第61話 知りたい男 ヴィロ

 儂の名はヴィロ。昔から好奇心旺盛で探求する事が大好きで世界中を周り、様々な物を見て、手にしてきた。珍しい物を集めては売り、冒険譚を書いてその収入でまた冒険に出る。


そんな生活を繰り返していたが、貴族という身分でもあったため、いつまでもフラフラせずに所帯を持てと言われて仕方なく世界中を冒険する事を断念したのだ。


妻を娶り、子も生まれ、孫も生まれ、やがて妻が先だった。儂は幸せな人生を送っていると思う。だが、年老いた今、昔諦めた夢をまた見てみたいと思うようになっている。それは日増しに強くなっていくばかりだった。


貴族生活にも飽きた。体力も落ちて今からでは世界中を冒険する事は叶わないだろう。だが、見たこともない景色を見てみたい。


その思いで魔女の森へ向かった。



 扉をノックして出てきたのは1人の執事服を着た若い男。だが、長年の経験からか只者では無いことがわかる。案内されて入った部屋で待っていたのは目をレースで隠した魔女。


その美しさに驚きを隠せないが足元を見ると人間の足ではなく大蛇の尻尾がついている。これまた興味深い。


そして儂は魔女に願い出た。地底の魔物を見たいと。魔女殿は対価があれば望みを叶えてくれるという噂は本当だった。儂は若いころに採取した葉を魔女に渡すと対価として受け取ってくれた。カインという名の男は執事の服から鎧へと変化させ、地底へと連れて行ってくれるようだ。


忘れていたこの胸の高鳴り。


 魔女は杖を取り出し、床を突くと儂たちの足元に黒い穴のような空間が広がり、儂達は穴の中へと吸い込まれていった。


「目を開けても大丈夫だ」


 儂は吸い込まれた時に目をつぶっていたが、カインの声で目を開く。洞窟の中に居るようだが、思っていたより地底は明るかった。それが最初の儂の印象だ。地底にはある程度の文明があるのだろうか?


「ここからしばらく歩くが俺の傍から離れるな。地底の魔物は強い。離れれば即死だ」


「分かった」


 そうして儂はカインの後を付いていきながら細い道を歩いていると、広い空間へとたどり着いた。儂達がいるのは1メートル程の道。左側は崖のようになっていて下へと空間が広がっていた。そして唸り声や何かがぶつかるような音であったり、火柱が立ったりとその異様さに気づいた。


「シッ。静かに。音を立てるとあいつ等が襲ってくる」


 カインはそう言うと視線を崖下へと向けている。儂もそっと下へ視線を向けると、小さな魔物や何メートルもあるような大きな魔物。角の生えた物やドラゴンのような魔物がそこかしこに存在し、互いに攻撃している。


どうやら弱肉強食の世界のようだ。


 儂は初めて見た地底の魔物を無我夢中で持っていたメモ帳を取り出しひたすら書いていく。火を吹くものや水を出すもの様々な攻撃に見入ってしまう。地上の魔物はこれほど好戦的なものは少ないのではないだろうか。


 そして1つの火球が儂たちに向かって飛んできた。どうやらこの場所にいる儂達に気づいた魔物がいたようだった。カインはチッと舌打ちしている。


「見つかった。少し下がっていろ」


 そう儂に指示を出すと何処からか黒く光る剣を取り出し、襲ってきた魔物を切り始めた。なんということだ。カインは途轍もなく強かった。地底の魔物を瞬殺してしまうほどに。


「カイン、お主は強いのだな」


「今切ったのは強い魔物ではない。俺が敵わない相手もいるだろう。下がれ、どんどん来るぞ」


そう言うと襲ってくる敵を次々と切り刻んでいく。そして刻んだ後に燃やすようだ。


するとどうだろう、燃えカスだと思っていた物は魔石だった。赤黒く光る大小の魔石。中には黄色や緑色等も含まれてはいたが赤黒い色が殆どだった。カインは拾う事無く次々に魔物を倒してどれくらいったのか。数にして数百は倒していると思う。


次々と沸いて出てくる魔物にも驚くが、顔色1つ変えずに倒していくカインに目が離せなかった。


「おい、この魔石と爪や牙をいくつか持って帰れ。記念だ」


 カインはそう言って数個を儂に持たせてくれた。あとの魔石は魔法で一ヶ所に集め、マジックポーチのような袋に入れているようだった。それから少し儂たちは洞窟を進み、地底を探索した。


「そろそろいいだろう」


 カインはそう言うと、儂と一緒に転移呪文を唱え、元の魔女の家へと帰ってきた。儂は感動に包まれていた。


魔女にお礼を言ってすぐに従者と共に邸へと戻っていった。


この感動は何物にも変えることができない。


 急いで儂は記憶を辿り、紙に記していく。メモ帳では書ききれなかった物も含めて忘れてはいけない。


数日経った頃にようやく地底の魔物の事を書き終える事が出来た。この感動をやはり皆に伝えたい。そこから儂は何十年ぶりとなる冒険譚を書き綴った。出来上がった本は売れに売れたようだ。息子や孫も儂が地底へ行ったことに驚いていた。


そして烈火のごとく怒られ、いくなと心配された。まぁ仕方がないな。だが、叶うなら死ぬまでまた冒険の旅に出たい。


魔女殿なら叶えてくれるだろうか。

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