第4話 新型コブタワクチンの接種
それから一週間後に、トンキョウ大学病院で新型コブタ・ウイルスのワクチンの注射がはじまりました。トン太郎兄さんとトン次郎兄さんは、朝早くから病院の列に並んでワクチンの注射を受けることができました。
「頭が痛いよ〜」トン太郎兄さんが叫びました。
「足がしびれるぅ」トン次郎兄さんも叫びました。
びっくりしたブタノスケは急いで救急車を呼びました。
ふたりともブタ第一病院に緊急入院しましたが、トン太郎兄さんはその日のうちに亡くなってしまいました。またトン次郎兄さんも手と足のしびれが続いたため、病院のベッドの上でとても苦しみつづけました。
ブタノスケは泣きながら、ブタムラ医院のブタムラ先生をたずねました。
「どうしたんだ!ブタノスケくん。何があったんだ」
「ワクチンを打ったトン太郎兄さんが死んでしまったのです」
「なんだって!」
「トン次郎兄さんもワクチンを打った後に体がしびれて、ブタ第一病院に入院をしてしまったのです」
「それは大変だ。私をブタ第一病院に連れていきなさい」
ブタノスケが医師のブタムラ先生を連れてブタ第一病院の病室につくと、トン次郎兄さんがベッドの上で、もがき苦しんでいました。
「ブタムラ先生、ご無沙汰しております」と白衣を着たブタの医師が病室に入ってきました。
「おおブタサキ先生、お久しぶり!いまここの病院につとめていたのか」
「はい。先月から、この病院に勤務しています」
「やっぱり今回のワクチンは、いろいろと問題がありそうだね」
「はい。そうですね。今回のは天然のウイルスからではなく、遺伝子組換え技術で無理矢理つくったワクチンですから」
「それに、無理して短期間で開発したワクチンだから問題が多いんだろうね」
「そのようですね。うちの病院だけでも、ワクチンを打ったあとに救急車で運ばれてきたブタが23匹もいるんです。新型コブタ・ウイルスより、こっちのワクチンの方が怖いのかもしれませんね」
「それでワクチンをつくった製薬会社やトンキョウ大学の人たちは、なんて言っているのかな?」
「救急車で運ばれてきたブタたちはみな、ワクチンを打ってから24時間以内に症状が出ているのに、トンキョウ大学のヤマブタ教授や製薬会社は『ワクチンと患者の症状に因果関係は認められない』と言っているのです」
「ひどいじゃないか!そんなことを言っているのか」
「はい。症状が、ワクチンの影響による副反応だといえる明確な証拠はなかった、と言っています」
「責任を取りたくないだろうからね」
「本当に、ひどい話だと思います」
「それとトンキョウ大学のヤマブタ教授が『新型コブタ・ウイルスは無症状でも感染する病原体だ』と主張しているが、ブタサキ先生はどう思っている?」
「私も無症状者から本当にウイルスが感染するのか疑問に思って大学の恩師に聞いてみたんです」
「ブタフト教授か」
「はい、ブタフト先生から言わせると、ヤマブタ教授が書いた無症状者からウイルスが感染するという話についての論文は、コッホの四原則を満たしていない問題のある論文のようです」
「それでブタフト教授は無症状者から感染するという問題について、どのように話していたんだ」
「ごくごく、きわめてまれに、もしかしたらありうるかもしれないが、通常であれば無症状者から感染するということはないだろうと話していました」
「そうだよね、私もブタフト教授の考えの方が正しいと思うよ。どう考えたってウイルスが無症状者から感染するなんて話おかしいよなぁ」
「それでブタフト先生に『きわめてまれ』に無症状者から感染することがあるかもしれないとは、どういう場合が考えられるんですか、と聞いてみたんです」
「ブタフト教授は何と言っていた?」
「例えば、ウイルスに感染した人が、薬物によって無理やり症状を抑えているだけの状態であれば、一見無症状者に見えるから、無症状者から感染したように見えることがあるかもしれない、と言っていました」
「なるほどね、たしかに最近の薬には根本的な治療は何もできないで、ただ単に症状を抑えるだけの薬も、けっこう多くあるから、今回のような変な話になるのかもしれないね」
「私たち医師も、もっと薬の問題点と向き合っていかなければならないのかもしれませんね」
するとトン次郎兄さんが、また「ウ〜、ウ〜」と、うなり声をあげて、もがき苦しみだしました。
「ブタムラ先生、ブタサキ先生、どうかトン次郎兄さんを助けてください」とブタノスケが泣きながら頼み込みました。
「ブタサキ先生、なにか良い方法はないのだろうか」
「いろいろ試してみたのですが、今までにないワクチンの副作用なものですから、なかなか簡単ではないようです」
「たしかに遺伝子組換え物質を直接注射器で体内に入れるような愚かなことには前例がないからなぁ」
「そういえば、むかしハチブタ列島のブタクロ島というところに、どんな病気でも治せる薬草づくりの名人がいると聞いたことがあります。その名人に何か良い薬がないか相談をしたらどうでしょうか」
「ブタクロ島に、すごい薬草づくりの名人がいるという話は聞いたことはあるが、ここからブタクロ島に船で行くのは熟練の漁師でも難しいと言われているんだ」
「ぼくに、ブタクロ島に行く方法を教えてください」と突如ブタノスケが真剣な目をして言いました。
医師のブタムラ先生とブタサキ先生は少し困った顔をしました。
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