第11話 「味噌屋のブタイケ屋」
商店街のはずれにあるブタムラ医院のすぐ向かい側に灰色の瓦屋根と黒い漆喰の壁のお店があります。このお店が味噌屋のブタイケ屋です。ブタノスケとブタムラ先生がお店に入ると店主のイケブタさんが出てきました。
「いらっしゃい、ブタムラ先生いつもの味噌ですか」
「今日は味噌を買いに来たのではなく、ブタノスケくんを連れてきたんだ」
「きみがブタノスケくんかい。話は聞いているよ。トンベイさんから、これをタダで渡しておいてくれと言われているんだ」
するとブタイケさんは米麹の入った袋をブタノスケに手渡しました。
「こんなにもらって良いのですか?」
「トンベイさんに会ったら、お礼を言っておくんだよ。なくなったら、また取りにおいで」「ありがとうございます」
ブタノスケはリヤカーを曳きながらブタムラ先生に言いました。
「先生、今日は本当にありがとうございました」
「いいんだよ。そんなに気にしなくて。それよりもトン次郎兄さんのことが心配だね」
「はい、昨日お見舞いに行ったら、ずいぶん痩せ細ってしまっていたんですよ」
「あまり食事ができていないのかな」
「はい、食べても直ぐに吐き出してしまうらしいのです」
「私も医師として、もっと今回のワクチンのリスクについて、島のみんなに警告をすれば良かったのかもしれないな」
「先生のせいじゃありません。それにしても、なんでテレビはワクチン接種をあんなに呼びかけていたのですか」
「私にはよく分からない。もしかすると大きなお金が動いているのかもしれないな」
「どういうことですか?」
「世の中には薬やワクチンを『カネ儲けの道具』としか考えていない人たちがいるんだよ」「そんなのひどいじゃないですか」
「残念ながら、それがこの島の現実なんだよ」
「そういえばブタシロ島やブタクロ島では、怪我や病気ではない者が薬を使うことはないという話しを聞いてきました」
「私も、怪我や病気ではない何も問題のない者は薬を使うべきではない思う。そもそも薬とは魔法の粒でもなんでもなく、薬の本質とは毒物なんだ。毒物ではない薬なんか存在しないんだ」
「でも先生、ブタクロ島の薬草名人のクロトンさんは『君の中にある、君自身の薬を大切にしなさい』と話してくれたんですよ」
「ブタクロ島の薬草名人は、そんなことを言っていたのか」
「はい。でも僕自身の中の薬といわれても、あまりよく分かりませんでした」
「いや、ブタクロ島の薬草名人が言った言葉は正しい。その通りなのだ」
「えっ、先生には意味が分かるんですね」
「これでも一応、医者だからな。世の中にある薬という薬はみんな毒物だが、ブタノスケくんの体の中にある薬だけは毒物ではないんだ」
「やっぱり、よく分かりません」
「例えば、ブタノスケくん、カッターナイフで指先を切ったことはあるか?」
「はい、間違って切ってしまったことがあります。とても痛かったです」
「そうか、痛かったよなぁ」
「はい」
「話は変わるけど、ブタノスケくん、学校の机や椅子なんかをカッターナイフで傷つけたことはあるか?」
「はい授業中に先生の話がつまらなかったので、つい机の上を、カッターで文字を彫って遊んでいたら、先生に凄く怒られました」
「そうだよね、そんなことをしたら先生から怒られるよね」
「うちのクラスの担任の先生、すごくしつこいんですよ!」
「それでブタノスケくんが指先を切った時の傷は今でも残っているかね」
「もう完全に治ってしまって、どこを切ったかも分かりません」
「では、そのブタノスケくんが傷つけた机の傷はどうなったかな」
「いまでも傷ついたままです」
「ブタノスケくん、とても不思議なことだと思わないかい。ブタノスケくんの指先の傷はきれいに治っているんだよね」
「言われてみれば、そうですよね。机は一度傷をつけたらそのままなのに、僕の指先の傷は自然に治ってくれるんですから」
「その『傷を治す力』こそ、ブタノスケくんの中にある大切な薬なんだよ。そのことはケガでも病気でも同じことなんだ」
「そういうことだったんですね」
「ブタノスケくんがブタクロ島で会った薬草作りの名人は、きっと本当に薬草を極めた達人なんだろう。その名人がお兄さんに甘酒を飲ませろと言ったのであれば、ブタノスケくん、早く甘酒を作ってお兄さんのところに持って行きなさい」
「はい、さっそく家に帰って作ってみます」
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