第59話 カインの帰還

「エイシャ様。ただ今戻りました」


「お帰りなさい。疲れたでしょう?」


私がそう言うとカインの緊張の糸が切れたように私に抱きついてきた。


「俺はエイシャ様に一日でも早く会えるように頑張りました」


私はそっとカインの柔らかな髪を撫でる。


「よく頑張ったわね」


「俺は、1度、いや10度じゃきかない位死にかけました」


「そうよね。過酷な修行だったでしょう。お祖母様はああ見えて特にスパルタだもの。今頃ジェットもお祖母様に扱かれているでしょうね」


「エイシャ様、ジェットとは?エキドナ様が連れて行った小さな子ですか?」


「ええ、そうよ。カインは小さな手のひらサイズの黒い毛玉みたいなジェットしか見た事が無かったわね。あの子をガロンが一生懸命に育てていたわ。


地底の魔物だけあって潜在能力は高そうなのよね。お祖母様は本当に面白い生き物を見つけてくるわ。さ、カイン。お風呂でさっぱりしてきなさいな。その間に食事の用意をしておくわ」


私はカインにお風呂を促している間にご飯の準備をする。きっとこの数年、まともな食事にありつけ無かったた思うわ。だって私が修行した時もそうだったし。


 そしてカインはお風呂の後、久しぶりのご馳走とワインを口にした。


「カイン、改めてお帰りなさい。お祖母様の修行はきつかったでしょう?魔力も桁違いにに跳ね上がっているわ。もう私は敵わないかも知れないわね」


「ご冗談を。これだけ修行して得られた物があったから思いますが、エイシャ様にはどうやっても敵わないですよ」


「ふふっ。どうかしらね。それはそうと、この間カーサスが国王に即位したそうよ。行ってみる?サーバルはカインに会いたいってずっと言っていたわ」


「エイシャ様が行くのであれば何処へでも」


「ふふっ。じゃ、久々に行ってみようかしら」




翌日、カインは黒騎士のような服を着ていた。


「あら、カイン。今日は騎士服なのね」


「ええ、たまには。エイシャ様の騎士でありたい」


「あらあら。さぁ、行くわ」


私は錫杖をトンと床につけるといつものように転移する。サーバルの私室へと転移する。サーバルはソファに座りながら書類に目を通していたようだ。


「サーバル久しぶりね。この間、カーサスに王位を譲ったのですって?カーサスは少しはマトモになったのかしら?」


私は話しながらサーバルの膝に座ろうとするが、カインがさっと私を横抱きにしてサーバルの向かい側のソファへと座った。


「もう、サーバルを揶揄えないじゃない」


「やはり魔女様は私を揶揄っていたのですね」


サーバルは興味が無さそうに言ってはいたが、私をお姫様抱っこをしている護衛をみて目を見開いている。


「も、もしや。ま、魔女様を抱いているのは父上ですか?」


「うふふっ。丁度修行が終わったのよね?カイン。そうそう、これは私からのお祝いよ」


私はそっと小箱をサーバルに渡す。


「魔女様、これは?」


「私特製の祝福の指輪よ?毒や呪いはもちろん病気にもならないし、ある程度の魔物なら避けて通る品物よ。魔力を込めたのは私だけれど、作ったのは私が見つけた職人なのよ。素敵な指輪でしょう?」


「俺には無いんですか?」


「あら、カインも欲しかったの?貴方は強いのだし要らないんじゃないかしら?」


「俺は自分の息子に嫉妬してしまいそうです。サーバル、久しぶりだな」


カインは私を膝に乗せて微笑んでいる。


「…父上。お久しぶりです。会いたかった。父上、もうこの国には戻られないのですか?父上が国をここまで繁栄させたと言っても過言ではありません。私では維持させる事しか出来なかった」


珍しくサーバルは辛そうな表情で弱音を吐いている。


「あらあら、サーバル。いつまでも子供みたいに甘えちゃ駄目よ?貴方は立派な王様だったじゃない。ね、カイン」


「そうですね。サーバル、お前はよくやった。心配しなくとも後はカーサスがなんとかするだろう。それに、俺はもう死んだ身だ。黙って国の行く末を見守るだけだ」


「父上…」


サーバルはカインにそう言われて少し表情が和らいだ。


「またカーサスを揶揄いにくるから安心して頂戴。ふふっ、また膝に乗ってお茶でもしようかしら」


「魔女様、それは困ります。従者達が毎回誤解しております」


「ふふっ、あら良いじゃない。わざわざ困らせているのよ?」


するとカインがピクリと反応する。


「…どういう事だ?サーバル」


「ち、父上!?私は被害者です。ま、魔女様っ!?」


珍しくサーバルが焦っているわ。


「ふふっ。カイン、これはただの遊びよ。嫉妬しているのね。さぁ、渡す物も渡したし、そろそろ帰りましょう?」


「ではまたな、サーバル」


 カインはそのまま私をお姫様抱っこで立ち上がる。私はヒラヒラと手を振り、そのまま家に転移する。




「カイン、久々の息子と会ってどうだったかしら?」


「人間だった頃は思うところはあったかも知れないですが、今は何とも思わないですね。感情も魔人となったのでしょうか。今も昔もエイシャ様に一筋なところは変わりませんが」


「あら、嬉しいわ。まぁ、精神も人間に比べて鋼よりも強くなったと思うわ。これからはずっと私のそばにいてね。カイン」


「ええ、もちろん」




ーーーーーーーーーーーー


ようやくカインがエイシャの元に帰ってこれました⭐︎

更新数短くてすみません。゚(゚´ω`゚)゚。

またお時間頂きます。

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