第17話

1時間目、2時間目、3時間目が平穏に終わり4時間目は家庭科で調理実習があり、家庭科室に向かった。

ホワイトボードには今日の実習の班について書かれてある紙が貼ってあった。胡桃とは別の班で、俺の班のメンバーは冬季と西園寺さん、小鳥遊だった。なんとも異様なメンバーが揃ってしまった……


「わぁ〜!奇遇ですね〜!」


「お、おう」


「秋さん、今日はよろしくお願いしますね!」


「なんで俺に任せるんだよ…」


「「よろしくお願いしますね!」」


反応しがたいセリフを言われ、俺は反応に困った……

西園寺さんと小鳥遊がそう同時に言うと、2人は顔を向き合わせ、うふふと言わんばかりの顔をしていた。

その光景を見ていた周りの生徒は俺の方を羨ましそうな目線を向けている人もいる中、恨みの目線を向ける人もいた。目立たずに学校生活を送りたかった人生だが、ここまで目立ってバレないのは逆に奇跡なのだろう。

目線を向けている生徒の中に、じっとこちらを睨みつけていた、陽キャ集団は殺す勢いでこちらを見てきた。

どうしよう……そう思い、その睨みを頑張って無視し、隣に座っている冬季に話しかけた。


「冬季、久しぶりだな」


「秋か、体育ぶりだな」


「実習頑張ろうぜ」


そう冬季に言い、先生の方を向いた。今日は、肉じゃがを作ると説明を受けた。肉じゃがか……肉じゃがと言えば家庭料理の定番だ。こう見えて料理は得意な方で家で自炊をすることだってある。最近は疲れることが多すぎて自炊する暇がない。そんなことをブツブツと考えながら先生の話を聞いていた。


「説明は以上となります。班ごとに順番で材料を取りに来てください。では、初めてください」


先生の合図で順番に材料や調理器具などを他の班が取りに行っていた。ようやく、自分の班が動けるようになり材料、調理器具をそれぞれ台に持ってきた。冬季は、先生から渡された肉じゃがの調理工程が書かれている紙をまじまじと見つめていた。問題の小鳥遊と西園寺さんはというと、何もせずに、俺が運んできた調理器具をやたらめったら触っており、終いにはこちらに包丁を向けるわと大変だった。

西園寺さんと話す前は誰からも親しまれ憧れの存在だと思っていたのだが、あの日が会って以来憧れの存在として見れなくなった……

つまりは小鳥遊と西園寺さんは……


──────同類だ


「2人とも、そろそろ初めてくれ」


「え?これってどう使うの?」


「えっとね、西園寺さんちょっと貸してみて」


そう小鳥遊が言うと、西園寺さんが持っていた包丁を手に取りまな板の上にある人参を振りかざし鈍い音がてる程に叩き切った。


「お、おい!危ないだろ!!」


冬季の方を見ると完全に萎縮し小鳥遊に怯えていた。


「お、おい?冬季?大丈夫か?」


「あ、あぁ。大丈夫だ…死ぬかもしれないと思ったが…」


俺も思った。


「あれ〜?おかしいなー」


「お前は包丁を持つな!!」


小鳥遊から包丁を取り上げると頬を膨らませていた。秋くんなんて知らないっ!プイ!みたいな反応をされたが俺はそれを無視した。


「若月くん…小鳥遊さんって凄いのね!」


「すごくない!」


ボケる人が2人いると疲れる……


「おい、そろそろ初める……ぞ?」


そう声をかけると、次はネイルの話をし始めた。我慢の限界で俺は言った。


「いい加減にしてくれ、西園寺さんも小鳥遊もしっかりしてくれ」


西園寺さんは声をかけたらすぐやめてくれたが、小鳥遊がなかなかやめてくれなくボディガードをやめようか真剣に悩んだ。そこに先生が来て一言二言注意をし、小鳥遊の自由時間が終わった。普通目立つ行動だか他の班は黙々と作業をしているのでこちらを見向きもせずに紙に書いてある工程を進めていた。多少談笑したりしているが手を止めていなかった。そんな中、俺たちの班はまだ、やっているどころか包丁さえ握っていなかった。


「俺と冬季がやるから2人は見ててくれ」


むしろそうしてないと、終わらない気がする……これまでの一連で冬季が俺の顔を見て驚いていた。こういうキャラだったのかという顔だ。大人しくいじられキャラとして通じていたのに小鳥遊と出会ってからは学校でも目立ってしまうことが多くなっている……自重しなければ…


「冬季、大丈夫か?」


「うん、大丈夫だよ」


それからは数十分かけて、肉じゃがを完成させた。その光景を見ていた小鳥遊と西園寺さんは目を光らせていた。







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