第5話

「ここが小鳥遊の家なのか……?」


 俺は目の前にある光景に、腰が引けてしまっていた。 近所に豪邸があるのは知っていたが、それが同じクラスの人がこの家に住んでいることに俺は驚きを隠せずにいた。


「ここが私のお家です!でかいでしょ!」


「正直、びっくりした……」


 そう言うと小鳥遊は子供のようにえっへんと威張っていた。凄いだろと言わんばかりの表情に無邪気さを感じた。


「もし、良かったら家に入らない?」


「えっ……?」


 いきなりの申し出に俺は変な声を出してしまった。ボディーガードって言ってもあくまで学校内だけだろ?なのに、家に入っていいのか?まだ、知り合って間もないのにか?

 悩んでいると、豪邸の前の門が開かれ家の全貌が丸裸に見えた。庭がでかく、池があった。

 すると、家の玄関が開かれ黒服の男が4人、出てきて、もう1人その後ろにいた人が出てきた。あとから来た人はその他の人より何かオーラが違うような感じがした。


 こちらに向かって歩いてきた。だんだん近付くに連れて獲物を狙うかのような目でこちらを見てきた。

 俺は目を逸らした。


「あ!お父さん!」


 お父さん!?


「おぉ。天音帰ってきたのか」


 奥から出てきたのは小鳥遊の父親だった。

 こんな険しい顔の父親から美人な娘が生まれるとは。そう思っていると、小鳥遊の父親に声をかけられた。


「君が若月くんかね?」


「は、はい……」


 目を合わせられないほど怖い形相でこちらを見てきた。今にも逃げ出したいと思っているが、もしこの場を去ったらきっと恐ろしいことが起こる。

 すると、俺の緊張を解すように小鳥遊の父親が言ってきた。


「そんなに緊張しなくてもいい。ほら、出会いを記念して握手をしよう!」


 小鳥遊と同じでいかにもフレンドリーなお方だ。差し出された手を掴むとその手はとても固く分厚くて年相応の手をしていなかった。


「立ち話もなんだし家に入ってゆっくり話そう」


 小中は友達がいたが、家に招かれるほど仲のいい友達がおらず、羨ましいと思っていたが今、この瞬間俺は初めて家に招かれている。

 しかし、普通の家とは違く豪邸でしかも女子の家。

 さすがに、それは俺の理性が持たないと思い、丁重にお断りをさせてもらう。


「お誘いはありがたいのですが、家に入るのはちょっと……」


「えー。秋くん来てくれないの?」


 小鳥遊は頬を膨らませ、不満を募らせていた。すると、小鳥遊の父親はため息を着いた。


「そうか。なら仕方ないな」


「え、ちょっ、待ってー!」


 お父さんが手で何かを指示し、俺は黒服の人に連れ去られ、強制的に家に入ることになった。黒服の人に担がれ、家に入った。その景観は普通の人生では見られない光景だった。リビングのような部屋に運ばれ、椅子に座らされた。


「強引な真似をしてすまない」


「だ、大丈夫です……」


 俺は頭を下げた。正直に言うとすごい怖かった。周りを見渡す限りここはリビングだと思うが、俺の知っているリビングじゃなかった。大型テレビに部屋の4分の1を占めるほどのソファーが置いてあった。


「自己紹介がまだだったね。私の名前は小鳥遊楽だ。楽さんとでも、読んでくれ」


「若月秋です。わ、分かりました。楽さん」


自己紹介を終えたら、ここで働いているであろうメイドが紅茶を出してくれた。カップを持たずとも紅茶の匂いが分かるほど、匂いが強くきっと、高い紅茶だろうと思った。

 カップを持ち、紅茶を飲んだ。口に入れた瞬間、紅茶の風味と独特な香りが鼻をぬけた。


「これ、美味しいですね」


 そう言うと楽さんがふふっと笑った。その後、咳払いをし神妙な面持ちで話を始めた。


「君は天音のことをどう思う?」


 いきなりの質問に動揺を隠せずにいた。何故、そんなことを聞いてくるのだろうか。


「まぁ、友達思いの優しい人だなって思います」


 ここは無難に質問に返答をしよう。

 強引に頼んで来たんだけどなと思いながら俺は思ったがこの思いは胸に閉まっておいたほうが良さそうかもな。


「そうか。天音をそんなふうに思っているのか。君、娘の夫にならないか?」


「え……?」


 それを聞いた俺は戸惑い背中から汗が一気にでて、寒気を帯びるような感じがした。


「冗談だよ」


「そういう冗談はやめてくださいよ……」


 俺が言うと楽さんは大笑いをしていた。なんなんだこの人は……さすが小鳥遊の父親と言えるだろう。すると、楽さんは真剣な顔に切り替わり聞いてきた。


「ところで、君はバンド活動しているそうじゃないか」


「は、はい……」


「確か名前は……そうだ、「ブルー」だ」


 やっと思い出したかのようにスッキリしたような顔で言った。


「娘によく君のバンドのことを聞かされていてね」


「お父さん!?やめてよ!恥ずかしいじゃん!」


 後ろからきた、小鳥遊が聞いていたのか、顔を真っ赤にして声を張り上げた。学校生活では誰にでもクールな人なのに父親の前ではクールではないらしい。そのやり取りを見て笑っていた俺は小鳥遊に睨まれた。小鳥遊は怒ったように自分の部屋に戻って行った。


「騒がしい娘ですまない」


「いえ、大丈夫です...」


 俺が答えると、また真剣な顔に戻った。これから何かを言われるのが分かる。恐る恐る話を聞いた。


「さて、本題に入ろう」


 小鳥遊の父親はそう言った。

 真剣な表情のせいか、緊張してしまう。ユーモアが溢れる父親らしいが真剣な時は怖いのもいいお父さんである証拠なのかもしれない。


「何故、ボディーガードを引き受けてくれた?バンド活動も忙しいのに」


「バンド活動は今、休止中なんです。最近忙しくて学校に行けてないので。ボディーガードを引き受けたのは成り行きで………」


 話をにごらすと、「それは本当か?」という顔をした。


「成り行き?そんなことで?」


 ここで本当のここを話さないと大変なことになりそうだ。自分の本能を信じて言うことにした。


「話せば長くなります」


 俺は楽さんに全てを話した。娘の不甲斐なさに顔が真っ赤になっていた。


「娘がすまない。話を聞いて良かった」


「はは……」


「もし嫌なら辞退してもいいぞ。これはあいつがやったことだ」


「全然、大丈夫です。退屈せずにすみそうなので」


こう言っているが本音はあまり目立ちたくないと思っているが、本音と建前を使い分けるのも大事だ。


「そうか、それはよかった。これから、ボディーガード頼むぞ」


 そう言うと同時に頭を下げた。誰かに頭を下げてお願いされるとなんだか、小っ恥ずかしい。


「頭をあげてください!もちろん頑張ります!」


「ありがとう……話は以上だ。強引に入れてすまない。今度はちゃんとした形で招こう」


「ありがとうございます」


 俺は一礼をして、メイドのような人に連れられ玄関までやってきた。後ろからは小鳥遊と楽さんがいた。


「じゃあ、俺は帰ります。会えて嬉しかったです」


「あぁ、こちらもだ。娘を頼む」


 楽さんは頭を下げた。その姿勢は俺からも分かるかっこいい格好だった。


「はい。ところで、なんでボディーガードが必要なんですか?」


「直にわかると思うよ」


「そうですか。これからも、よろしくお願いします」


 元気よく返事をし、扉を開け出た。









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