第10話

 俺は今、とんでもない問題に直面している。それは、胡桃をどうやって説得するかだ。


 あの件があった日以降、俺は胡桃に無視をされている。何とかして今の状況を変えなければ。


 俺はある考えを思いついた。プレゼントを送るという安易な考えだが、意外と効果があるのかもしれない。

 しかし、失敗すれば逆効果だ。


 そんなことを悩んでいてもキリがないから、プレゼントを送ることにした。


 今日は金曜日。プレゼントを買いに行くとしたら明日がいいだろう。

 いつも通り登校していると後ろから胡桃が歩いてきたが、いつも通り素通りだった。ちらっとこちらを見てきた気がするが気のせいだろう。


 胡桃の方をじっと見ていると後ろから小鳥遊がいつものように話しかけてきた。すると、顔に何かが飛んできたような感覚を覚えた。


「うわっ!」


「はは!秋さんが驚いたー!」


 俺は最近、小鳥遊に遊ばれている。何度もやめろと言っても聞く耳を持たない。


「やめろって何度も言ってるだろ?」


「ごめんなさーい」


「謝る気ないだろ」


 小鳥遊はテヘッと笑い、反省の色を全く見せなかった。


「ほら!秋さん!急がないと遅刻しちゃうよー!」


 小鳥遊はそう言って走っていった。


「まだ、時間あるだろ」


 1人でそう呟いて俺はゆっくり歩いて向かった。



 学校に着き、玄関で靴を履き替え教室に向かった。

いつも通り、小鳥遊は既に教室にいていつものグループにいた。

 俺は席に座り隣を見ると、そこにはいつもいる胡桃の姿がなかった。登校の時は胡桃がいたが学校には来ていなかった。


 結局、STが始まる時間まで来なかった。


 STが終わり授業が始まった。


 何も無い授業が終わり、今は昼休憩に入っている。胡桃に何かがあったのかと思いメールを送ったものの既読が一向につかない。

 ため息をつき、俺は自分の弁当を広げた。

 すると、座っていたベンチの後ろから小鳥遊が出てきた。


「わぁー!」


 俺は、小鳥遊の顔を伺うと何やら嬉しそうな顔をしていた。


「なんだよ」


「驚いた?」


 そう聞くと、ワクワクしたような顔になり返事を待っていた。その顔はまさに餌を待っている犬のような顔だった。


「全然」


 そう返すと、つまんないと言わんばかりの顔と態度で隣に座ってきた。


「秋さん、私たち屋上で2人っきりだね!」


 冗談混じりにそう言った。

 一般男性ならこれはもう、理性が保たれないが、俺は鋼の精神を持ち合わせている。


「何を期待してるんだ?」


 俺がそう言うと小鳥遊は何故か怒った顔で言ってきた。


「もう!秋さんのバカ!」


 ベンチから立ち、こちらを向いてきた。


「何をそんな怒ってんだよ!」


「怒ってない!わかんないならいいよ!」


「は?!俺とお前の関係はボディーガードだろ……」


 すると、小鳥遊の顔は怒っていたが何故かしゅんとしたような顔になりベンチに座り直した。


「そうだよね…私と秋さんの関係はあくまでボディーガード…それ以下でも以上でもないよね……」


「ど、どうしたんだよ…そんな顔して…」


 ふと、小鳥遊の顔を見ると目には涙が溜まっていた。


「ほんとにどうしたんだ…?」


「なんでもないよ…じゃあ、私先に戻ってるね…」


 笑顔で小鳥遊はそう言って静かに屋上を後にした。その笑顔はいつもと違い愛想笑いだった。



 何かまずいことを言ってしまったのでは無いかと心の中で考えたが思い当たらない。何故か腑に落ちなかった。


 俺は弁当をしまうために横に置いてある蓋を取ろうとすると、その近くには小鳥遊の弁当がぽつりと置いてあった。


 昼休憩が終わる頃、俺は小鳥遊の弁当を持って教室に戻った。


 小鳥遊に弁当を返すタイミングがなくそのまま5、6時間目が始まってしまった。


───数時間後



 今は放課後。教室の生徒が帰りの支度をしグラウンドからは運動部の声が聞こえてきた。



 小鳥遊に弁当を返そうと話しかけようとするも、陽キャ集団が周りにいるので話しかけれなかった。

すると、陽キャ集団と小鳥遊の方から会話が聞こえてきた。


「この後、カラオケ行かね?」


「いいねぇー!天音はどう?」


「あ〜私はいいよ!ちょっと落し物があって職員室行かなくちゃ!」


「じゃあ、また今度だね〜」


「なんだ〜つまんなーい」


「ごめんね。本当に」


「私たちは行くから落し物見つかるといいね」


「じゃーね!」


 会話を終えると小鳥遊はどこかに走って行った。

 小鳥遊の後を追うような形で俺もどこかに向かった。すると、小鳥遊が向かっていたのは屋上だった。屋上の扉を開けると何かを必死に探している小鳥遊の姿が見えた。


 俺は気づかれないように小鳥遊の肩に手を置いた。


「うわぁ!!」


 小鳥遊は幽霊を見たかのような声で驚いた。


「あ、秋さん!?どうしてここに……」


「探し物はこれか?」


 そう言って弁当を差し出すと、安心したような顔を見せた。


「どうして秋さんがこれを?」


「昼の時忘れていったろ?声をかけようにもタイミングがなくてな…ごめん」


「いいよ!お弁当届けてくれたんだから」


「あと、謝りたいことがあってな…その小鳥遊に酷いこと言っちゃって…」


「それはもう気にしないでください!私もちょっとやりすぎな感じはありましたから」


「そ、そうか…なら良かった」


「これからもボディーガードとして活躍してくださいね!」


「お、おう」


すると、小鳥遊のお腹からぎゅるると聞こえてきた。恥ずかしそうな顔をしながら出口まで走って向かった。

屋上の扉の前で小鳥遊は俺に向かってこう言った。


「昼ごはん食べてないからお腹なっちゃっただけだから!」


そう言って小鳥遊は屋上を後にした。










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