第9話

「ボディガード?そんなひょろひょろの体でか?」


 男は俺をバカにするかのような言い方で煽ってきた。

 ここは冷静に対処しよう。そうした方がきっと得策だろうと思い俺は男に話しかけた。


「何かあったのか知らないが女をいじめるのはやめよう」


「は?知らないなら首を突っ込むなよ」


そう言うと、男は俺を無視して小鳥遊を追うつもりだっただろうが、俺は道を塞いだ。


「言っただろ?俺はあいつのボディーガードだって。首を突っ込まざるおえないんだよ」


「ボディーガードねぇ〜」


 男はまた、俺をバカにするように鼻で笑った。いくら俺でも何度もバカにされては男として廃ると思い、こちらも煽りを入れてみた。


「お前は女なんか襲ってないで男でも襲ってきたらどうだ?」


 俺は笑いを交えて男を煽るようにそう言った。ただの偏見だったが、図星なのか凄い効果覿面で1度、怒った顔で睨むとこちらに歩み寄ってきた。

 男が1歩こちらに向かうと同時に後ろに引いていると背中に壁の感触を感じた。追い詰められた俺は逃げれないと悟りすぐさま、構えた。

 男は容赦なく顔を狙って殴ってきた。顔に傷が出来たらどうするんだよっ?!

 咄嗟に避けたが、まともに食らっていたら鼻が折れてしまいそうだ。


 男は、反撃の隙もなく無造作に殴りかかってきた。数秒間の猛攻は止まった。どうしたのかと思ったら今度は男が手を止め俺に話かけてきた。


「ボディーガードと言えるほど強くねーな」


 挑発するように俺をバカにしてきた。


「は?」


「お前は俺には勝てねぇよ」


 男はそう言って再び殴りかかってきた。俺だってあんなことを何回も言われたら腹が立ってしょうがない。

 数分、男の攻撃を避け、一瞬だが隙を作ることができた。反撃しようとしたとき、後ろから声が聞こえた。何度も声が聞こえてきた。何を言っているのか分からない。


 何度か聞いた後に、


「秋さーん!!」


 ハッキリとそう聞こえた。

 後ろを振り返るとそこには小鳥遊がいた。声の正体は彼女だった。

 小鳥遊の近くには先生が立っていてそれを見た男は面倒くさそうな顔をしながらその場を去った。


「なんで小鳥遊が?!」


 そう言っている内に男との距離はどんどんと遠くなっていた。

 慌てた表情で彼女は言った。


「助けるために決まってるでしょ!」


 小鳥遊が心配そうに見つめてきた。今まで、見たことの無い顔で反応に困る。

 後ろで立っていた先生がこちらに向かって小鳥遊と同様に心配そうな顔をして言ってきた。


「若月大丈夫か?」


「一応、大丈夫です……」


「そうか、なら良かった」


 先生は不安そうな顔をしたが、すぐに普段の顔に戻った。


「若月と小鳥遊は先に戻っててくれ。私は職員室にこのこと説明する」


「どうしてこうなったか聞かないんですか?」


「何やら事情があると思うがそういうのは面倒なんだ。先生失格だな」

 笑いながら言う姿を見て何故か俺はほっとした気分になった。この先生は生徒に人気と噂の先生だった。いい加減な所が気に入れられる理由なのかもな。


「じゃあ、職員室に行くから気をつけろよ」


「はい」


 俺は返事を返すと、先生は走って向かった。


「そういえば、胡桃はどうした?」


 そう言うと小鳥遊は怯えたように震えてこちらを向いた。


「忘れてた……」


 その言葉を聞いた瞬間にあることを思い出した。

 昔、胡桃と出かける約束をしていたが忘れてた怒られた記憶がある。


 小鳥遊の肩の上に手を置き俺は、真剣な眼差しを小鳥遊に向けた。


「小鳥遊、覚悟を決めないといけないかもしれない」


「な、なにそれ……」


 胡桃がいる屋上に俺らは急いで向かった。もうすぐ昼休憩が終わる時間だが、胡桃はいるのだろうか。

 そう考えるが、行かなくてはならないという使命感に駆られ俺は、屋上の扉の前に着いた。


「小鳥遊、覚悟を決めたか……?」


「う、うん……」


 ゆっくりと扉を開けると、ベンチに1人で座っている胡桃の姿が見えた。こちらに気づいたのか胡桃が歩み寄ってきた。すると、目の前に胡桃が止まった。凄い形相で。


「く、胡桃?落ち着いて聞いてく……」


 俺の言葉を遮るかのように前に詰めてきた。落ち着かせるために俺は必死に話しかけたが返事をしてくれない。


 胡桃の矛先は俺に留まらず小鳥遊にも及んだ。


 そして、胡桃は俺の耳に何かを言いに近くによった。


「覚えとけよ」


 胡桃はそう言って屋上を後にした。






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