じゃないから、頑張って友達つくりなよ?」
「がんばる。」
こうは言うけど私が友達を作る気がないのを知っている。形だけの注意みたいなものだ。
すると予鈴が鳴る。
「ほら、予鈴鳴ったし教室戻って。」
「ん、また後で。」
授業中はずっと居眠りして、給食は黙々と食べて、休憩時間はにぃやねぇねぇのところへ行って。そんな感じの生活が1か月ぐらい続いたある日。
私がいつも通りに教室を出ていこうとすると、
「おい、お前。あんまり調子に乗るなよ。」
話したこともない顔も覚えていないような男子が何人かが私に言ってくる。
「なにが。」
いきなり強い口調で言ってくる男子たちに私は睨みながら言う。
男子たちは私の剣幕に少し怯んだ様子を見せたけど、
「お、おまえ授業では先生にあてられないし、いつも寝てるのに注意もされないじゃん!」
そう、私は先生にも好かれる訳もなく、なんなら少し避けられている感じすらあった。
私は授業が終わって寝起きだったのであまり機嫌がよくなく、つい言ってしまった。
「じゃあ、なんで1人で言いに来ないの?みんなで言う必要あるの?」
「それは皆がそう思ってるからだよ!」
「別に代表1人でいいでしょ。」
「そっ、それは!」
「私、あなた達みたいな人が一番嫌。皆一緒じゃないとなにも言えない人。」
「こ、こいつ!まじでふざけんなよ!一発ぶん殴ってやる!」
そうして激昂した男子の1人が拳を振りかぶって私のことを殴ろうとする。
私は今から訪れるであろう衝撃に目を閉じた。すると予想していた衝撃はすぐにやってきて、
ゴンと鈍い音がすると同時に鋭い痛みが襲った。
「あうっ」
バンッ
私は殴られた痛みだけならまだしも、あまりの衝撃に吹き飛んでしまい、
ドアに後頭部を強くぶつけてそのまま意識を失った。
最後に目にしたのは焦ったように私のことを見る少年達の顔だった。
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