第7話

 彼女の部屋に着いてしまった。


「じゃあ、後はよろしく頼むよ。もし娘に手を出したらどうなるか分かってるよね?」


「は、はい……」


 楽さんは階段を降りリビングに戻って行った。また、強制的に連れてこられてしまった。大人の押しには弱いようだ。知り合って数日の期間で男ならまだしも女子の部屋に入っていいものだろうか。小鳥遊はどう思っているのだろうか…そんなことを考えながらドアノブに手をかけ、扉を開けようとするが何故か手が動かなかった。

 犯罪を犯している訳ではないが何故か罪悪感が出てきそうだが、これは単なるお見舞いだけだ。一応、ノックだけはしておこう。

 コンコンっとノックをしたが返事がない。

 俺は勇気をだして、部屋に入るとそこには寝ている小鳥遊がいた。

 顔が赤く額には汗を書いていた。枕元には使ってあったであろう水とタオルがあり、タオルがベットの下に落ちていた。

 俺はタオルを拾い、バケツの水に入れ、おでこに乗せようとすると小鳥遊と目が合った。

 目が合った数秒は時が止まったような感覚を覚えた。数秒間じっと見つめてしまい俺はとっさに目を逸らした。


「えっ……なんで秋さんが?!」


 突然のことに小鳥遊は慌てて顔を隠した。


「わ、私今すっぴん……」


「大丈夫だよ。すっぴんでも十分可愛いから」


 気を使いそう言うと、小鳥遊の顔が赤くなり耳までもが赤くなった。しかし、真正面でこういうことを言うとさすがに恥ずかしい。小鳥遊は目尻に涙をうかばせ、布団に顔を押し付け恥ずかしさをかき消すように潜った。


「秋さんのバカ!なんでそんな恥ずかしいこと言えるの……」


「なんか言ったか?」


「なんでもない!」


 布団越しからでも聞こえるような大きさで言った。

 俺は先生から貰った手紙を机におき床に座った。小鳥遊が布団から顔を出して聞いてきた。


「なんで秋さんがここに?」


「あぁ、お見舞いをと思ってな」


「秋さんにしては気が利くじゃない」


「そこはありがとうでいいんだよ!」


「はいはい。私寝るからなにもしないでね」


「何もしねぇーよ!」


 数分経ったあと、寝息が聞こえ再び小鳥遊は眠りに着いた。おでこのタオルを交換し、帰るために床から立ち上がった。


 ―――すると


 小鳥遊が服を掴んで離さなかった。


「起きてるのか?」


 言葉をかけたが、一向に返事がない。起きるまでこのままにするか。

 ふと、小鳥遊の方から微かな声が聞こえてきた。

 俺は耳を澄ますと、何かもにょもにょと言っているが聞こえない。目には涙が溜まり、垂れていた。落ち着かせるために服を握っている手を握り返したら落ち着きを取り戻し、服を離した。


 再び、帰る支度をし部屋をでた。


「じゃあ、俺は帰るので天音さんに伝えといてください」


「若月くん。今日はありがとう」


 一礼をし、俺は小鳥遊の家を出ていった。


 自分の家に帰っていると、懐かしの公園があった。これから、家に帰ってもどうせ暇になるだろうと考えた俺は、近くのベンチに座った。

 この公園はよく、胡桃と遊んでいた場所だ。ベンチの隣には何も無かったが自動販売機があった。

 そこで、俺は飲み物を買って再び座った。

 俺は、さっきのことをふと思い出した。小鳥遊がなぜ泣いていたのか思いつかない。これはボディーガードをすることに関わっているのか?

 そんなことを考えながら飲み物を飲み干しゴミ箱に入れ、家に帰るために俺は出口へと向かって行った。


 考えてもしかたないし、いずれ分かるだろうと思い、これ以上考えないようにした。


 俺は公園を出ると、帽子とマスクとサングラスと季節には合わない格好をした、いかにも不審者と呼べる姿をした人が歩いていた。

 気になり、後をついて行くと小鳥遊の家に戻ってきた。

 カメラを向け、カシャッと写真を撮る音がした。

 まさか、小鳥遊はストーカーに苦しんでいるのか?

 そう思い、念の為に俺も写真を撮った。ボタンを押すと同時にカシャッと音を立ててしまい、気づかれた。


「だ、誰だ!?」


 俺は物陰に隠れ、息を殺し気配を感じさせないようにした。男は気づかれまいと思ったのか小鳥遊の家から走って逃げた。俺は止めていた息を再び再開した。後ちょっとで危うくバレるとこだった。


 その後、俺は家に帰り今までのことを整理した。


 小鳥遊がボディーガードを求めてきたのはストーカー被害を受けていたから。彼氏がいることを示せばストーカーをしてこないと思ったのか。この2択だ。


 そんなことを頭の中で考えていた。最近は考え事が多くて頭が痛くなる。


 風呂に入って、すぐ寝た。




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