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四月を迎えてもコンビニの広い駐車場には雪が山積みになっていた。わたしの身長の四倍はあった。そのてっぺんまで登ろうと、固くなった雪に足を突き刺していく人がいた。通りを歩く人たちは彼を応援するが、毎度七合目あたりでひっくり返って落ちてくるのだった。観衆は一斉に彼を笑った。
その日は四日、大学で授業が始まるというから、ため息をついて、行ってみるかと四穂の家を出た。他の用のついででもあった。
春になったというにはいささか春に申し訳ない気がした。道ばたには寒さがじっと固まっていた。地表の一番寒くなるのがこの時期なのかもしれない。雪の溶けるうつろな熱が春の温度を凌駕するのだった。あるいは快晴のせいでもあった。雲のない夜空に熱が発散されるのだ。昼間差す光は役に立たない。たよりない白い色をして空の低いところをぐるっとまわって落ちていくだけだった。
それでも大学は当たり前のように動いていた。誰一人として異を唱えない。寒いから学校に行きたくないとは誰も口にしないのだ。二限の授業に出、学食でそばを食べ、図書館で新聞を読んだ。興味のあることは何一つ書かれていなかった。それから四限の授業に出た。教養のそれは結構人気の集まる授業らしくて、定員二百人の講義室に立ち見している人までいた。すこし遅れて講義室に入るとちょうど一番前の一番端の席が空いていたので、そこにすべりこんだ。となりの人はわたしに気づいていなかった。教壇にたつスーツ姿をじっと見つめていた。
雪は天からの手紙である。
壇上のサラリーマン風の講師はそういった。とくに脈絡もなくいったのか、それまでの前提に対する結論としていったのかよくわからない。しかし彼は真剣そのものに、まるで世界の真理を突き止めましたというように興奮して演説している。彼の話の進め方が上手いから、油断すると聴きいってしまう瞬間があるけれども、結局のところどうなのだろうとおもう。その心は。
九十分間でそのとんちをきくときはついに来なかった。あったとすれば、雪は天からの手紙である、この暗喩をはじめていった人がどこかのよくわからない偉いだれかだということだけだった。どうでもよかったので名前を覚えていない。講義室は人間の生臭さに満たされていた。
彼のうまい演説が終わって解放されると、大学西の洋菓子店によってケーキを三切れ買った。予約していたのを待っているあいだ自分の体のにおいをかいでいた。自分ではない誰かのにおいがした。不愉快だったが、ずっと嗅いでいた。
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