第62話 久々のお出かけ

「カイン、準備出来たかしら?」


「エイシャ様、勿論出来ています」


「じゃぁいきましょうか。ガロン、お留守番お願いね」


「分かりましたぞ!」


 私たちはそうして何十年振りであろう街へと向かう準備をする。今日の私はワンピースにつばの長い帽子を被り若い娘のような装いをしている。カインはシャツを着崩したような着こなし。私たちは街の外で人気の無い所へと転移してきた。


何十年と来ていなかったけれど、街はそれほど変わらないように思う。


「カイン、この街って昔とあまり変わらないわね」


「そうですね。この街は景観を大事にしているのかもしれませんね」


 私たちは門番にギルドカードを提示して街に入る。賑やかな街並みはどことなく浮足立ってしまうわ。


「カイン、あれは何かしら?」


「今王都で流行っている腕輪だよ!お嬢さん、彼氏と買っていきな!二人で付けると絆が固く結ばれ末永く幸せになるんだ」


「1つ貰おう」


カインはそう言って財布を取り出し、腕輪をおじさんから受け取っている。


「あら、カイン。貴方は信じる方なの?」


「ええ。それにエイシャ様とお揃いの腕輪ですから」


「ふふっ。嬉しいわ」


 私はそう言って手を差し出し、カインに腕輪を付けてもらう。カインは上機嫌ね。それから私達は服屋へと歩き始める。昔とは違いどうやら女もズボンを履く人が増えているらしい。だが、男物とは違いレースや花飾りがふんだんに使われている。


私は何着かシンプルな服や靴、ズボンを見繕って買っていく。


「カインにはこれが似合いそうね」


「俺は何でもいいです」


 男物は今も昔も左程変わらないのね。私はカインの体に洋服を当てながら何着も買っていく。


「久々の買い物で疲れたわ。また食べ歩きというのをしてみたいわね」


「エイシャ様、人が多いですから手を繋ぎましょう」


 カインは手を繋ごうとしたけれど、私はそのまま腕に手を絡ませて歩く事にしたわ。甘い香りのする屋台や肉を焼いている屋台。賑やかだわ。私は早速果実水を買って歩きながら飲む。


「カイン、美味しいわ」


すると前から男達が私の持つ飲み物にぶつかってきた。


「おいっ!女。俺の服が濡れたじゃねぇか!どうしてくれるんだよ」


 ぶつかってきた男は私を脅すように大きな声で怒鳴っているわ。今にもカインが消してし まいそうね。私はカインの腕からそっと手を引き抜き、男に話しかける。


「あらあら、わざとぶつかってきたのは貴方ではなくて?」


すると男達は私を取り囲み始めた。


「嬢ちゃん、可愛い顔してんな。濡らした責任とってもらうぞ、付いてこい!」


「ふふっ、だそうよ?カイン。付いて行ってもいいかしら?」


「お戯れはお辞め下さい」


カインは丁寧に話す。


「なんだぁ?女を取られてメソメソ泣いていろや」


「ふふっ。面白いわカイン。私は何をされるのかしら?ちょっと付いて行ってみるわ」


 男たちはニヤニヤと笑いながら私を連れて貧民街の一室へと連れこんだ。カインは無言で後ろから付いてくる。


「嬢ちゃん、俺たちと仲良く遊ぼうや」


そう言うと、1人の男が乱暴に触れようとした時にピタリと止まった。


「あらあら。どうやって遊ぶのかしら?」


後ろの男たちも動けなくなった男を見て焦りだした。


「おい、どうしたんだ?」


動けなくなった男はバタリ倒れた。


「なぁんだ。つまらないわ。何か楽しい事が始まるのかと思ったのに」


 私は残りの男たちも興味を失い部屋を出ようとした時、残りの男たちが一斉に襲い掛かってきた。


……けれど、触れる事は叶わずそのままバタバタと倒れ込んでいった。


「エイシャ様、楽しかったですか?」


「つまらなかったわ。すぐ死んでしまうのだもの。……!!良いことを思いついたわ。この間、母から押し付けられた虫がいたわよね。あれの苗床に丁度いいわ」


 カインは何も言わず、どこからか黒い幼虫のような物を取り出し、冷たくなった男たちの口元に幼虫を乗せると、幼虫はモゴモゴと男たちの口の中に入っていった。


「ふふっ、楽しみね。今日はもういいわ。家に帰って様子を観察するわ」


そうして私達は家に帰り、虫達の羽化の様子を見守る事にした。

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